リッカと宝石商のチチブ旅行⑤
屋台で甘味を買った後、社の前に集結した山車が見える場所に腰を下ろした。村内を練り歩いた山車は最終的に社の前に集結する。提灯で彩られた大きな山車が一挙に会する光景は圧巻だ。
「私、山車って初めて見たかもしれないです」
随所に職人の技が光る装飾がふんだんに施された山車は文化財として代々大切に受け継がれてきたものだ。現在も手仕事で補修や改修が行われており、文化と技術の継承にも役立っている。
「都心ではお祭り自体滅多に見られなくなりましたからね」
再開発の影響か三女神信仰の影響か、地域の社で小規模な祭はあってもここまで大々的に行われる祭はほとんど見かけなくなってしまった。
「今でも残る大きなお祭りは観光の目玉としての面も担っているので再開発されない限り無くなることは無いでしょうね」
都市部でのコンパクトな生活は利便性が高く人気を集める一方で、こうした昔ながらの風景を懐かしんで郊外にやってくる観光客や移住者も増えていると言う。「『昔ながらの生活は時代遅れ』などと言わずに上手く住み分けが出来れば良いのだが」と宝石商は思った。
「たまにはこうしたお祭りもリフレッシュ出来て良いですね!また何か良さそうなお祭りを見つけたら行きたいな……なんて」
「是非!転移港のお陰で足を運びやすくなりましたし、全国のお祭りを回るのも良いですね」
「ついでに美味しい名物料理も食べて……」
「地元の居酒屋や屋台巡りなんかも良いですねぇ」
祭の情報なら蜃気楼通信で祭愛好家達のコミュニティに入れば手に入るだろう。祭の残る所には名物あり。彼らならその地の美味しい食べ物の情報も持っているはずだ。
「こうしてリッカさんと先の楽しみを増やせて幸せです」
「……私もです!」
「明日は何をしよう」とか「今度これを食べに行こう」とか、そんなささやかな楽しみを愛しい人と一緒に増やしていける幸せ。毎日続いていく日常がこんなにも鮮やかに見えるなんて思っていなかった。
「これからも色々な場所に行って色々な物を食べましょうね!」
「ええ」
目を輝かせながら言うリッカを宝石商は嬉しそうな顔をして見つめる。従業員を増やしたお陰で以前よりも仕事に余裕が出来たのでこれからは二人の時間を少しずつ増やしていこう。キラキラと輝く提灯の灯りを眺めながらそんなことを語り合った二人だった。
(完)
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