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ユニティ□キューブ!  作者: (仮名)
『起:お気持ち叶える契約の箱』
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『最初の協力者にして最大の脅威!ワールド製作者ニラヤマ』後編

「全体公開インスタンスで知ることができるEDENは、ほんの一側面に過ぎないって話は前にしたでしょう?そのコミュニティは会員制で存在すら口外してはいけない秘密主義で、とても現実らしいワールドの中に洗練されたアバターが集まる私にとっての理想の場所なんです。私はそこに行きたいけど、会員になれなかったから滅ぼすしかないんです」


 豆腐は絶望しました。

 

 ただ一人契約できた相手がニラヤマであった時点で、友人と約束した場所である“カナン”の滅びはどう足掻いても避けられないものになっていたのです。


「そもそも何故、わざわざ貴様にとっての理想郷だけを滅ぼそうと言うのだ!貴様のエゴの、せめてもの罪悪感のつもりか?」


と食い下がる豆腐に、ニラヤマは「まさか!」と笑います。


「本当に正式サービスが開始されると知っている私たちは、古くから続いている“カナン”というコミュニティから散らばった技術を持った人たちを、自分たちの場所に取り込むために誰よりも早く動けますよね?

彼らという資材(アセット)を使えば、私はもっと現実らしいワールドを作って沢山の人を呼べるようになるじゃないですか。それに一つのコミュニティが見せしめに滅ぼされたら、他の閉鎖的なコミュニティも考えを改めようとするでしょう?」


 豆腐はその言葉を聞いて、ニラヤマについて何を誤解していたのか悟ります。

 好みは違えどニラヤマもEDENという場所が大切で、災厄を止められる豆腐を助けるために呼び戻したのだと思っていました。


 ですが見つけることができない虹色の羊毛を探し続けるくらいなら、他の人も見ることができないようにワールドごと滅ぼしてしまっても構わないような思考の持ち主がニラヤマでした。


 ニラヤマが豆腐を呼び戻したのも“カナン”を破壊することを願ったのも、一貫して自分の行くことができない場所で楽しいことが行われている、自分が見たことのないものを誰かが当たり前に見ているという疎外感からだったのです。


「もうUDON毛刈りの時みたいに無駄な時間を過ごさなくて済むように、本当に見たいものを見たい時に見ることができる場所を作りましょう!好きな時にインスタンスを開くことができる私の場所として、カナンを滅ぼした後に私の手で“理想郷(エデン)”を作り直すんですよ!」


 そしてニラヤマは参加しているユーザーの誰かとフレンドであれば、入ることができる友人交流(フレプラ)という設定のインスタンスに移動する楕円形のポータルを呼び出します。

 それも豆腐がニラヤマと契約相手(フレンド)になったから可能なことで、この危険な願いの持ち主と安易に手を切ることができない理由の一つでした。


――豆腐が運営から託された使命は、実はもう一つありました。


 私利私欲のために害を為したり、将来的にEDENが滅ぼすような機能を持った『契約の箱』のことを運営は『災厄』と呼んで、それを起こしかねない持ち主を見つけて対策するようにと豆腐に告げていたのです。


 私利私欲のために『カナン』を破壊しようとするニラヤマという人間を最初に見つけておけたのは幸運でしたが、一方でニラヤマの願いを他の契約したユーザーに明かして助けを求めることも難しくなっていました。


 下手にニラヤマ以外に助けを求めれば、与太話を吹っ掛ける迷惑ユーザーとして距離を取られた上で、ニラヤマに放り捨てられるという最悪の事態が待っています。

 あと数人のユーザーからブロックされるだけで、豆腐のアカウントは凍結されてしまうのですから。


「そうと決まれば、願いを叶えてもらうために災厄を止めないといけませんね。カナン以外の場所まで滅んでしまっては、私の手でコミュニティを創り直すような余地がありませんから」


 いつになく元気そうなニラヤマに、豆腐は「……それで、これから行くのは何の集まりだ?お前がジョインを選んだのは、何をしているユーザーなのだ」と質問します。


 ニラヤマが契約通りEDENに起こる災厄を止めて、対価として“カナン”を滅びるがままにするにせよ、豆腐がそれ以外の相手と契約してニラヤマの願いを阻止するにせよ、最後の災厄が訪れてEDENの全てを一掃するまでに残された期間は一週間しかないのです。


「うーん、強いて言うなら『何もしてない人』かな?多分これから行くインスタンスも、何もしないで集まってるだけだと思うよ」


 ワールド移動の際のヴン!とそれっぽい感じのテレポート音の前に、ニラヤマは豆腐の問いかけに答えました。


 別に仮想現実に居るユーザーの誰もが、ワールドやアバターを創っているわけではありません。何かを創れるわけでも独自のアイデアを提供できるわけでなくとも、ユーザー同士で集まれることがVR-EDENのSNSとしての役割です。

 

 そしてニラヤマは、豆腐がちやほやされるようなインスタンスに行ってやる気など毛頭ありませんでした。


 ですが、ニラヤマの思惑を読み取った豆腐は不敵に笑ってみせます。


「案ずることは無い。預言者にとって祭司は欠かせぬ存在だ」


 ニラヤマもまた、忘れていることがありました。

 

 悲しかったり不快だった出来事を公に報告することが“お気持ち表明”と揶揄されるようになった時代で、しかし誰もがニラヤマのように歯に衣着せぬ物言いで、遠慮のない行動を取れるわけではありません。

 

 そして人が“奇跡”を信じるのは技術力の高さや見た目で圧倒されたからではなく、自らがどうすることもできない苦しみや悲しみの中で、救い出してくれる存在を心から求めているからなのです。

 そして豆腐はEDENに訪れる前から、ずっと祈りと信仰について考えてきた人間なのでした。

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