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【完結】夜の装飾品店へようこそ~魔法を使わない「ものづくり」は時代遅れですか?~  作者: スズシロ
3章

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贈り物は誰のため?

 秋の手仕事祭が始まり、リッカのブースにも早速新作を買い求める客がやってきた。


「おはようございます。作品を拝見しても宜しいでしょうか?」

「はい!是非お手に取ってご覧下さい」


 客は男性の一人客で新作のブローチを手に取りじっくりと眺めている。今回の新作「波間のブローチ」はメインストーンであるラリマーの色に合わせて薄い水色の身と白い蓋の箱に入っている。白い蓋には貝と星の絵柄のスタンプが金のインクで押されており、希望があればラッピング用にと水色と金のレースで出来たリボンも用意してあった。


「プレゼント用ですか?」


 悩む男性にリッカが声をかけると、男性は照れた様子で頷いた。


「彼女の誕生日プレゼントなんです。マリン系の物が好きなので蜃気楼通信(ミラージュ)で画像を見かけた時に良いなぁと思って……」

「そうなんですね!ありがとうございます」


 自分の作品を大切な人への贈り物として選んで貰えるのは嬉しい。それが新作となれば尚更だ。


「銀も良いけど、金の方が可愛いかなぁ」

「彼女さんが普段身に着けていらっしゃるアクセサリーって金と銀どちらの色が多いですか?」

「うーん」


 男性によると、男性の恋人は普段あまり装飾品を身に着けないタイプらしい。普段の服装もボーイッシュな物が多く、何となく気後れしてしまって今まで装飾品を贈ったことが無かったそうだ。


「全く身に着けない訳ではないんです。たまに小さな石が付いたピアスとか、石が一つだけ付いたネックレスをしているのは見かけるし……。

 でも僕的にはもうちょっと華があるものの方が彼女に似合うんじゃないかと思っていて、プレゼントしたら使ってくれるかなと」


(うーん……)


 返答に困ったリッカがコハルの方ちらりと見ると、同じことを考えているであろうコハルと目が合った。


(これ、ブローチを貰っても彼女さんが困るやつだよね……多分)


 男性の言う通りだとすると、男性の恋人はこのブローチを好むようなタイプではない。プレゼントをすれば男性に気を使って身に着けたりするかもしれないが、それで良いのだろうか。


「シンプルな物しか身に着けない理由って聞いたことありますか?」

「……そういえば、昔肩が凝りやすいからとか何とかって言っていたような気がします」

「なるほど。でしたらこのブローチはお止めになった方が良いかもしれませんね」

「えっ!どうしてですか?」

「恐らく彼女さんは重量のあるアクセサリーが苦手なんだと思います。大きめのネックレスって結構重量があって肩が凝るんですよね」

「そうなんですか?」

「はい。ピアスも大きい物だと重さが気になってしまうのかも。そう考えると銀製のブローチは重くて彼女さんのお気に召さないかなと思ったんです。サプライズで贈るご予定ですか?」

「一応その予定なのですが……」

「装飾品って結構好みが分かれるので、もし可能ならば一度彼女さんにさりげなく確認してから購入された方が喜ばれるかもしれません。『似合いそうなブローチを見つけたんだけどブローチって使う?』……みたいな感じで」

「……」


 男性は何やら考え込んでいる。


(怒らせちゃったらどうしよう)


 提案してはみたものの客の気分を害してしまったのではないかとリッカは不安になった。


「分かりました。ちょっと彼女と話してきます」


 暫く考えた後、男性は意を決したような表情でそう言うとリッカのブースを去って行った。


「せっかくの客だったのに良かったのか?」

「……はい。安い買い物ではないですし、お客様の話を聞く限りですとシンプルな装飾品を好む彼女さんみたいなので念の為確認しておいた方が良いのではないかと思ったんです」

「まぁ、好みじゃない装飾品を貰うと結構困るからな。特に恋人から貰ったとなると身に着けない訳には行かないだろうし」

「そうなんですよね。あのお客様も『渡せば身に着けてくれるだろうし』って言ってましたし」


 自分が抱いている自分のイメージと他人から見た自分のイメージは案外かけ離れている物である。それと同様に自分が似合うと思っている物と他人から似合っていると思われている物にも差がある場合が多いのだ。


 リッカは男性が「彼女に似合うと思って」「プレゼントしたら使ってくれる」と言っていたことが引っかかっていた。相手の女性からしたらそれは良いことなのだろうか。そう思うと売上を手放すことになったとしても余計なお節介だが一言言わずにはいられなかったのだ。男性とその恋人の話し合いが上手く行くよう祈るばかりだ。

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