表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】夜の装飾品店へようこそ~魔法を使わない「ものづくり」は時代遅れですか?~  作者: スズシロ
3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/117

二号店の事業内容

「あ、一点だけ良いですか?」


 リッカは宝石商の店との境界にある壁を指さして言った。


「もし可能なら宝石商さんとの店の間に穴を空けて通路を作りたいのですが」

「通路ですか」

「はい。互いに行き来出来た方がお客様も両方の店を見て回ることが出来ますし、石屋と彫金屋が繋がっていて損は無いかと」

「お互いにお客様を紹介しあえるという事ですね」

「そうです」


 例えばリッカの店に来た客が「オーダーをしたい」と言った時に宝石商の店の石を紹介する。または宝石商の店に来た客が「この石で装飾品を作りたい」と言った際にリッカの店を紹介するということがより気軽に出来るようになるのではないかとリッカは思った。


 いわゆる提携店というやつだ。宝石商の店ならば品質や真贋、ぼったくりの問題が無いので安心して客に紹介出来るし、大抵の石ならば揃っているので客の要望も叶えられるだろう。リッカも新しい客を得るチャンスがあって一石二鳥なのだ。


「確かにいい案ですね。うちの二号店の業務内容にも合っていますし」

「そう言えば……二号店って何をするお店なんでしたっけ」


 思い返せば二号店の詳しい内容をまだ聞いていなかった気がする。てっきり一号店と同じ宝石店だと思っていたのだが。


「二号店は装飾品と石の修理、魔工宝石の販売を中心とした店にしようと思っています」

「え!そうなんですか?」

「はい。と言ってもうちで修理するのではなく、コハルさんのような個人事業主へ委託する形になりますが」


 宝石商考えはこうだ。一号店は今まで通りルースのみの販売、二号店は装飾品と石の修理を中心に魔工宝石や職人が磨いたルース、魔工宝石などを扱う。店に職人が常駐するのではなく、依頼人の要望に合わせて修理する物に適した職人を紹介して仕事を依頼する形式だ。


 コハルの知り合いや宝石商の伝手で既に何人かフリーランスの石の研磨職人や魔工宝石の原型師に声をかけており、彼らを店と契約した「登録職人」として雇う予定だそうだ。


 職人達は各々の予定に合わせて仕事を得ることが出来、宝石商も常に多くの従業員を抱えずに済むので利のある話らしい。


「魔工宝石も扱うんですね」


 宝石の店は今まで天然宝石ばかり取り扱っていたので意外だ。


「先日話した通り、これから先いつまで天然の宝石が採れるか分からないので別の分野も開拓しておこうと思いまして。魔工宝石と言ってもただ安価な物を扱うのではなく、職人さんの一点物……いわゆる『原型』を販売しようと思っているんです」


 一般的に魔工宝石が安く流通しているのは一つの原型から大量に複製することが可能だからである。宝石商は複製が無い「原型」に価値を見出し職人の作品として売り出そうとしていた。


「魔工宝石の原型販売ですか。面白そうですね」

「ええ。市販品の魔工宝石は『傷も内包物も無い完璧な状態』が良しとされていますが、そこに拘らず職人さんが好きに作った魔工宝石って面白そうだと思いませんか?」

「確かにコハルさんが好き勝手作った石って言われたら気になるかもしれないです」

「でしょう。評価されないので企業に卸せないような作品にこそ商機があるような気がするのです」


 魔工宝石原型師は複数の企業と契約して仕事をしているフリーランスの職人が多いのでそこに参入する形になる。依頼をされた物ばかり作り続けるという特性上コハルのように本職とは別に趣味で自分の作品を作っている職人も多いようで、彼らに声をかけて委託形式で販売しようという考えだった。


「あ、あと上手く行ったら再生石も販売したいと考えています」

「そうなんですか?」

「はい。あれも減り続ける宝石の再利用方法としては面白いですし、宝石の修理を広める取っ掛かりにもなりそうなので取り扱ってみようと思いまして」


 再生石の技術を使用して破損してしまった宝石を修理する。ありそうでなかったサービスなので一定の需要があるのではないかと宝石商は踏んでいた。


 その取っ掛かりとしてまずは再生石を知って貰い、興味を持った客に宝石の修理や装飾品や宝飾品の修理について宣伝しようとしていた。


「確かに昔の希少な宝石を破損で捨ててしまうのは勿体ないですよね」

「そうなんです。今はもう採れない産地の物もありますし、出来る限りそういう石は後世に残してあげたいので」


 石の愛好家ならちょっとやそっとの破損で破棄したりはしないだろう。しかし造形魔法産の安価な宝飾品が出回った今、宝飾品は消耗品という考えが世間に浸透しつつあり「壊れたら捨てて新しいのを買えば良い、その方が安い」という空気が広がり始めているのだ。


 その考えがもっと一般的になってしまったら、現存している古い宝飾品や石はどうなってしまうのだろうか。古くてもう使えないから捨てる、そうなりかねない。


 そんな不憫な石や宝飾品を少しでも救うために「修理」の技術を確立し、認知度を高めて定着させる。宝石商の野望の一つでもあった。


「じゃあ、もしかして私……責任重大ですか?」


 コハルから受けた依頼を思い出したリッカ。再生石が愛好家にどう捉えられるか調査したいという依頼はまさに修理事業の試金石ということだ。


「そこまで気負わなくて大丈夫ですよ!ただ再生石がどう受け取られるかを見たいだけだと思うので。そこで得た意見はどんな意見であれこれからの糧になりますから」


 もしも否定的な意見が多かったとしても、それを今後の戦略に活かせばよいだけである。


「そうだと良いんですけど……」

「そう言えば、進捗は如何ですか?」

「原型を鋳造に出したので、あとは戻ってきた物を仕上げるだけです。再生石の魅力を上手く引き出せていれば良いんですけど」


 残りの行程もあと僅か。リッカに出来ることは全力で作品作りに取り組むことだけである。


「さて、話が長くなってしまいましたが店のレイアウトはこんな感じで大丈夫ですかね」

「はい!」

「分かりました。ではこのまま進めてしまいますね。内装についてのご相談はまたいずれさせて頂きます」


 今は魔法技術のお陰で家を建てるのも早いらしい。早くて年明け頃には建物が完成しているかもしれないと宝石商は言った。具体的な話をして想像が膨らみ、年を越すのが少し楽しみになったリッカだった。

作品を気に入って頂けた際は評価やブックマーク、感想などを頂けると励みになります。

このページの下部の☆を押すと評価することが可能です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ