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【完結】夜の装飾品店へようこそ~魔法を使わない「ものづくり」は時代遅れですか?~  作者: スズシロ
3章

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再生石の売り込み方法

 蜃気楼通信(ミラージュ)の練習をしつつオーダーを受けたペアリングの製作を始める。客との摺り合わせは彫りのデザインのみなので指輪自体は作ってしまっても問題が無いのだ。


 平打ちなので棒銀をローラーで引いて少し幅を出した銀の板を採寸したサイズ通りに叩いて曲げる。途中途中でなましながら叩いて丸く形を整えたら余分な部分は切り落としロウ付けする。あとはヤスリや紙やすりで磨けば素体の完成だ。


『お姉さん達みたいなのも素敵だなと思って』


 彫りのデザインをどうするか考えているとオーダーしてくれた男性の言葉を思い出す。自分がペアで作ったイヤーカフがまさかそんな風に見えていたなんて。いや、確かに「ペア?」とは思ったが。


(まさか、トウカさんは最初からそのつもりで……?)


 そう考えるとなんだか恥ずかしくなって悶々としながら紙に思いついたデザインを描き起こしていく。「シンプルだけど飾り気があるところが素敵」だと客が言っていたのでそれを汲めるような図案が良い。目指すはあまり派手過ぎないが華のあるデザインだ。いくつか図案を書いたのち、それを記録板で記録して蜃気楼通信(ミラージュ)に移してデータを作成した。宝石商と練習した技である。指輪も計測して立体画像を作り、デザイン画に同封する。


「よし」


 準備が整ったので作成したデータを蜃気楼通信(ミラージュ)で送信する。相手が蜃気楼通信(ミラージュ)の魔道具を音声通信と同期してあれば音声通信の連絡先を使ってそのまま送信出来るのだ。


『先日ご依頼頂いたペアリングですが、本体はこのような形で作ってみました。また、彫りのデザインをいくつか考えてみたので宜しければご覧下さい』


 短いメッセージを添えて客に送信する。今この瞬間に客の手元に届いているなんて便利過ぎるとリッカは思った。あとは客からの返信を待つだけだ。


 客から返事がくるまでの間にコハルから依頼された「再生石」の装飾品作りに取り組む。まずは客に対して「再生石」をどうアピールして行くかを考えなければならない。


(天然石でもなく完全な魔工宝石でもない、ルースの欠片から作られた再生石かぁ)


 同じ値段を出すとして「質が高い石」を求めるならば魔工宝石を買うだろうし「天然物」に拘るならば天然石を買うだろう。果たしてそこに再生石が入り込む隙間はあるのだろうか。発想としては面白いが、実際に販売の選択肢として考えるとなかなか難しそうだ。


 可能性があるならば再生石に付加価値をつけることか。素材として売り込むのではなく再生石という存在そのものに価値をつける。例えば……


(物語性……か)


 再生石となるまでに粉末や欠片たちが辿ったストーリーを売りにする。どういう場所で取れた石がどういう過程を経て一つにまとまり目の前にある再生石となったのか。


 あるいは「不要物の寄せ集め」ではなく零れ落ちた宝石の雫を集めた特別な石、なんてコンセプトをつけてもロマンティックで素敵かもしれない。


 いずれにしても天然物と魔工宝石とは異なった視点からアピールしていく必要がある。


(何かコンセプトをつけるならシンプルではなく思い切ったデザインにしないと)


 石の良さを生かすだけではなく魅力を引き出すようなデザインが好ましい。再生石の元となった石達の歴史を感じるような……


(……歴史)


 リッカはふと何か思いついたような顔をしてデザイン画を描く手を止める。


(そう言えば、コハルさんは『再生石をもう使われなくなった技法を基に作っている』って言ってたっけ)


 そして本棚からなにやら本を取り出すと熱心に調べ物を始めたのだった。

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