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【完結】夜の装飾品店へようこそ~魔法を使わない「ものづくり」は時代遅れですか?~  作者: スズシロ
番外編

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リッカと宝石商のチチブ旅行③

「お世話になりました」

「いえいえ。また来て下さいね」


 製作体験を終えた二人はモミジに車で宿まで送ってもらうことにした。宝石商の鞄には製作した大量のとんぼ玉が入っている。


「ちょっと作り過ぎてしまいました」


 少し重くなった鞄を撫でながら宝石商が言うと


「あんなに夢中になって貰えるとは思わなかったです!」


 とモミジが笑った。最後の方は慣れて来たのか模様も上手く出せるようになり、少し上級者向けのとんぼ玉にも挑戦したのだ。


「いや、面白かったです。自分の技術がはっきりと作品に反映されるのが良いですね。上手くなればなるほど思った通りに作れるようになるのが職人魂をくすぐるというか……」


 「料理みたいなものです」という宝石商の言葉にリッカは「なるほど」と納得した。宝石商の料理に掛ける情熱は凄まじい。凝り性な性格なのでそれがとんぼ玉作りに上手く嵌ったのだろうと感じた。


「またいつでも体験しに来て下さいね!何ならご自宅に出張しますよ!」

「ほう」


 宝石商の目が光る。変な話、リッカの店に大きな耐火ブースがあるので卓上ガスバーナーさえ揃えれば自宅でとんぼ玉作りが出来るのだ。


「それなら、うちの店でワークショップとかどうですか?」


 「出張」という言葉を聞いてリッカが切り出す。


「実は私の店で色々な職人さんを呼んで単発ワークショップをしたいなと思っていて」

「えっ!そうなんですか?やりたい!」

「ふふ、じゃあ今度また連絡しますね」


 前々から考えていた単発ワークショップについて思わぬ収穫だ。彫金以外のジャンルで講師を探す方法を模索していることを話すとモミジの知り合いの職人を何人か紹介して貰えることになった。


「では、また!」

「はい!ありがとうございました!」


 宿の前まで送って貰いモミジと別れる。今宵の宿「緑翠荘」は川沿いに作られた小さな旅館だ。チチブの村おこしの一環で「チチブを楽しむ」をコンセプトに作られたデザイナーズ旅館で、古びた外観からは想像が出来ないようなオシャレな内装が「映える」らしい。


 名物は川に面して作られた露天風呂と山の幸を使った料理で、都会から少し足を伸ばしてのんびり出来る宿として蜃気楼通信で密かに人気を集めているのだ。


「いらっしゃいませ。ようこそ『緑翠荘』へ」


 宿に入ると仲居が案内をしてくれる。チェックインをしている間に温かいお茶と特産のメープルシロップを使ったパウンドケーキが供された。


「本日は夜祭の関係で夕食を早めることも可能ですがいかがなさいますか」


 部屋に案内する前に仲居が二人に尋ねる。夜祭は夜の七時頃から始まるので早めに夕食をとって会場に向かう客が多いのだと言う。


「では早めでお願いします」


 折角なので早めに会場に行きたい。仲居の提案通り夕食を早めてもらう事にした。10畳ほどの部屋へ通されて一息つくと早速夕食の時間がやって来る。夕食は食事処へ足を運ぶスタイルだ。フロントの横にある食事処へ行くと既に前菜がテーブルに運ばれていた。半個室なので周りを気にせず食事が楽しめそうだ。


「飲み物はどうしましょう」


 宝石商が備え付けのメニューをリッカに見せる。定番の飲み物からチチブ名産の果物を使ったカクテル、地酒など種類が豊富で迷ってしまう。


「地酒も魅力的ですけど、果物のカクテルも美味しそうですね!」

「地の果物を使ったリキュールですか。折角なのでそれにしてみては?」

「じゃあいちごリキュールのソーダ割にしてみます」

「私は赤ワインにします。これもチチブで作っているようですよ」


 チチブは観光農園にも力を入れており、その土産物として地元の酒造メーカーが地の果物を使って様々な酒を製造しているのだ。地酒は旅館や料理店に卸され観光客向けに提供されている他、贈り物としても人気がある。


「前菜も色鮮やかで美しいですね」


 夕飯はチチブの山の幸を主とした会席料理だ。まずは先付。地野菜を使った小鉢が可愛らしい花形のお盆に収められている。野菜の煮物、ホタルイカと菜の花の和え物、生麩の田楽などが色とりどり小鉢に盛られていて目でも楽しむことが出来る前菜だ。


「……美味しい!」


 日頃の外食と言えば味の濃い物ばかりだったので出汁を使って味付けされた優しい味わいにホッとした。前菜が美味しい店は間違いないのでこれから出てくる料理にも期待出来る。


 前菜を食べ終えた頃、次の料理がやって来た。椀物は海老のしんじょである。ふわふわの海老しんじょの上に飾り切りされた人参と菜の花が載っている。向付は刺身の盛り合わせ、鉢肴は地元の川で獲れた鮎の塩焼きだ。


「川魚の塩焼きって久しぶりに食べたかも」

「観光地に来ないとなかなか食べられないですからね」


 子供の頃に避暑地で食べた鮎の塩焼きを思い出す。名瀑の側にある茶屋で良い匂いを漂わせながら焼かれているのを食べるのが好きだったなとリッカは懐かしく思った。


 次に出て来たのはメイン料理の牛鍋だ。一人一つの小さな鍋と共に供され、程よくサシの入った牛肉と野菜が更に盛られている。固形燃料で鍋を熱し、完全に火が通ったら食べごろだ。


「牛肉の旨味が出汁に溶けだして美味しいですね」


 さっぱりとした出汁だが牛の脂が溶けだして甘みが増しコクがあって美味しい。牛肉も程よいサシの入り方なのでクドくなく、肉本来の味をしっかりと楽しめる塩梅になっている。あまり脂が多い肉だと量を楽しめないが、この位なら丁度良い。


 牛鍋を食べた後はタケノコと湯葉の煮つけ、タコの酢の物、タケノコと山椒の炊き込みご飯と味噌汁と続き、最後に水菓子として果物の盛合わせで終了だ。


「あー、美味しかった……」


 これでもかと言うほど次々と出てくる料理に舌鼓を打ちながらなんとか完食したリッカと宝石商は満足気だ。一品一品に趣向が凝らされており見た目も楽しめて飽きない会席料理だった。

会席料理食べたい

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