リッカと宝石商のチチブ旅行②
「じゃあそろそろ製作を始めましょうか」
一息ついた後に工房スペースへ移動してとんぼ玉作りの説明を受ける。作れるとんぼ玉は何種類かあり、今回はマーブル模様のとんぼ玉を作ることにした。初心者に向いている模様らしい。
「まずはとんぼ玉の色を選んでください!」
色とりどりのガラス棒が並ぶ素材置き場から素体となるガラス玉に使う太い棒とマーブル模様を形成する細い棒を一色ずつ選ぶ。ガラス棒の色が沢山あるので組み合わせは無限大だ。
「こういう色の組み合わせを選ぶのって迷っちゃいますよね……」
迷うリッカに「本体が透明な場合はマーブル模様は不透明な方が良い」とモミジがアドバイスをする。透明同士だと色が混ざり合って模様がよく見えなくなってしまう場合があるからだ。
「私はこれにします」
「えっ!早い!」
宝石商は渋い緑色の透明ガラスを地に白いマーブル模様を描くようだ。「むむむ……」とリッカは悩んでいた。ルビーのような赤い色も可愛らしいし、あえて真っ白い地を選んでも面白そうだ。でも青空のような青い色も魅力的だし、夜空のような濃紺も美しい。
(選択肢があり過ぎる!)
自由度が高すぎると逆に困ってしまう。散々悩んだ挙句、濃紺の透明ガラスを地に不透明な黄色でマーブル模様を描くことにした。
「よし!じゃあ色が決まったらこっちに移動してください」
モミジは作業台に備え付けられた卓上バーナーの前に二人を座らせるととんぼ玉作りの手順を説明し始めた。
「まず初めに母体となる玉を作ります。このステンレス芯に溶かしたガラスを巻いていくのですが、必ず白くなっている部分に乗せて下さい。白い部分は剥離剤が塗ってあるので!
本体が出来たら模様となるマーブル模様を作っていきます。細いガラス棒を熱して本体に四本線を引いて、ゆっくりと回すとあら不思議!マーブル模様の出来上がりです!」
「実際やりながらの方が分かりやすいと思うのでまずはやってみましょう。私達が補助するので安心してくださいね」
説明を聞き終えたら早速実践だ。バーナーに火を灯し太いガラス棒を熱してステンレス棒に巻き付けていく。大きさが定まったらガラス棒を引き離しバーナーの上でステンレス棒を回して大きさを整えるのだが、片手で棒を回し続けなければならないのでなかなか難しい。腕を上げっぱなしにしなければならないのも地味に辛い。
「では、線を引いていきましょうか」
形が整ったら次は模様作りだ。細いガラス棒の先端をバーナーで熱すると溶けて垂れ下がるのでそれを本体のガラス玉の上に乗せていく。上から見た時に十字になるように等間隔で四本引いたらステンレス棒をゆっくりと回して模様を作って行くのだ。
「ゆっくりと回すとガラスが下に垂れて色が混ざり合うんです」
ガラスの自重で下に垂れるのを利用して引いた線と本体のガラスを混ぜる。ガラスが重みで下に引っ張られるのでくるくると回しているうちにだんだんとマーブル模様になっていくようだ。
「わぁ……面白いですね!」
ゆっくりと回しているだけなのにガラスの模様がどんどんと変化していく様にリッカは驚いた。一体どうやったらこんな技法を思いつくのだろう。マーブルが幾重にも重なって細かくなってきたので形を整えて火から外す。
「これで完成です。あとは数時間冷ますので一度お預かりしますね」
完成したとんぼ玉を預けて冷却してもらう。宝石商も上手く出来たようで満足そうな顔をしていた。
「どうでした?」
ソワソワとした様子でモミジが二人に尋ねる。
「楽しかったです!回し続けないと行けないのは大変だったけど、目の前で模様がどんどん変わって行くのが面白くて」
「そうですね。ガラスが溶けるのが早いので棒から落ちないようにするのが大変でしたが……。面白い体験をさせて頂きありがとうございました」
「本当?良かった!」
「宜しければモミジさんの作品も見せて頂けませんか?」
宝石商がそう言うとモミジは嬉しそうに作品が並んだ棚の前に案内する。
「モミジ、今日お二人が来られるのをずっと楽しみにしていたんですよ」
その様子を微笑ましそうな目で見ていたカエデがリッカにこっそりと耳打ちする。
「とんぼ玉に興味を持って貰えたのが嬉しかったみたいで、気に入ってくれるかなってずっとソワソワして」
「そうだったんですね。なんかちょっとその気持ち、分かるかも」
自分が打ち込んでいることに興味を持って貰えるのは嬉しい。それはリッカも同じだった。アキが手仕事に興味があると言ってくれた時やワークショップに来たお客さんが楽しそうに作業をしているのを見ていると嬉しくなる。モミジもきっと同じ気持ちなのだろう。
「今日やったマーブル模様って初心者向けの模様なんですよね?あんなに細かい作品を作っているモミジさんの凄さが改めて分かりました」
「実際やってみると案外難しいですよね。私もちょっと作ったりするんですけど、モミジみたいに細かくは作れないんです。そこがあの子の技、というか……腕の良さですね」
同じガラスでも吹きガラスととんぼ玉とでは全くの別物だとカエデは言った。互いに体験教室の補佐が出来るよう基礎的な部分は練習しているが、やはり得意としている物の方が特段上手く出来るそうだ。
そんな話をしていると宝石商とモミジが工房スペースへ戻って行くのが見えた。ガラスを選んでいるのを見るともう一つとんぼ玉を作るつもりらしい。
「今度はドット模様に挑戦してみます」
モミジの作品を見て話を聞いているうちに宝石商の心に火が点いたようだ。
「今日は他に予約も入ってないし、好きなだけ作って大丈夫ですよ!」
横でモミジが気合を入れる。
「リッカさん、少し待って頂いても大丈夫ですか?」
「勿論!トウカさんの気のすむまでどうぞ!」
「じゃあお茶菓子出すのでこっちでのんびりお話でもしましょう」
宝石商がとんぼ玉作りに打ち込んでいる間、リッカとカエデは応接間でのんびりとお茶を楽しむことにした。お手製のクッキーを囲みながら新店舗の話やイベントの情報交換、互いの作品について語らっているとあっという間に夕暮れ時を迎えたのだった。
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