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【完結】夜の装飾品店へようこそ~魔法を使わない「ものづくり」は時代遅れですか?~  作者: スズシロ
1章

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黒き星

 リッカはトウジに教えられたブースに「造形魔法」の作品を見に行く事にした。ブースに近づくにつれて通路を歩く人が増える。他の職人も「偵察」に来ているようだ。その道なりに行くと、周りのブースとは明らかに違う大きな店構えが見えてきた。


 大手複製宝飾品ブランド「黒い城(シャトー・ノワール)」。造形魔法と複製魔法による量産で魔工宝石を使用した宝飾品の普及を押し進めた企業の一つである。その専属造形魔法技師の一人が秋の手仕事祭に出店したという噂は職人の間でじわりじわりと広まっていた。


 個人出展らしからぬ大がかりな店構え。ブースの上部に掲げられた「黒き星(エトワール・ノワール)」の看板は離れた場所からもよく見える。2ブースを借り上げて作られた商品棚には魔工宝石を惜しみなく使用した作品が大量に陳列されている。


「あれってもう『黒き城(シャトー・ノワール)』の企業出展みたいな物だろ」


 と言う声が通行人から聞こえるほど、それは周りのブースから見ても浮いた存在だった。


(あれが造形魔法大手のお抱え技師)


 大きなブースに一人立っている女性がいる。店名に則した真っ黒なスーツを纏った小柄な女性だ。ブースには一般開場前だというのに人だかりが出来ており、「偵察」をしに来た職人たちが作品を眺めていた。リッカも人だかりの中に紛れて作品を観察する。


 どの作品も傷一つ無く精巧に作られており、同じデザインの物が大量に並んでいるのを見ると複製魔法で複製されたものだと分かる。不純物の無い大きな宝石には既に魔法が付与されており、その効能ごとに並べられていた。そしてその立派さに見合わない安価な値札が付けられており、その安さにリッカは目を見張った。


(あの大きさであの品質の石がついて、あの細工の細かさで銀貨3枚?こんなのありなの……?)


 手作業で製作していては絶対に付ける事の出来ない価格。しかも天然宝石では実現し得ない低価格に驚く。


(これは……)


 周りの職人たちを見ると皆同じような表情をしていた。これは、この場の価格相場を崩壊させる存在だ。手間暇かけて作った作品は自ずと値が張る。「嗜好品」と揶揄される事もある手作り品の中でこの作品達を売れば他の作品よりもより「お買い得感」が出る。きっと飛ぶように売れるだろう。


(参ったなぁ)


 皆同じ事を考えているに違いない。これは大変な事になりそうだと頭を抱えながら自分のブースに戻ったのだった。


 開場時間を迎え、会場内に客が入って来る。皆目当ての物を買うために急ぎ足だ。開場してすぐの時間帯は「この作品を買う」と決めたブースに直行するため、「この人の作品を買いたい」と言う熱意を持った客が多い。リッカのブースを訪れる客も同じだ。


「リッカさん、お久しぶり!」


 リッカのブースを最初に訪れたのは品の良いマダムだった。


「おばさま、お久しぶりです」

「今回も新作楽しみにしてたの。この星のブローチ?」

「はい!結構自信作なんです」

「素敵ね~。今日は自分用に買おうと思って来たの。この前頂いたペンダントは膝を痛めた友人宛に治癒の魔法を付与して贈ったらとても喜んでもらえたわ」

「ありがとうございます」

「やっぱりリッカさんの作品は良いわね」


 マダムは星のブローチを眺め、手に取ると微笑んだ。


「貴女が一つ一つ丁寧に作っているのが分かる。もう少し価格を上げても良い位よ」

「え?そう……ですか?」

「ええ。ほら、今時手作業で仕上げているっていうのも珍しいし。量産品と比べて一つ一つにかかる手間も時間も多いでしょ。それは作品の付加価値だから。ここに来る人達は『手作業で作っている』ことに価値を感じでいる人が多いの。だからもう少し値段を上げても買ってくれる人はいると思うわ」

「なるほど」

「確かに複製魔法で作られた量産品も便利だと思うわ。安価だから壊れる事を気にせずに気軽に使えるしね。でも、だからこそ魔法を介さずに手で作られているという事が魅力的に見えるの」

「正直、『今時手で作るなんて時代遅れ』って言う人達も居るのでそう言って頂けると嬉しいです」

「確かに、高品質の物が簡単に量産出来る今となってはそう言う人もいるかもしれないけどね。私の場合は『無垢』の装飾品を求めているからそもそも複製品は選択肢に入らないわ。手仕事で作られた作品にはそれを求めているニーズがあるの。だから量産品と比べないでもっと自信を持ちなさいな」


 マダムはニコリと笑い、新作のブローチを何点か購入して去って行った。複製品には複製品の、手作り品には手作り品のニーズがある。競合する部分もあるかもしれないけれど、それぞれ求める人達は別なのだ。「黒き星(シャトー・ノワール)」のブースを見たばかりのリッカは少しだけ安心したのだった。

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