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【完結】夜の装飾品店へようこそ~魔法を使わない「ものづくり」は時代遅れですか?~  作者: スズシロ
2章

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イヤーカフの制作

 年が明けた。オカチマチは年明けから一週間程定休日に入る。年末に夜市で働いた分ゆっくりと過ごすのだ。リッカも例外ではなく店を閉め、のんびりして……居なかった。


「イヤーカフか……」


 石の即売会で宝石商から預かったルースケースを眺めながら頭を捻る。ルースケースの中には「メレ」と呼ばれる数ミリ程度の小さなオパールが二つ。これでイヤーカフを二つ作って欲しいという依頼だ。


(どういう用途か聞くのを忘れちゃった)


 「デザインはお任せします」というが、男性向けと女性向けとでは方向性が異なる。ここは男女兼用で行こう。ペアだし。リッカは頭の中にシンプルなイヤーカフを思い浮かべた。


(メレだし、彫り留めにしよう。イヤーカフ本体は角棒を叩いて作って、ちょっとした彫りを入れて装飾しよう)


 大体のイメージが決まったので素材置き場から大き目の銀の角棒を取り出す。それをバーナーで熱した後に急冷してなます。ローラーで角棒を引き延ばし、イヤーカフが2本作れる程度まで細長くする。このままだと分厚過ぎる上に幅が狭いので、幅を出すために彫り留めに支障が無い位の厚さまで再びローラーで押しつぶして薄くした。


 素材の準備が出来たので再び銀をなまして柔らかくしてから調節した素材を半分に分け、細い木芯に沿って木槌で叩く。すると木芯に沿って銀が曲がり、円形になるのだ。


(イヤーカフだからこんな物かな)


 小指に入るか入らないか程度の大きさに丸めて耳に嵌める入口を残したまま余分な部分を切り落とす。これで素体は完成だ。あとは切り口をヤスリで綺麗に整えたり木槌の打痕が残る肌を削って紙やすりやリューターで鏡面になるまで磨くのだ。


 磨き終わったら温めると柔らかくなる粘土のようなもので彫刻台に固定し、石を留める場所にペンで印をつける。印を基にドリルで石を嵌めるための穴を開けたら石を嵌め、タガネで金属を彫り起こして爪を作る。最後に魚子タガネで起こした爪を丸めれば彫り留めの完成だ。


 タガネで爪を起こす時はとても神経を使う。少しでも力を入れすぎればタガネが滑って石に当たり傷がつきかねない。一か所一か所丁寧に留める必要があるのだ。


 無事に石留めが終わったら今度は腕の部分に装飾を彫る。今回は小さく唐草模様を彫ることにした。今やこうして人力で模様を彫る職人も少なくなってしまった。彫りは一発勝負だ。折角完成間近まで仕上げた作品をダメにしてしまう事もある。造形魔法を使えばどんなに細かい彫りも自在に再現出来るし、失敗してもやり直しが効く。出来は魔法を使う技師の腕に左右されるとはいえ、やり直しが出来るというだけでも造形魔法へ転向する職人が居るのは仕方ないとリッカは思うのだった。


 イヤーカフの細い側面をタガネでなぞる。力を入れすぎるとタガネが引っかかってしまい上手く彫れない。絶妙な力加減が必要だ。最初は細く、次第に太くなるように調整し唐草のカーブを描く。それを繰り返し模様を作っていく。


 タガネで切り彫られた断面はキラキラと美しく輝き、イヤーカフには光り輝く唐草模様があしらわれた。一本目を完成させ、リッカは思わず「ふー……」とため息を吐く。


「彫りは得意じゃないけど、やっぱり綺麗だな」


 出来上がったイヤーカフを眺めながら呟く。彫りは学校に通っていた際に学んだのだが、最初はなかなか上手く行かずに半泣きになりながら練習した覚えがある。こればかりは回数を重ねて感覚を掴むしかなく練習用の板を何度も何度も彫ったものだ。


「よし、二本目頑張ろう!」


 気合を入れ直し、二本目に取り掛かる。その日の夜、無事に二本のイヤーカフが完成したのだった。

2章開幕です。お付き合い宜しくお願い致しますm(__)m

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