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【完結】夜の装飾品店へようこそ~魔法を使わない「ものづくり」は時代遅れですか?~  作者: スズシロ
3章

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偶然は必然

「リッカちゃん聞いたよ。宝石屋のトウカくんと付き合ってるんだって?」


 蚤の市の申し込みに行くといつも受付対応をしてくれる中年男性にニコニコしながら話しかけられた。


「えっ?なんで知ってるんですか?」

「トウカくんが嬉しそうに話してくれたよ。いやぁ、良かったねぇ」


(なんかこのパターンどこかで……)


 確かコハルも「宝石屋が嬉しそうに話していた」と言っていた気がする。「もしかして思っている以上に話が広まっているのでは?」とリッカは嫌な予感がした。


「実は僕ね、リッカちゃんのことが心配だったのよ。あまり知り合いも居ないこの町に来てずっと頑張ってたでしょ。トウカくんもずっとリッカちゃんのことを心配していてね。だから二人が一緒になって本当に良かったよ。おじさん安心した」

「あはは……。ご心配をおかけしていたみたいですみません。って、トウカさんが心配?私のことを?」

「うん。リッカちゃんがオカチマチに来て蚤の市に出始めた頃かな。見慣れない子が居るって話になって『身一つでオカチマチに来たみたい』って話をしたら凄く心配そうな顔をしてね。

 ある時から『様子を見に行ってる』って話を時々していたから気にかけてるんだなぁと思ったのよ」

「そうだったんですね」


 オカチマチに来てすぐというとまだ宝石商と出会っていない頃の話だ。そんな昔から認知されていたという事実にリッカは驚愕した。宝石商と出会ったのは石の即売会でたまたまリッカがブースに立ち寄ったから……のはずなのだが、もしかして心配してくれていたから即売会以来店に様子を見に来てくれていたのだろうか。


(……でも、一歩間違えたらストーカーなのでは?)


 気にかけてくれていたのは嬉しい反面なんだかモヤモヤとするリッカだった。


「トウカさんって、私と出会う前から私の事を知っていたんですか?」


 夕飯時、宝石商の私室で持ち寄った手料理を食べながらリッカは突然切り出した。気になるのならば聞いてしまえと思ったのだ。


「知っていましたよ。その話、誰に聞いたんですか?」


 さも当たり前のような顔をして答える宝石商。


「不動産屋のおじさまです」

「ああ。彼もリッカさんのことを相当心配していましたからね。心配仲間と言えば良いのでしょうか」

「心配仲間……」

「今のご時世『時代遅れの技法』を携えてわざわざ一人でオカチマチに引っ越してくる若い女性なんてそうそう居ませんからね。そりゃあ心配されますよ」


 確かにリッカが引っ越してきてから新たに越してきた若者は見たことが無い。手仕事市だってリッカが「若い」世代でアキのような学生はほとんど見ない。もしかして自分が思っている以上に「古い時代の技法」になりつつあるのかもしれない。


「じゃあやっぱり私がトウカさんのブースに初めて立ち寄った時、トウカさんは私の事を知っていたんですね」

「はい」


 リッカがオカチマチに引っ越す前から通っていた即売会。ある時通路を歩いていた際にとても美しいオパールを並べる店を見つけて立ち寄ったところ、そこの店主と話が合い連絡先を交換したのが二人の出会いだった。


「知っていたというか、不動産屋のおじさまからリッカさんが『オパールが凄く好き』という情報を頂いていたので噂に聞いていた『オパールを買い集めている女の子』と同一人物かも……と思いまして」

「私ってそんなに噂になってるんですか……?」

「あんなに熱心に買い集めていたら業者の話題にも上りますよ。もしかしてと思って選りすぐりのオパールを並べたら本当にいらっしゃるとは思いませんでしたけど」

「え!もしかしてあれって罠だったんですか!」

「ふふふ。まぁ、良いお客さんになってくれそうだなと思いましたし」


 宝石商の思惑通りのこのこと現れたリッカはその後まんまと常連客となり宝石商からオパールを買い付けることになってしまった。元々宝石商は客の好みに合わせた石を集めるのが上手い商売人として評判だった。その評判通りの勘と腕だったということだ。

やられた、と思う一方でその「罠」にかからなければ今は無いと思うと複雑な心境である。


「まぁ、あれ以来トウカさんにはイベントを手伝って頂いたり色々とお世話になりましたし大目に見ましょう」

「ありがとうございます」


 実際宝石商は店番や店の宣伝をしてくれたりと伝手が無かったリッカにとっては無くてならない存在だった。オパールに良い縁を結んでもらったと思うと不思議と悪い気はしない。人生何があるか分からないものだと思ったリッカだった。


オパールと不動産屋のおじさまが結んだ縁でした。

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