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【完結】夜の装飾品店へようこそ~魔法を使わない「ものづくり」は時代遅れですか?~  作者: スズシロ
3章

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新たなアイデア

 アフタヌーンティーを食べ終えた二人はお土産として紅茶を購入することにした。紅茶はフレーバーごとに可愛らしいパッケージに入れられており手土産としても重宝されているらしい。林檎や柚子などフレーバーに合った水彩画が描かれている上品なパッケージを見ているとどれにしようか迷ってしまうが、今回は「オレンジとチョコレートの紅茶」と「いちごとラズベリーの紅茶」を購入した。


 夕飯まで時間があるので洋館を後にして倉庫群に向かう。倉庫群は望郷の港(ノスタルジア)の中心地にある飲食店や雑貨屋などが入った観光施設である。一年を通じてイベントが開催されており、秋のビアホールと冬の手仕事マルシェはとくに有名だ。


「ここのマルシェって雰囲気も良いし人気だから一度出てみたいんですけど、オカチマチの夜市があるから出られないんですよね」


 年末に開催される手仕事マルシェは倉庫群の中の一棟を貸し切って行われ、観光地の中心部というだけあって毎年かなり賑わっている。煉瓦造りの倉庫というシチュエーションと年末の雰囲気が相まって財布の紐が緩む客が多く売り上げも上々だという噂だ。


 出店者に好評なので一度は出てみたいと思いつつ、年末の一週間はオカチマチでの夜市に出なければならないのでその願いは叶わずにいた。


「オカチマチの夜市は付き合いみたいなところがありますからねぇ」

「毎年出ていて楽しみにして下さっている方も多いですし、他のイベントに出るのは難しいですよね」


 オカチマチの夜市が悪い訳ではない。夜市の時期が来ると年末だという実感が湧くし一年の終わりは夜市があってこそだ。しかしながらオカチマチに店を構える者は半ば強制参加状態となっており……。つまるところ毎年同じイベントではなくたまには違うイベントに出てみたいのだ。


 町の付き合いや常連客のことを考えるとなかなか難しい所ではあるが、他に好評なイベントがあるのに手をこまねいているのはちょっともどかしい。


「あ、可愛い」


 倉庫の中に入っている食材店で海の生き物やカモメを模したアイシングクッキーを見つけて足が止まる。イルカやカモメ、アシカなどの形にくりぬかれた大きめのクッキーがヒトデや波をあしらった台座型のクッキーの上に配置してある。クッキーにはアイシングで絵が描いてあり、一枚ずつ中身が見えるようにパッケージングされていた。


「こういうお菓子って自宅で作れないから特別感がありますよね」


 細かい部分まで丁寧に描かれたクッキーは作品と呼ぶのにふさわしく、贈り物用として陳列されているのも頷ける。プチギフトとして人気らしくクッキーと紅茶のギフトセットなども売られていた。


「今度作りましょうか?」

「え?」


 宝石商の口から出た言葉に耳を疑ったリッカだったが、日頃から料理の腕前を見ている身としては「確かにトウカなら作れるかもしれない」と思ってしまう。


「トウカさんって何でも作れるんですね」

「いえ、作ったことは無いのですが練習すれば作れるようになりそうだなと思いまして。何の柄をご希望ですか?」

「うーん、私達らしく宝石なんてどうでしょう」

「宝石ですか。良いですね」


 宝石のアイシングクッキー。なかなか可愛らしいのではないだろうか。色々なカットのクッキーを作って宝石の絵を散りばめたパッケージに梱包して販売したら愛好家にウケそうだ。例えばトルコ石を模したクッキーを作ってトルコ石の隣で売ったり、ルースとセットでギフトボックスを作っても面白い。自分が好きな宝石のクッキーがあったら思わず買ってしまう人は多いのではないだろうか。


「上手く行ったら年末の夜市で販売しましょう」


 宝石商のブースで売ったら確かに売れそうだ。夜市は飲食店もブースを出すのでクッキーを売るにはちょうどいい。夜市のお土産としても人気が出そうだし、子供のお小遣いで買える値段にすれば家族連れの集客も見込める。思わぬアイデアを得てリッカの想像以上に闘志を燃やす宝石商だった。

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