蜃気楼通信専門店
次の日、二人の姿は魔道具の専門街にある蜃気楼通信専門店にあった。音声通信魔法の店のように見本品が陳列されており、どのタイプの魔道具を購入するか悩んでいる。
「蜃気楼通信ってこんなに種類があるんですね……」
ずらっと並べられた大小様々な魔道具を眺めながらリッカは呟く。音声通信魔法は自前の魔道具に付与出来るが蜃気楼通信は魔法の複雑性により既に組み立てられた専用の魔道具を購入する必要があるのだ。
「人によって必要な機能が違いますからねぇ。リッカさんの場合は送受信が出来る物を選びましょう」
「え?送受信できない物もあるんですか?」
「情報だけ得たい人は受信のみの物を選んだりしているみたいですよ。機能が少ない分値段が安いんです」
自分で発信はしないけれど気に入ったブランドの情報は見たい、という若者は大体受信専用タイプを購入するらしい。このタイプは比較的安く手に入るので若年層でも入手しやすく、蜃気楼通信の普及の一因になっている。
「私は送受信タイプだからこれ……ですか?」
リッカは送受信タイプの展示スペースの前にある四角い箱のような魔道具を指さす。1㎝ほどの厚みがある四角い物体で上面がガラス張りになっており、中に入っている魔工宝石が見える。
「そうですね。リッカさんが扱うのは小物中心なので小さめの物でいいと思います」
「大きさによって何か違いがあるんですか?」
「表示させられる大きさですね。中に仕込まれている魔工宝石の大きさによって表示する際の倍率が変わるので、例えば路面電車のような大きなものを実寸大で表示しようと思えばそれ相応の大きさの魔道具が必要になります。
逆にアクセサリーのような小物や書類一枚程度ならここに展示されている物で十分賄えますよ」
展示スペースには板状の物や持ち運びしやすいようにネックレスやキーホルダーに加工された物など多種多様な魔道具が展示されている。
「例えば家で使ったり机の上に置いて使いたい場合は箱型や板型の物がおススメです。持ち運びをしたり出先で情報を見るだけならばネックレスタイプやキーホルダー系でも良いかもしれません」
「トウカさんはどのタイプを使っているんですか?」
「私は両方併用していますね。店には置き型の物を用意してありますし、仕入れや展示会に行く時は持ち運び出来るタイプの物を使っています。まぁ、置き型も保護魔法を付けていますし小型の物なら持ち運び出来るので心配ないですよ」
「なるほど」
改めて用途を考えてみる。まずはオーダーのデザインや仕上がりのやり取りだ。これは自宅の中で完結するので置き型で十分対応出来るだろう。出先で使う可能性としてはイベントの宣伝だが、お品書きの配信は家で行うが開催中にリアルタイムで配信するならば持ち運びタイプがあると便利そうな気もする。ただ実際に使ってみないと使い勝手が分からないので何とも言えない。
「とりあえず今回は置き型を使ってみて、足りないようでしたら持ち運びタイプを購入したらいかがですか?」
悩むリッカに宝石商が助け舟を出す。
「そうですね。まずは使う事に慣れないと……」
結局小型の置き型タイプを購入し、しばらく使ってみることにした。
「蜃気楼通信のご利用は初めてですか?」
「はい」
購入時に店員から使い方の説明を受ける。店員はリッカが購入した魔道具にリッカの情報を登録すると見本を使いながら使い方を教えてくれた。
「基本的な使用方法ですが、送信する場合は送信モードを起動して送りたい物に魔道具の側面から出る光を当てて下さい。計測魔法で自動的に立体画像が作られるので、それを送りたい方に送信すれば完了です。もちろん平面の物は平面のまま送られるのでご安心ください。記録板をお持ちの場合は同期させて使用することも可能です。試しに何か計測してみますか?」
リッカが魔道具を起動させると「送信」「受信」の文字が浮かび上がる。「送信」の文字に触れると「計測モード発動中」という文字に変化し、試しに持っていたハンカチに光を当てるとハンカチが淡い光に包まれ、「計測完了」という通知と共に魔道具の上にハンカチの立体画像が現れた。基本的に音声通信魔法と同じように登録した持ち主にしか見えないので安心だ。
「これが蜃気楼通信……」
浮かび上がる立体画像は指でくるくると回す事が出来、端末によって限度は異なるが拡大や縮小も可能だ。
(面白い)
これならば指輪の形そのものを客に見せることが出来そうだ。
「音声通信魔法をお使いでしたら連絡先を同期することが出来ますがいかがなさいますか?」
「お願いします」
音声通信の魔道具と蜃気楼通信の魔道具を同期してもらい、とりあえず蜃気楼通信を使えるようになった。
「いよいよ蜃気楼通信デビューですね」
店を出て、小さな袋を大事そうに抱えるリッカに宝石商が言う。
「ついにデビューしちゃいました。これから使い方を練習しないと……」
「送受信の他にもいろいろとツールがありますからね。今度改めて教えますよ」
「ありがとうございます」
何事も焦らず小さな一歩から。まずは導入という一歩を踏み出したリッカ。蜃気楼通信を使いこなすまでにはまだまだ時間が必要だ。
ついに蜃気楼通信を導入したリッカ。新しい技術を取り入れるのってなかなか勇気がいりますよね。
これによりリッカの創作活動がどう変化していくのか……。お楽しみに。
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