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【完結】夜の装飾品店へようこそ~魔法を使わない「ものづくり」は時代遅れですか?~  作者: スズシロ
3章

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石の発注

「ラリマー出来たから送ったぞ」


 コハルから追加分のラリマーの発送連絡が来た。


「ありがとうございます!」

「オマケも入れておいたから楽しみにしておいてくれ」


 「オマケ」とは何と魅力的な響きなのだろう。届くのがちょっとだけ楽しみになる。


「そうそう、コハルさんに注文したい石があるんですけどご予定とか大丈夫ですか?」

「ああ、今の時期はイベントが少なくてそんなに忙しくないからな。石の研磨か?」

「はい。原石探しからお願いしたいのですが、アイオライトやタンザナイトのような藍色の石でネクタイピンに使えそうな大きさの石が欲しいんです」

「ネクタイピンか。珍しいな」

「実はトウカさんへのプレゼントなんです。最近藍色の石にハマっているみたいなのでネクタイピンに加工して贈ろうかなと」

「ふーん……。藍色の石ね。」


 コハルは何かを察したようだ。


「リッカ、なんで宝石商が藍色の石にハマったか分かるか?」

「え?」

「お前の目の色が藍色だからだと思うぞ」

「……え!」


 予想外の言葉に固まってしまったが、言われてみれば確かにリッカの瞳は藍色をしている。深い藍色なので日陰に居る時は分かりにくいが、日が当たると藍とも紫とも言えぬ色が表れるのだ。


「そういうことならスモーキークォーツもセットで使うのがおススメだぜ」

「スモーキークォーツですか?」

「ああ。宝石商の目の色ってあんな感じだろ。二つセットでネクタイピンに仕立てたら喜ぶと思うぜ」


 スモーキークォーツは煙水晶とも呼ばれる茶色味がかった水晶である。宝石商の灰色がかった目の色は確かにスモーキークォーツに近いかもしれない。


「喜んでくれますかね……?」

「お前の目の色と同じ石を集めてニヤニヤしてるんだぞ。宝石商とリッカの石をペアで使ったら絶対喜ぶタイプだと思うぜ」


(確かに、なんとなくそんな気もする……)


 仮に本当にそういう意図で藍色の石を集めているのだとしたら、何も言わずとも二つ並んだ石を見てすぐに意味を理解するだろう。そういう隠れされたメッセージも宝石商の心をくすぐるに違いないとコハルは自信ありげに言い切った。


「じゃあ、藍色系の石とスモーキークォーツの二点でお願いします」

「分かった。まずは良い原石が見つかったら連絡するぜ」


 コハルならば良い石を調達してくれるだろう。リッカは年末の夜市が終わったらいつものお礼も兼ねてネクタイピンを渡そうと考えていた。宝石商が普段使いそうな物で自分が作れる物と言えばネクタイピンくらいしか思いつかなかったからだ。


(良い石が見つかると良いな)


 まずはそこからである。


 通話を切った後転移便の配達時間までまだ余裕があったので、直接中継局にラリマーを受け取りに行くことにした。転移便はその名の通り転移魔法を利用した配達サービスで、自宅に専用の簡易装置がある場合は自宅に居ながらにして荷物の発送・受け取りが出来るとても便利なシステムである。簡易装置が無くても最寄りの基地局に行けば発送や受け取りが可能で、毎日一回配達もしてくれるので誰でも気軽に利用することが出来る。


 オカチマチの基地局でラリマーを受け取ったついでに複製に出していたブローチも回収する。これで貝のブローチを仕上げる準備が出来た。


「よし、頑張って仕上げるぞ」


 複製されて戻ってきたパーツの湯口を削り、粗い紙やすりで細かい傷を取って行く。テクスチャには触れないよう細心の注意を払いながらある程度綺麗になるまで磨いたらいよいよブローチ金具の取り付けだ。


 ブローチ金具のロウ付けは何度やっても慣れない。慎重に少しずつ進めていく。全てのパーツにブローチ金具を付け終わったら研磨機でロウ付けした際についた被膜を落とし、リューターを使って磨いていく。研磨剤で鏡面になるまで磨いたらいよいよ石留めだ。


 彫刻代にパーツを固定し一つ一つに石を留めていく。覆輪留めなのでバランス良く爪を倒して地金が均等に石を覆う用にしなければならないので注意が必要だ。


 石を留め終わったら爪の部分についた打痕をヤスリで削り取り整形する。再び鏡面になるまで磨いたらパールを接着してブローチ金具を取り付けたら完成だ。


「うん!良い感じ」


 組み立ててみると貝の存在感があって良い。今までにない「海」というコンセプトも悪くはないとリッカは思った。貝の上部から下部に渡って半円状に配置した星とヒトデもパールを交えたことによって華やかさが増している。


「あとはメッキをかければ完成!」


 メッキ屋にメッキの依頼を出してやっと製作がひと段落したリッカ。ブローチのパッケージやポスター作りなど、まだまだやることが山のようにあるので暫くは忙しい日々が続いたのだった。

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