新たな道
「――ってことがあったんですよ」
お洒落カフェでパフェを食べながらひたすらアキの話を聞いていたリッカは情報過多で頭がパンクしそうになっていた。
「え?え?え?」
ナギサのお母さんが三女神の一人でナギサは神が造形魔法を広めるために作った子供でお父さんはその才能に嫉妬している?あまりにも現実離れした話にリッカの頭は混乱中だ。
「ごめんなさい、理解が追い付かないです」
「ですよね。私も正直信じられないですけど、でもあの技術を何年も見て来た人間としては妙に説得力があったというか……。確かに人間の技じゃなかったので」
「そういえば昔通話している時に言ってましたね」
「はい。その謎が解けてちょっとすっきりしたかも。まぁ、お父さんがあんな感じなのは困っちゃいますけど……」
血は繋がっていないと言うがあれは「親子」だとアキは思った。勿論悪い意味でだが。
「社長も思う所があったみたいで、今度昔の仲間とナギサさんの家に行ってみるって言っていました」
「なるほど。確かにちょっと心配ですよね」
「今後また暴走してイベントをめちゃくちゃにされたら困りますし」
それこそ次また何かが起きたら造形魔法は完全に出禁一直線だ。あの様子だと対策なしではまた問題を起こしそうなので社長がなんとかしてくれることを願うばかりだ。
「で、なんで『黒き城』を辞めるかもしれないんですか?」
話の主題を戻す。
「一連の出来事で色々と考えたのですが、私はやっぱり手仕事が好きなんです。確かに造形魔法の方が上手く作れるけど、一つ一つ手で作業をして物を作ることに憧れていたし実際楽しくて。
社長も昔は手仕事をしていて今も職人個人の創作活動を応援して下さっていますが、先の件で手仕事が淘汰されていくことを否定しなかったのを見て私の居場所はここではないかもしれないと……」
「なるほど……」
手仕事を手放して造形魔法を選んだ社長と造形魔法を学びつつも手仕事を選んだアキ。「黒き城」が行う造形魔法と複製魔法による量産が今の手仕事を取り巻く状況を生み出す一因になっているのは確かで、先日の件で余計それを意識せざるを得なくなってしまったのかもしれない。
「今すぐには無理ですけど、年末にかけて色々と準備をして転職かフリーで活動できるようにしようと思っています。会社を辞めると寮を出なければならないのがつらい所ですが、幸いコハルが一緒に住んでも良いと言ってくれているので何とかなりそうです」
郊外に佇むコハルの一軒家を思い出す。確かにあの家ならば二人暮らしでも不自由しないだろう。
「アキさんがそう決めたなら応援しますよ!私にできることがあれば言ってくださいね」
「ありがとうございます。私、師匠に出会わなかったら一生夢を叶えられなかったと思うんです。だから師匠には感謝してもしきれなくて」
手仕事を諦めて入った造形魔法の道。コハルがリッカに引き合わせなければずっと造形魔法一本の人生だっただろう。そして一歩間違えれば評価や名誉を求めるあまり自分もナギサ親子のようになっていたかもしれない。今の自分があるのは再び彫金と縁を結んでくれたリッカやコハルが居たからだと今回の件を通して改めて感じたのだ。
「本当ありがとうございました」
そう言って恥ずかしそうにはにかむアキを見て思い切って誘って良かったとリッカは思った。リッカの工房で楽しそうに目を輝かせながら作業をするアキの姿を思い出す。手仕事を心から愛するアキの夢を叶える一助になるならば、出来るだけ力になってあげようと思ったリッカだった。
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