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【完結】夜の装飾品店へようこそ~魔法を使わない「ものづくり」は時代遅れですか?~  作者: スズシロ
3章

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魔法の鍵

 ブローチの原型が鋳造を終えて戻ってきた。早速原型仕上げに入る。ざっと原型を確認したが今回も巣や欠けが無くて一安心だ。まずは湯口を削り取り綺麗に掃除する。そしてテクスチャが付いていない部分をヤスリと紙やすりを使って整えていく。


 ロウの状態でピカピカになるまで磨いていたとしても鋳造時にできる細かい傷や粗からは逃れられない。複製するとその傷まで一緒に複製されてしまうので複製型を作る前にピカピカに磨いておかなければならないのだ。


 今回は貝の部分にテクスチャを入れている。貝を紙やすりやヤスリで磨いてしまうと折角つけたテクスチャが削り取られてしまうので、貝の部分はバフで綺麗に磨く程度に収めた。


 石座の部分を確認する。内側と外側を綺麗に磨いてからラリマーがちゃんと収まるか試してみるとピッタリよりも少し大きめに仕上がっていた。


(複製時に縮むことを考えると丁度良いかも。良かった……)


 鋳造時にいくらか大きさが縮んでしまうためロウでの原型は大きめに作るのだが、思ったよりも縮まなかったり逆に縮みすぎてしまったりすることがある。地金の板を使って作るとピッタリに作れるのだがロウでの原型作りは運も絡んでくるのだ。


 傷を取るためにヘラをかけたりバフをかけたりしてなんとか原型が仕上がった。作品が大きくてパーツが複雑であればあるほど原型仕上げは大変だ。かと言って手を抜くと複製した後の仕上げに響くので手は抜けない。


 鋳造屋の営業時間に間に合ったのでその日のうちに複製型と複製を依頼することが出来て一安心だ。あとは残りの再生石の装飾品に使う原型を仕上げて、その原型を鋳造に出している間にラリマーの装飾品を完成させる。手仕事祭まで余裕があるので委託や蚤の市で減った在庫の補充も出来そうだ。


(我ながら何て計画的なペース配分なんだ……!)


 これだけ作品を作っているにも関わらず極めて順調に事が運んでいる。少しは腕が上がったのかもと自信が湧いて来た。


「残りの再生石は何に加工しようかな」


 引き出しから再生石を出して大きさを確認する。5ミリほどのラウンドカットが一つ、1センチほどのカボションカットが一つの計二種だ。


(ラウンドカットの石がペアだったらピアスに丁度良さそうなんだけど一個だからなぁ。どうしようか)


 アンティーク……ヴィンテージ……。この石に合いそうなモチーフが無いか頭を捻る。


(そう言えば、小さい頃に古い鍵を貰って宝箱に入れたりしてたっけ)


 幼い頃に使わなくなった鍵を貰って宝物のように大切にしていた時期があった。古びた鍵は不思議な力が使えそうな魅力があって、お菓子の缶で作った宝箱から出しては眺めた思い出がある。


「鍵、良いかも」


 そう言えば骨董市や蚤の市にも古い鍵を集めて売っているブースがあったような気がする。まさにアンティークそのものだ。


 そうと決まれば早速鍵のデザインを考えなければ。大きさ的にブローチかペンダントが良い。ブローチは新作で出すからペンダントにしよう。それこそ「魔法」が使えそうな鍵を作りたい。


(どんな扉でも開けられる鍵とか色々な場所へ繋がる扉を開けられる鍵とか……子供の頃はよくそんな想像をして遊んだっけ)


 幼き頃に夢見た魔法の鍵のデザインを思い出しながらスケッチブックに描き起す。最初はどうなることかと思ったがコハルからの課題も順調に進みつつあった。

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