新店舗の構想
手仕事祭まであと二か月を切った頃、参加者に向けて一枚の手紙が送られて来た。
『造形魔法の取り扱いについて』
というタイトルで始まったその手紙は例の事件を受けて今後造形魔法をどう扱っていくかという内容だった。手紙によると「造形魔法のみを使って製作・複製した作品は暫くの間販売禁止」「工程の一部としての使用は認める」というものだった。
(良かった……。これならアキさんも参加出来そう)
一律使用禁止になってもおかしくは無かったが、一部利用可能になったのを見るとある程度「造形魔法を製作に使いたい」と言う声が出たのだろう。あの事件以降手仕事と造形魔法に関する論争のような物が一部の職人の間で勃発し、運営にも様々な意見が寄せられたと聞いている。
職人達の間では賛否両論ありそうだが、結局運営の中では「一部使用可能」という落としどころに落ち着いたのだろう。
(というか、うちの再生石も危なかったよね……?)
再生石は宝石の粉末を造形魔法で再構成した物である。もしも造形魔法が全面使用禁止になれば展示すらも危うかったかもしれない。一度コハルにそのことを尋ねたのだが、「大丈夫だから進めてくれ」と言われたのを考えると、「黒き城」と運営との間で色々な話し合いが進められていたのかもしれない。
「工程の一部として」という表現が論争を呼びそうな気もするが、なにはともあれ選択肢の一つとして選ぶことが出来るようになったのは悪くないことなのではなかろうか。
「リッカさん、ちょっと良いですか?新店舗についてお話したいことがあるので手が空いていたらこちらに来て頂きたいのですが」
宝石商からそんな連絡が入ったのはお昼を少し過ぎた頃だった。
「分かりました」
作業を切り上げ宝石商の店へ行くと二階の応接室へ通された。応接室の机の上には図面が何枚か置いてある。
「お待たせしました」
紅茶が入ったティーポットとティーカップを持って宝石商が部屋に入って来た。
「実は先日購入した土地の立ち退きが終わりまして、そろそろ本格的に店内のレイアウトについて決めなければらなくて。リッカさんのお店と居住スペースについてのご要望をお聞かせ頂こうと思ってお呼びしたんです」
「おお……!」
あくまでも仮ですが、と言って差し出された図面を眺めると三階建ての建物の全容が見えてきた。まずは一階。広い店内を二つに区切って左側の店舗には宝石商の店が、右側の店舗にはリッカの店が入る形になっている。一緒の建物には入っているがあくまでも別テナントという形式だ。
二階は在庫と資材置き場、商談スペースとなる小さな応接間と従業員の休憩部屋を兼ねた調理スペースがある。どちらの店舗からも二階に上がれて商談スペースを共用出来る仕組みになっている。
三階はリッカと宝石商の居住スペース。二人しか入れないプライベート空間でリビングに大きなキッチン、大きなコレクションルームに二つの寝室と小さなサロンという趣味全開の作りだ。
「このサロンって何ですか?」
リッカは寝室の前に設置されている小さなサロンを指さす。
「ここは寝る前にのんびりお話したい時に使う場所として考えています。お気に入りの紅茶やティーポットなんかを置いておいてのんびり談話できるような場所があれば良いなと」
「なるほど。良いですね!」
サロンは二つの寝室に繋がっており、サロンを通じて互いに行き来出来るようになっている。寝室が二つあるのは急な同居に対する宝石商なりの配慮だろうか。プライベート空間があるのは嬉しい。
「リッカさんの店舗はどうでしょう」
リッカの店舗スペースは今の店と比べるとかなり大きい。リッカが製作をする作業スペースはもちろんロウ付け等で使える耐火ブースや水場も広めに作っており快適そうだ。
展示スペースも専用の棚や台を設置するらしく、今まで店に並べきれなかった作品も並べることが出来そうだった。
「作品を沢山展示出来るようになるのは嬉しいです。でもスペースが余っちゃいそうでちょっと不安ですね……」
壁に沿って棚を並べてもテナント内のスペースにはかなり余裕がある。スカスカになってしまっては見栄えが悪いし落ち着かない気もする。
「ふむ。何かスペースを埋められる物を考える必要がありそうですね」
「私の作業スペースを広めに取ってもまだ余裕がありますからね。でも大まかな配置はこれで大丈夫です」
棚や展示物は完成してから幾らでもレイアウトを変更できる。耐火ブースや水場など移動できない物の配置に問題が無かったのでそのまま進めてもらう事にした。
ついに新店舗づくりが始まります。一体どんなお店になるのでしょうか
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