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【完結】夜の装飾品店へようこそ~魔法を使わない「ものづくり」は時代遅れですか?~  作者: スズシロ
3章

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造形魔法が生まれた日

 「黒き城(シャトー・ノワール)」の社長がナギサの父親に師事をしていた頃、父親は妻と二人で彫金職人として店を構えていた。まだ若かった社長はそこで一通りの彫金の技術を学び、ある日ナギサの母親が開発したという「魔法」の存在を教えられたのだった。


 当時「魔法」はまだ世間に存在を知られておらず、初めて見る「魔法」に社長は衝撃を受けた。材料があればそれを自在に変化させどんな形の作品でも作る事が出来る。しかも失敗してもやり直しが出来る素晴らしい技術だ。目の前で液体のように溶けあっという間に形を変えていく銀の塊を見て「素晴らしい」と震えた。


 ナギサの母親は美しい人だった。長いプラチナブロンドの髪に金と青が溶けたような不思議な目の色をしていて異国から渡って来たらしい。彼女には不思議な力があり、「物を自在に変形させる魔法」もその一つだ。


『造形魔法を広めたい』


 夫妻の願いを聞いて弟子たちは一つ返事で受け入れた。職人は新しい技術に目が無い。この魔法が広まれば創作活動の幅が増えるに違いないと感じたからだ。魔法をより良いものとするために試行錯誤を重ね、ついに完成したそれを「造形魔法」と名付けた。


『出来れば妻が造形魔法を発明した事を表に出したくないんだ。何か良い案は無いだろうか』


 魔法の出所が分かれば技術を求めて人が殺到しかねない。ナギサの父親の願いを汲み、弟子たちは各々が会社を作り作品を通して造形魔法の存在を広めていくことにした。


 造形魔法が完成した頃には「魔法」の存在が人々の間に認知され始め、他の生活魔法を使った魔道具が市場に出回り始めていたので複数の会社で合同発表すれば出所を探られることもないだろうと判断したのだ。


 巷に神殿が立ち始め、「三女神」が「魔法」という技術をもたらしたと言われるようになったのはその頃である。噂を聞いた社長は自分に造形魔法を教えた師匠の妻こそが技術の女神「リディア」であると確信した。異国から渡って来た不思議な力を持つ女性は「女神」と呼ぶにふさわしいと感じたのだ。


 何より、彼女が使う「造形魔法」は異質だった。職人が造形魔法を使って作った物には大なり小なり「魔力」と呼ばれる力の残滓が残る。力を使った人間の指紋のようなものだ。しかしナギサの母親が造形魔法を使っても残滓が全く残らないのだ。その上作品は傷やずれが一つも無い完璧な物が出来上がる。


(まさに神の御業だ)


 人離れした美貌だけではない、畏れのような何かを感じることさえあった。


 弟子たちが工房を離れる日、ナギサの父親は「ありがとう」と頭を下げた。


『造形魔法が形になったのは君たちのお陰だ。これで悩みを解決出来る職人も増えるだろう』


 弟子たちの会社が発表した「造形魔法」により製作された宝飾品は業界に衝撃を与えた。今までの手作業では到底作れなかった緻密なデザインに何度でも作り直せる利便性はあっという間に職人達を虜にし、技術を広めるために行われた講習会には人が殺到した。


 造形のツールの一つとして話題になり原型製作の補助として取り入れるようになった職人が増えた頃、複製魔法という新たな技術が登場し造形魔法の立ち位置が大きく変わった。


 複製魔法による大量生産が可能となり、製作を助ける補助ツールから原型製作そのもの手段として使われるようになったのだ。適正のある職人が使えば手作業の製作よりもずっと早く、正確に、緻密な原型が出来上がる。その頃には魔工宝石も開発され、石留めまで行われた完璧な状態で作品を完成させることが出来るようになっていた。


 「黒き城(シャトー・ノワール)」はその手法をいち早く取り入れ、原型製作から複製までのすべてを魔法で賄うスタイルを確立し、大量生産による低価格化で宝飾品を一気に身近な物に押し上げたのだった。


「私は、造形魔法を広めることによって宝飾品が人々にとって身近な物になって嬉しかったのです。街中で自分の作品を身に着けている人を見ると心が温かくなるでしょう。

 しかし、時間が経つにつれて彫金や手仕事を『時代遅れの技法』だと揶揄する声が現れたのは想定外でした」

「……想定外も何もその『女神様』はそれが目的だったんじゃないのか?」

「え?」

「新しい技術が出れば古い技術が使われなくなるものだろ。特に初めから造形魔法を習った人間は彫金を習わないから造形魔法が広まれば広まる程下の世代で手仕事を知る人間は減って行くのは当然のことだ。

 女神様はそれを承知で造形魔法を広めようとしていたし、社長だって分かっていたことなんじゃないのか。分かっていた上で新しい技術に絆されすぎて前が見えなくなってたってところか?」

「……」


 社長ははっとしたような顔をして黙り込んでしまう。


「いずれにせよ、造形魔法はもう十分広まっただろ。今手仕事をしている職人は造形魔法の便利さを十分知った上で手仕事を選んだ人間だ。造形魔法への転向を強制させるのは宜しくないぜ」

「何故分からないんだ!」


 ナギサの父親は声を荒げる。


「ナギサの作品を見ても何も思わないのか?ナギサは造形魔法の事を誰よりも理解している。あの作品を見て造形魔法を使いたくならない職人は居ないはずなんだ。なのに……」

「確かに、彼女の作品は完璧で美しくて素晴らしいです。コンテストだっていつも1位だし、素晴らしい賞だって沢山受賞していて凄いなって思います。でも、作品の良さは上手い下手じゃない。どれだけ正確に出来ているか、綺麗に出来ているかじゃない。

 あなただって昔は手仕事で作っていたんでしょう?どうして分からないんですか?」


 業を煮やしたアキが父親に詰め寄ると、父親は苦笑いをしてうつむいた。


「分かるよ、痛いほどね。だからこそどんなに努力しても手に入らなかった緻密で正確で美しい作品を作る事が出来る造形魔法の素晴らしさが良く分かるんだ。君が言うようにそれが『全てじゃない』ならどうしてナギサはいつも1位で君は2位なんだい?」

「……はぁ?」

「ナギサが作る作品のようにあるべきなんだ。コンテストだっていつもナギサの作品が一番評価されていたし、名だたる賞だって数えきれないほど与えられているだろう。世の中が造形魔法を求め、認めている証だ。

 彼女は『造形魔法に愛され愛するように作られた』完璧な存在なんだ。まさに造形魔法の申し子と言っても良い」

「何言って……」


 アキは父親の言葉を聞いてはっとする。「造形魔法に愛され愛するように作られた」完璧な存在?確かに彼女の作品は「魔力」の残滓が感じられない位完璧で美しい。


「もしかしてと思っていましたが、彼女はリディア様が()()()()()()()()なのですか?」


 社長が恐る恐る問いかけると、ナギサの父親は押し黙った。そして数分間の沈黙の後、


「血は繋がっていないが、リディアが造形魔法を広める為に作った大事な子だ」


 とつぶやいた。

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