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ユニティ□キューブ!  作者: (仮名)
『起:お気持ち叶える契約の箱』
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『最初の協力者にして最大の脅威!ワールド製作者ニラヤマ』中編

「……虹色の羊って言ってたけど、別に大したことなかったな」


と、自作したアパートの一室ワールドに戻ってきたニラヤマは、テーブルに植え付けられていた虹色のマテリアルを刈り取ってしまいます。


「私は虹色の羊毛を見たかったわけじゃなくて、誰かが見たものを自分だけ見てないって事実が許せなかったんだろうな。なれなかった自分になることができて、生身の自分では行けなくなった場所に行くことができる、それだけがEDENを始める理由で良かったはずなのにね」と呟くニラヤマに、豆腐は一つの質問をします。


「何故、貴様は我から離れていこうとしないのだ?貴様と最初に会う前、普通の新規ユーザーのふりをして人混みに紛れたが誰にも話しかけられず、怪しまれないよう物腰を低くして話しかけても怪しい商売の勧誘と間違えて逃げられたのだ。もう沢山だと諦めるつもりで、最後のやけっぱちで貴様に偽りなく話しかけたのだぞ」


「自分では隠してる振りしてても気付かれてると思いますよ、その性格というか……面倒な奴が追いかけてこないように、気付いてないふりして距離取るのは皆も得意ですから」


 ニラヤマはそうやって豆腐の姿や演出を好きではないと言いつつも、どこの馬の骨ともつかない豆腐の話に付き合ってくれた数少ない例外でした。

 そして、ニラヤマは少し考え込んだ後に「豆腐ってさ、体育の時間に『ふたりぐみ作って』って言われたことあります?」と言いました。


 今の仮想現実では、隣のバスケットコートを遠くから眺めることすらできません。

 自分の知っているバスケットコートが、本当に自分のやりたいゲームをやっているとは限らないのに。

 距離を隔てた相手と言葉や映像だけでなく、身振り手振りや体験すらも共有できるようになって、明らかになったのは距離よりも人を隔てるものがあるということだけ。

 だから初心者の中には言葉が通じるかも分からない膨大な数の全員公開(パブリック)インスタンスを、寂しく彷徨った挙句に辞めてしまう者も少なくないのだとニラヤマは話します。


「誰からもゲームに入れてもらえなかったら、誰も居ないバスケットコートに一人ぼっちで居ることになる。かわいそうというかさ、自分がそういう仲間外れを作るのは、されて嫌だったことがあるからしたくないんですよね」

「ニラヤマ……話を聞いてみれば、貴様もたいがい面倒な奴だと思うぞ」


 ニラヤマがしんみりとした表情で語るのを見上げながら、地面に転がっていた豆腐は平坦なテンションで感想を言いました。

 そしてニラヤマの中指トリガーで掴み上げられて、垂直上方に向けてスナップを効かせた高速回転でぶん投げられていました。


 ニラヤマは地面に墜落して「オッオ゛ェ……」と呻いている豆腐を容赦なく掴み上げ(ピックアップし)て、今度は高速でシェイクしながら話しかけます。


「そうそう今のうちに、これからの関係を決めておかないとね。悪質なハッキングと間違われても困るしさ、とりあえず当分は私のアクセサリーってことにしようか?」


 リアルタイムに色や模様を変化させるイヤリングみたいな感じ、という要望によって豆腐はニラヤマの耳に位置を追従(コンストレイント)するようになりました。

 これなら他のユーザーが居るインスタンスでも、小声で喋ればニラヤマとだけ意思疎通をすることができます。


「勝手に喋ったりとか、さっきみたいな目に優しくない演出したら奈落の外に放り捨てていくからね」

「……仕方あるまい。貴様もたいがい変人だが、我にとって使い出がある変人だ」


 豆腐も今までの失敗から、ようやく学んできました。


 自分が運営の使者であると信じられていないなら、どれだけ派手なお告げをしても迷惑ユーザーとして通報されるか、良くても今回のように馬鹿騒ぎとして真に受けられないのが関の山です。


 なのでニラヤマ以外にも運営からの言葉を伝え広めることができるような、雄弁で交友関係の広いユーザーと契約していかなければなりません。

 まずはニラヤマの参加するインスタンスに取り入って、信徒とするユーザーの候補を見つける必要がありました。


 そんなことを考えていた豆腐は「そういえば最初に会った時に言ってた、協力の対価である願いごとってどんなことまで叶えてくれるんですか?」とニラヤマが聞いてきた時に、深く考えずに答えます。


「我が能力で成し遂げられない願いを呑むことはできぬし、契約の際にどうしても叶えられない願いをされたなら、我の方から契約を取り下げることも可能だ。しかし願いを聞いた上で契約を続行するならば、我はその願いに従うしかないであろう」

「じゃあ安心しました。あんたにも絶対できるような、簡単なお願い事ですよ」


とニラヤマは豆腐を励ますように前置きをしてから、その契約の内容を言いました。


「一つだけ滅ぼしたいコミュニティがあるんです。正式サービスの開始に備えられないようにするのでも、私の『契約の箱』を使うのでも方法は問いませんけど、それを防がせないために許可したフレンド以外と契約しないことが私の“お願い”ですよ」

「正気か貴様!?そんな契約を呑むとでも――」


 願いの意味を理解した豆腐は、思わず反論しようとします。


 ですが「あんたは災厄が起きる前に話した私以外には、不正ユーザーだと誤解されていて契約を持ち掛けることもできないんでしょ?」と言われたら、豆腐は黙るしかありませんでした。


「確かに、我とて貴様に呼び戻されなければEDENを去っていたかもしれん。だからといってEDENの全てを滅ぼしてしまえば、その初心者たちも行く場所が無くなってしまうのだぞ」という豆腐の反論に、ニラヤマは「大丈夫、滅ぶのは初心者に行けるようなコミュニティじゃないですよ」と言います。


「そこは、どんな悪しき場所であるというのだ?」という豆腐の問いかけに、ニラヤマは「逆ですよ。その『カナン』というコミュニティは、私にとって理想の場所なんです」と、これまた豆腐が全く予想していなかった名前を答えたのでした。

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