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【完結】夜の装飾品店へようこそ~魔法を使わない「ものづくり」は時代遅れですか?~  作者: スズシロ
3章

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アンティークジュエリー

「ところで、コハルさんからの依頼は順調ですか?」


 思い出話がひと段落した所で宝石商が話題を切り替える。


「あ、はい。なんとなく方向性はまとまってきましたね」

「今回はどのような装飾品に加工するんですか?」

「アンティークジュエリー風に仕立てようかと」

「ほう、アンティークジュエリーですか」


 アンティークジュエリー。作られてから長い年月を経たジュエリーの総称で、今や聞く機会も少なくなった遺物である。造形魔法で簡単に美しい装飾品が手に入るようになった今、代々大切に受け継がれてきた物や愛好家が集めた物以外はほぼ現存していないのではないかと言われている。


 価値観の変化故か古い物を軽視する風潮が生まれ、淘汰されつつあるジャンルだ。何せ消耗品のように宝飾品や装飾品を身に着ける時代だ。古くなったり壊れたりしたらほとんど処分されてしまう。複製魔法で作られた装飾品は「アンティーク」と呼ばれるまで残る事は少ないのではないだろうか。


「再生石はコハルさんがかつて使われていた古い技法で作った石です。そこからヒントを得て石を留める装飾品も歴史を感じるような雰囲気にしたら面白いんじゃないかなと思いまして」

「まるでタイムスリップしたような作品になりそうですね」

「はい。流石に経年劣化までは再現出来ないので燻してそれっぽく見せようかと」

「おお、良いですね。『古美(ふるび)』仕上げですか」


「燻し」とは彫金の技法の一つで薬品を使って意図的に化学反応を引き起こし黒い色味にする方法である。メッキをかけていないシルバー製品を放置していると黒く変色してしまうことがあると思うのだが、それを意図的に引き起こして経年変化をしたように見せかけたり黒染めしたりする手法だ。


「古い装飾品をコンセプトにすることでアンティークが好きなお客様に足を止めて貰えればコハルさんが仰っていた『石の修理』についての意見も聞けるかもしれませんし」

「確かにアンティーク調の作品に興味がある方ならば古い時代の作品をお持ちかもしれませんね」

「そうなんです。コハルさんから『修理』の話を聞いた時に実現出来たら素敵だなと思って。大切にしていたのに壊れて身に着けられなくなってしまった物や捨てざるを得なかった物って結構あると思うんですよね。金具が壊れたら修理出来るけど石が壊れたらどうにもならないし。

 でももしそれを直す事が出来るようになれば悲しい思いをしなくて済む人が増えると思うので、今回のコハルさんの挑戦には協力したいんです」


 宝飾品や装飾品が消耗品になってしまった今だからこそ、「大切にしたい」という想いがこもった品を捨ててしまうのは勿体ない。それらは一度失われてしまえば二度と作られることは無いのだから。


「なるほど。今回の再生石が良い足掛かりになると良いですね」

「はい!まずは再生石を上手くアピールして手に取って頂く所からですけど……」

「新しい物を最初から受け入れてもらうのは難しいかもしれませんが、地道に取り組めば絶対に足を止めてくれる方は居ると思いますよ。私に何かできることがあれば言ってくださいね」

「ありがとうございます」


(私は一人じゃない)


 新しい事への挑戦は不安で一杯だ。特に今回は自分にとっても客にとっても未知の領域である。製作を進める上で迷う事や分からない事も出てくるだろうが、そういう時に頼れる人が出来たのは心強い。何としても再生石の装飾品を形にして見せると誓ったリッカだった。


* * * * *


『彼女の了承を貰いました。この前提案して頂いたデザインでお願いします』


 というメッセージが届いたのは男性客と打ち合わせをしてから数日後のことだった。


(よし、これで完成させられる)


 客の了承を得たらあとは指輪に模様を彫って行くだけだ。失敗の出来ない一発勝負なので集中して取り組みたい。指輪を彫刻台に固定し、タガネで彫りを入れていく。


 まずはペンで下書きをして大体の位置を決め、中央に配置する五光から彫って行くことにした。女性客の五光は石のようにキラキラ輝くよう大き目に彫る。最初はタガネを倒して力を抜いて打ち込み、だんだんと力を込めながら彫る事によって三角状の彫り跡が出来る。それを星の形になるように五つ彫るのだ。


 星が出来たら星形のくぼみになっている部分の外側に光を表す細い線を入れて中央の装飾は完成だ。あとは五光の左右に短い唐草模様を彫れば彫りの作業は終了する 女性客の分が終わったら男性客の指輪も五光を小さめに変更した上で同じように彫り、無事にオーダー品が完成した。


(あとはメッキをかけるだけだけど、保護魔法がかけられる魔導メッキも提案してみようかな)


 折角のペアリング、しかもオーダーメイドである。長く使えるよう保護魔法をかけられる魔導メッキのオプションも提案してみよう。販売する作品に魔導メッキを取り入れるのは初めてなので客の反応も見てみたい。勿論、この指輪に付与魔法を使うか確認をした上での提案になるが。完成した指輪の立体画像データを作り男性客に送信する。


『指輪が完成致しました。あとはメッキ加工のみなのですが、通常のメッキ加工の他に魔導メッキでの加工も可能です。魔導メッキは造形魔法を使ったメッキ方法で、オプションで保護魔法をかけることが出来るので長く綺麗にお使いになる場合はおすすめです。

 しかしお客様が指輪に付与魔法をお使いになる場合は魔導メッキですと付与魔法に干渉してしまう可能性があり、通常のメッキ加工の方がおすすめです。ご検討宜しくお願い致します』


 リッカ自身イヤーカフに魔導メッキをかけているが、保護魔法で劣化が抑えられているのでメッキが剥げなくて気に入っている。「無垢の装飾品」には使えないが、物は使いようだ。


 さて、オーダー品がほぼ完成したので申し込み済みの蚤の市の準備に取り掛かる。今回は新作は作らず手元の在庫のみを持って行く予定だ。しばらく大きなイベントにしか出ていなかったので久しぶりにホームグラウンドに帰って来たような感じがして少し楽しみだ。


(そうだ、せっかくだし蜃気楼通信(ミラージュ)で宣伝してみようかな)


 設定が良く分からないので後で宝石商に聞こう、とリッカは思ったのだった。

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