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ユニティ□キューブ!  作者: (仮名)
『転:天地創造RTA』
28/42

『永遠に終わらない放課後』

――それはニラヤマが別のインスタンスで『知恵の実』のカルト的な繋がりという噂を聞いたのと、ほとんど同じタイミングでした。


 だから豆腐はまだ『知恵の実』による繋がりがどれだけ大きくなっているかも、そこに入れる者が選り分けられていることも知らずに、ある意味ミズナラを呑気なまでに信頼したまま、その姿を見つけたことに安心していました。

 

 ミズナラの『知恵の実』による繋がりに“カナン”の一行が接触を図っているなら、あとはニラヤマの話を伝えるだけで条件を達成できると豆腐は思います。

 それを中断したのは「あっ、あん」とミズナラの手元の方から聞こえる喘ぎ声で、というのも自分の胸元に寄り掛かるように座っていた美少女アバターの肌に、ミズナラが手を這わせて愛撫していたからです。


 そして「ここが気持ちいいんですか?次は、ここを撫でますよ?」と存在しない触覚を想起させるために告げながら、現実世界での虚空を撫で続けるミズナラの姿を“カナン”の一行は少しだけ見た後に、コタツごと別の場所へと遠ざかって行きます。

 それは挨拶に対して返事をすることはあっても、既に継続している会話や行為を中断するほどではない、という大人数の集まる場で優先順位を付ける珍しくもない光景ではありました。

 ですが豆腐は、その姿にかつて自分たちを“カナン”に連れて行くと言った言葉と辻褄の合わないものを感じて、もう少し近くに寄ってミズナラの名を呼びます。


「……ミズナラよ、」


 もし“カナン”の一行が先程のやり取りで再びここに来ようと思わなかったとすれば、ニラヤマの言っていた条件を満たすことは限りなく難しくなってしまうのです。


「「ミズナラ」」


 声のした方に、ミズナラは顔を上げます。


「あっ、遅かったじゃないですか!待ってたんですよ」


 そう言ってミズナラが駆け寄っていった相手は、同じ位置に『知恵の実』のネックレスを着けたムロトの姿でした。

 

「もー、また俺以外の人とイチャついて」

「だってムロトさん遅かったから……」と言いながらも、隣り合って座る姿勢に自然に移行した頃にようやく、豆腐は自分にも優先順位が付けられていることを悟ったのでした。


 気付けば豆腐の周囲には『知恵の実』を同じ意匠のアクセサリーで揃えた二人組のユーザー達と、それを祝福しながら自分も相方を探すような“お砂糖”の輪が広がっていて、その中心にはミズナラとムロトが居ました。


 魔境という風評と共にEDENの外まで聞こえていた『お砂糖』という文化や、今ここで自分や“カナン”の一行に入り込む余地のないことは豆腐でも知っていました。

 そうしているうちミズナラ達にとっての『いつものメンバー』が集まり、豆腐がひときわ賑やかになっていく場から挨拶することもなく去って行こうとした時、その進行方向にムロトが立ち塞がります。


「律法体なんて特別なアカウントが、正式サービスの開始後も同じように使えるとは思えないんだよね。だから新しく創り直すアカウントの名前を教えておけば、この色んなコンテンツが集まる場所から正式サービス版のEDENを始めることができるって提案なんだけど」

「我に“お告げ”を行わせないことで、貴様は何を望んでいるというのだ」


 豆腐の問いに答えたのは、ようやく『知恵の実』の通話を繋ぎ直したニラヤマでした。

 全てのコンテンツが集まる場所を作り、気が合う者同士で固めた身内で独占しようとしている噂を豆腐に伝えたのです。

 

 そんなことを、と豆腐は愕然とします。確かに豆腐は『知恵の実』が横流しされているのを黙認しましたが、それがEDENにある全てのコンテンツの独占や選民に用いられていると、ミズナラは知っているのだろうかと考えます。

 

「貴様らの繋がりがカルト団体であるという噂が、方々で流れているらしいとニラヤマが言っている。そんな繋がりに入ったところで、今は楽しくとも後々に問題が出てくることは目に見えている」


 豆腐の反論は、ニラヤマがムロトの案に賛成するのではないかという不安を押し殺すための強がりでした。そして豆腐の反論を、ムロトは軽く流して言いました。


「ここに居ない人の話をしても仕方ないよ。だって“お告げ”を行わないとしたら彼らの繋がりが、正式サービス開始後に引き継がれることもないんだからさ」

「……何を言っている?」


「一番有効活用されて支持された『契約の箱』の持ち主が、EDENの範疇内で願いを叶えてもらえるんでしょ?ミズナラくんは既に『知恵の実』で作られた繋がりだけが、正式サービス開始後に引き継がれることを望むつもりだよ」


 今までのフレンド登録やEDENのコミュニティは、『知恵の実』に比べて不完全なものだったとムロトは言います。

 

 素性も分からないうちから不用意にフレンド申請を承認して、付きまといや他のコミュニティに問題を持ち込まれることに悩まされたり、反対に最初に知ったコミュニティの外にフレンドを作れずにEDENの全てと思い込んでしまうこともあった。

 けれど『知恵の実』によって見ているものや情報を共有して、気が合うと分かっている人とだけフレンドになったり同じインスタンスに行けるようになるなら、今までの不完全なコミュニティを一掃した方が良いのではないかと。

 

 元から不要であったり過剰なものを取り除いて、新しく優れたものを始めるための正式サービス開始なのですから。


「考えてごらんよ豆腐くん。EDENは『何もしていない人』が過半数を占めてるけど、俺たちはそこで楽しく過ごすことができている。この場所を成り立たせているのは創作なんかじゃなくて、会いたい人だけで集まることのできる『インスタンスの壁』なんだよ」


 ムロトの言ったことは『お砂糖』にも当てはまることでした。

 

 時として学友のように『お砂糖』の成立を嗅ぎ付けて冷やかして、或いは『お砂糖』の片割れに親しく接することで嫉妬というスパイスを提供する。

 彼らは『お砂糖』という現実社会では決して一般的でない文化と、それが善いことであるという価値観を共有できているが故に、たとえ当事者でなくとも一緒に過ごすことができているのです。

 

 一方でそれは、そこで展開される価値観に参加できる役割を持っていなければ、同じ場所に居られないということでもありました。

 けれど、そうした繋がり方を好まない人はこの場所に来なければ良い、皆が好きな場所に行くことができるのがEDENという世界なのですから。


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