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【完結】夜の装飾品店へようこそ~魔法を使わない「ものづくり」は時代遅れですか?~  作者: スズシロ
2章

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音声通信魔法

 オカチマチの隣にある魔道具専門街。沢山の装飾品や魔道具が並ぶとある店の窓口にリッカと宝石商はやってきていた。店内では老若男女様々な客が品定めをしている。


「あのー……ここって……」

「音声通信魔法を付与してくれるお店ですよ。リッカさん持ってないでしょ」


 時を遡る事1時間、自分が作った作品を「これはリッカさんの分」だと言われて混乱しているリッカは宝石商に連れられて魔道具専門街へ来ていた。オカチマチの隣にあるこの魔道具専門街は完成品から部品まで魔道具に関するありとあらゆる物が揃う街として有名で、様々な魔道具店の支店が置かれているのだった。


 訳も分からぬうちにとある店に連れてこられたリッカは店内での受付を済ませ、今は順番が来るのを待っている状態だ。


「実はコハルさんから相談がありまして。先日リッカさんの音声通信の連絡先を聞かれたのですが、『持ってない』と言うと大変驚かれて。『商売しているなら音声通信魔法の魔道具位持っておけ』とご立腹で、私に見繕うようお達しがあったのです」

「なるほど……」

「で、私も新調したかったので一緒に作ってしまおうと思いまして」


 宝石商はそう言ってネクタイピンを指さす。どうやらネクタイピンに魔法を付与して使っているようだ。


「音声通信、いつかは導入しなきゃと思っていたんですけど……実際オカチマチに居ると使わなくても生きていけるので先延ばしにしていたんですよね」

「オカチマチに居る分には直接お店を行き来すれば事足りますからねー」

「そうなんです。鋳造屋さんやメッキ屋さんに歩いて行ってもそんなに時間がかからないですし、お客様とのやり取りも手紙が多いですし」


 オカチマチから離れた場所に住んでいるコハルやアキにとっては信じられない話だが、リッカの生活圏ではあまり音声通信を使っている人間がいない。直接やり取りをする仕事相手は皆徒歩圏内なので無くても生活出来るのだ。


 ただ急な来訪時の連絡や確認事項があった際にあれば便利だなとは感じていたので、ついに音声通信魔法を使う時が来たのかとリッカは悟った。


 音声通信魔法システムは蜃気楼通信(ミラージュ)よりも世間に普及しており、任意の魔道具に通信魔法を付与する事により離れた場所にいる人間同士で通話が出来るシステムだ。街中にあるショップに付与をしたい魔道具を持って行くとその場で魔法を付与して貰えて手軽に導入する事が出来るのでシステムの登場から間を置くことなく爆発的に普及したのだった。


「お待たせいたしました」



 リッカ達の順番が来て窓口へ案内される。宝石商が魔法の移し替えと新規での付与をしたいと伝えてイヤーカフを渡す。どうやら窓口にいる店員は皆魔法付与の技師らしい。


 まず宝石商のネクタイピンからイヤーカフへ魔法の書き換えを行う。両手をそれぞれの上にかざすとネクタイピンとイヤーカフが淡い光を帯び、ネクタイピンからイヤーカフへと細かい光の粒子が移動するのが見えた。短い間の出来事だったが、これで情報の書き換えは終わりらしい。


 次にもう一つのイヤーカフに魔法の付与が行われる。店員が手をかざすとイヤーカフの周りに光の渦が出来、イヤーカフに吸収される形で収まった。


「ご新規のお客様、こちらの魔道具を一度起動して頂いても宜しいでしょうか」

「は、はい!」


 店員に促されるままイヤーカフに触れると一瞬熱を感じ、イヤーカフから光の粒子が放出された。


「これでお客様の情報登録が完了しました。紛失された場合でもお客様以外の方は利用出来ませんのでご安心ください」


 どうやら保護魔法がついているようだ。連絡先が他に漏れる心配が無いのは安心だ。


「音声通信魔法のご利用は初めてですか?」

「はい」

「では、ご利用方法を説明致しますね」


 店員は見本用の魔道具を取り出すとリッカの目の前に置いた。


「まず起動方法ですが、触れずに『利用したい』と心の中で念じるだけで起動できます。お客様の場合はアクセサリーですので身に着けた状態で念じて頂ければ両手に荷物を持っていても起動可能です。次にシステムのご利用方法です」


 店員が魔道具を起動させると魔道具の上に音符の形をした光が浮かび上がる。


「こちらのマークが表示されていれば正常に起動出来ている状態です。連絡する相手を登録する必要があり、登録されている相手の情報が自動で表示されます。こちらはお客様ご自身にしか見えないのでご安心下さい」

「試しにやってみたらどうですか」


 横から宝石商が言うと店員は「その方が分かりやすいかと存じます」と返した。まずは試しに宝石商の連作先を登録する。リッカはイヤーカフを耳に装着し魔法を起動させた。すると目の前に「登録情報なし」という文字が浮かび上がる。


「私の魔道具に手をかざしてリッカさんの情報を登録して下さい」


 言われた通りに手をかざすとイヤーカフが淡く光る。宝石商が何やら操作するとリッカの目の前に浮かんだ文字が変化した。


『トウカ』


「誰です?この人」

「え?私の名前ですけど」

「え?」

「え?」


 二人は思わず顔を見合わせる。そう言えばずっと「宝石商さん」と読んでいたので名前の存在を忘れていた。


「昔名刺を渡しましたよね?」

「そうでしたっけ……」


 大分昔の事だ。あるはずの記憶を手繰る。


「まぁ、その話は置いておいて。私の名前を選択してください」

「そ、そうですね!」


 「トウカ」の文字に触れると文字が弾けて音符のマークが現れ、


「「どうですか?」」


 という声が耳元から聞こえた。


「うわ、こんな風に聞こえるんですね」


 耳元で直に声が聞こえるのでなんだかこそば痒い。


「慣れれば気にならなくなりますよ。使い方はこんな感じです」


 通話を切ると目の前の音符が消え、イヤーカフの上に浮かんでいた音符のマークも消滅した。


「以上が使い方の説明になりますが、ご質問はございますか?」

「いえ。ありがとうございます」


 店員にお礼を良い店を後にする。これが音声通信魔法。まさか自分の装飾品を媒介にする事になるとは思わなかったが、イベントなど遠隔地に出た際に重宝することになりそうだ。


「あ、そうだ」


 リッカはふと思いだしたように足を止める。


「折角魔法をかけたのでついでに魔導メッキもかけてみたいのですが、どうですか?」

「魔導メッキですか。良いですね」

「オカチマチに帰ったら寄って帰りましょう」


 丁度試してみたかったし、とリッカは心の中で呟いた。

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