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【完結】夜の装飾品店へようこそ~魔法を使わない「ものづくり」は時代遅れですか?~  作者: スズシロ
1章

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原型仕上げ

 委託先へ納品する作品を仕上げたり送ったりしているうちに原型の鋳造が完了する日がやってきた。鋳造は必ずしも成功する訳ではなく不慮の事故が起こる可能性もあるので実際に受け取るまで安心はできない。失敗して修正が効かなければ作り直しなので緊張する。


 鋳造屋に足を運び鋳造された原型を受け取ると、その場で良くチェックする。どうやら無事に鋳造出来たようだ。


(良かった~……)


 ホッとして思わずため息が出る。もしも失敗していたらと思うとゾッとした。


 工房に戻り仕上げの作業に入る。鋳造の時についた湯口を削り落とし、まずはヤスリで表面の傷を取る。出来るだけ造形を崩したくないのであくまでも「傷を取る」だけである。ある程度傷が取れたら粗目の紙ヤスリで表面を整えていく。柔らかいロウを使って作った原型はどうしても角の部分がダレがちだ。そこをヤスリや紙ヤスリでピシッと整えるのだ。


 粗めの紙ヤスリが終わったら次はもう少し細かい目の紙ヤスリ。そしてそれが終わればまたもう一段階細かい目の紙ヤスリ。ある程度綺麗になったら研磨剤が付いたリューターで磨いていく。それも何段階も粗さや細かさを変えて磨くのだ。


 複製型を作るための「原型」は細かい傷も全て型に反映されてしまうためより慎重に仕上げなくてはならない。複製型で複製された物は綺麗に仕上げた原型の複製品なのである程度綺麗な状態で仕上がるが、ロウの型から鋳造したばかりの原型はダレや傷などが多いため仕上げにかなりの労力と時間を要するのだ。しかしここでの仕上げが後の楽さに繋がるので手を抜く事は出来ない。根気のいる作業だ。


 ある程度工程が進んだら息抜きをするためにお茶を入れに台所へ向かった。


(んー、やっぱり原型仕上げは大変だなぁ)


 集中力が切れるので途中の休息は重要だ。


 薬缶でお湯を沸かしポットに茶葉を入れお湯を注ぐ。お菓子入れのカゴに突っ込んでおいたクッキーを皿に盛り、入れたお茶を飲みながら食べる。細かい作業で体力を消耗した身体に甘いクッキーがよく沁みる。このつかの間のティータイムがささやかな幸せだった。


 仕上げは根気のいる作業だ。どうしても上手く行かなくてイライラする時や、ミスをして原型そのものがダメになってしまう事もある。折角苦労して仕上げた原型がダメになってしまった時の失望感は言葉で表す事が出来るようなものでは無い。だからこそ上手く仕上がってピカピカになった原型を見ると一層の事「頑張って良かった」と思えるのだ。


 一息ついたので一気に残りの仕上げをする。仕上げ用の研磨剤を使って磨きをかけるとリッカの顔が映るほど美しい鏡面状態になった。


「うん、良い感じ」


 掌の上に乗せ色々な角度から観察し、荒い部分が無いか確認する。満足の行く出来に思わず笑みが零れた。


「頑張ったー!」


 そう大きな声で独り言を行ってしまう程骨が折れる作業なのだ。


 完成した原型に傷がつかないように柔らかい布に包んで頑丈なケースにしまう。これを鋳造屋に持ち込んで複製をしてもらうのだ。


(このペースだと新作出せそうだな)


 「秋の手仕事祭」までの残りの日数を確認しながらほっと胸をなでおろす。新作があるのと無いのとでは集客力が違う。お客様は新作を楽しみにしているのだ。「善は急げ」という事で、完成したその足で鋳造屋に原型を持ち込み複製の手続きをしたリッカだった。

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