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【完結】夜の装飾品店へようこそ~魔法を使わない「ものづくり」は時代遅れですか?~  作者: スズシロ
3章

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ちょっとした相談

「そういえば春の手仕事祭の時の件、大丈夫だったんですか?」


 出されたケーキを頬張りながらリッカはコハルに気になっていたことを尋ねた。あれ以来アキとは音信不通なので心配していたのだ。


「あー、あれな」


 苦々しい顔をしてコハルは答える。


「結局『新星社』は出禁になって、造形魔法を引き入れた『黒き城(シャトー・ノワール)』にもクレームが来てな。流石に他社のせいで評判を落とされたんで社長がナギサの両親に苦情を入れたんだ。

 そうしたらナギサの父親が社長に謝りに来て頭を下げてたよ。詳しくは言えないが親バカと言うか……、元々手仕事畑の人間らしいが娘可愛さに目が曇っているのか分からんが、『娘は造形魔法を広めるためにしたから分かってくれ』と言い張ってアキがキレてたな」

「えぇ……」

「流石に社長も怒ってたぞ。あれじゃあ広めるどころか逆効果だって。事実、手仕事界隈での心象は最悪だ。しばらくイベント参加は厳しいだろうな」

「アキさんは大丈夫なんですか?」


 心配なのはアキだ。ようやくブランドの方向性が掴めた矢先にイベント参加が出来なくなるなんて不運過ぎる。


「んー……、まぁ落ち込んではいるが仕事はしているようだぜ。悪いが今度声をかけてやってくれ」

「分かりました」


 アキが受けたショックは想像に難くない。今度お茶にでも誘ってみようとリッカは思った。


 次のメインイベントを秋の手仕事祭に定め、それまでは小さな蚤の市への出店や委託販売で食いつなぐことにした。春の手仕事市で受けたオーダーやコハルからの依頼もある。イベント続きだったので少しのんびりしようと思ったのだ。


 ますは期限を切ってあるペアリングのオーダーに取り掛かる。素材は銀で平打ち、彫りを入れてメッキをかける仕様だ。指輪自体は卒なくこなせそうだが問題は彫りだ。彫の模様を依頼主と相談しながら決めたいのだが、手紙でやり取りするのは時間と手間がかかる。


(これは……ついにあれを導入する時が来たのかもしれない……)


 夕飯時、それとなく宝石商に相談してみようと思った。


 ナゴヤから帰って以来、リッカと宝石商は予定が空いている日に夕飯を共にするようになっていた。お互い食材を持ち寄ったり外食をしたり、一日の終わりにその日あった出来事を共有し合うのはなんだかんだ言って楽しい。


 リッカの手料理は作業の合間にぱっと食べられるものが多いのに対し、宝石商は手が込んだ物を作るので初めて食べた時に驚愕した。


 この日はリッカの工房で食事を取ることになっており、互いに持ち寄ったおかずをつまみながらその日あった出来事を報告しあったのだった。


「ほう……トウカさんにご相談があるんですけど」


 名前で呼んで欲しいという宝石商の要望を受け呼び方を修正中のリッカ。長い間「宝石商」と呼んでいたのでなかなか慣れない。


「何でしょう」

「実は蜃気楼通信(ミラージュ)を導入したいと思っていて」

「なんと!まさかリッカさんの方から興味を持って頂けるとは!」


 最新の魔道具に興味が無いリッカが自分から蜃気楼通信(ミラージュ)の導入を申し出たことに宝石商は驚いた様子だ。


「この前受けたオーダーのデザインをお客様と擦り合わせる時にあったら便利かなと思いまして……」

「なるほど。確かに蜃気楼通信(ミラージュ)ならデザインを直接見て頂けますからね」

「そうなんです。変更点があってもリアルタイムで修正して確認をして頂けるのでお客様に割いて頂く時間も少なくなるかなと」

「ふむふむ。分かりました。丁度明日は休みなので良かったら買いに行きましょうか」

「ありがとうございます!」


 一人で買いに行っても右も左も分からない状態なので既に導入している人が付いてきてくれると心強い。二人は翌日魔道具の専門街へ出掛けることにした。

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