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ユニティ□キューブ!  作者: (仮名)
『承:どこでも行けるバベルな世界』
10/42

『二人目の協力者?何もしてない人ミズナラのVR片想い』後編

 豆腐はミズナラの想いを叶えることに協力する代わりに、自分と契約するように持ち掛けるつもりでしたが、ミズナラは想いを明かす気はないのだと続けました。


「好きだと言ってしまえば、僕と同じ場所に居ることで気まずい思いをさせてしまう。僕がニラヤマさんを好きで居ることで、あの人から何一つとして奪いたくないんです」


 アバターの表情はコントローラーで認識されるハンドサインに連動して、設定された組み合わせから呼び出されているもので、ユーザーの実際の表情を読み取っているわけではありません。

 しかし豆腐はミズナラの今までにない断言の口調と、苦しくても満たされているような不思議な声音から彼女――彼の本当の表情を想像して、それ以上は踏み込むことができませんでした。


「そんなことよりも豆腐さん、初対面で僕が好きな相手を当てられたってことは、もしかしてニラヤマさんが僕をどう思ってるかも分かるってことですか?」

「ぬッ!?」


 今までのやりとりで豆腐は、ミズナラが本当に元同期生と同じ人物として接しても良いものか、ボイスチェンジャーを介した声も相まって分からなくなっていました。

 ですがニラヤマへの想いを胸の内に秘めたままでも、ミズナラがEDENという場所を楽しんでいるのは確かなように見えました。


 だからニラヤマのような求める対価のない彼女――彼の願いを叶える代わりに、一度はパブリックで失敗した預言を手伝わせて、大勢の集まる中で晒しものにされる危険を負わせたくないと豆腐は思ったのです。


 豆腐が返答に困って沈黙していると、ミズナラはさっきまでの明るい表情に戻って「あはは、冗談ですよ」と言いました。


「ただ我は、美少女のアバターに胸を押し付けられるのが、その……慣れていないので怖いのだ。ニラヤマに目立たぬようアクセサリーで居ろと強制されて自由に動くことができず、かといって逃げようとすれば先程のようにひどい目に遭わされるから余計にな」


 そして豆腐の建前に「そんな理由で暴れていたのか」とツッコむこともなく、ミズナラが答えました。


「うん、知ってますよ!フレプラに顔見知りじゃない人が来たら警戒されちゃうだから、ニラヤマさんがイヤリングに擬態させて連れてきたんでしょ?」


「そうそう、奴は横暴で……何?」

「それって凄く良い案だと思いますよ!アクセサリーが叫んだ時はびっくりしたけど、そのお陰で今こうやってお話してるわけですし。誰かに自分を知ってもらいたいと思うなら、最初は目と耳のほんの隅っこを『貸して』もらうだけでいいんです」


 今度は豆腐もしばし無言になりました。


「例えるなら『テレビを見ていたいだけで、どんな番組を見ていても構わない』ような時間に、ちょっとチャンネルを変えてもらうんですよ。どんなに拡散力のある有名人にだってそんな時間があるし、そういう時間の人だけが僕のインスタンスに集まってくるんです」

「ミズナラじゃん、なにやってんのー?」


 と、そこに新しくジョインしたユーザーがやってきて、ミズナラは「ほらね」とでも言うように小首を傾げました。


 ミズナラ達が戻ったミラーの前には重武装のロボットや二足歩行するケモノのアバターだとか、人型であっても実写映画さながらのリアルなものからアニメ調のデフォルメをかけた色合いや体型のものまで集まっていて、それでも豆腐のように幾何学的な形をしたものは居ませんでした。


 そして律法体はミズナラの言動や振る舞いの中に、学生時代クラスの人気者として沢山の人に囲まれていた“彼”の姿を見ていました。

 そこに仕事を始めて呟きの内容が荒れていく前の元同期を重ね合わせて、豆腐は“彼”のVRでの姿がミズナラであると再び確信することができたのです。


「……でも、豆腐さんはEDENの善悪を見定めるために来たんだから、この場所にずっと居るってわけにもいかないんですよね」


 周りに人が居なくなってから、ミズナラは少しだけ残念そうに言いました。


 豆腐が返答に困っていると、ミズナラはさっきまでの明るい表情に戻って

「豆腐さんが探してる場所のこと、本当は心当たりあるんです。僕がそういう景色の中に居るのを見たって言ってたでしょう?」と言います。


 豆腐はそれが自分のEDENを始めるきっかけとなった、ミズナラの自撮りしていた場所であることを思い出しました。


「本当はニラヤマさんに見せてあげたいんですけど、最近あの人のことを口説いてる人が居るみたいなんです。豆腐さんが言った場所に連れて行っても、その人がジョインしてきてトラブルを起こされたりしたら、ニラヤマさんまで行きづらくならないか心配で」


「だからニラヤマの前では知らないと言ったのか。しかし、ニラヤマのように粗暴な……」


とミズナラの前で口走りかけてから、豆腐は「可愛く振る舞う気がないやつを誘うのは、一体どのような人間なのだ?」と言いなおします。


 豆腐の質問に、ミズナラは「ええっとEDENっていう場所の中には、こことは全然違う遊び方をしているコミュニティも沢山あって、その一つに……」とそこで急に声を小さくします。

 その後に続いた説明を聞いて、豆腐は「ああ、美少女のアバターで性行為の真似事をするコミュニティか?それなら実際にEDENを訪れる前より聞いたことがあるぞ」と納得しました。


「ちょっと!声大きいですよ……ともかくムロトさんっていう人は自分が可愛いって気付いてない人をナンパして、そういうコミュニティに連れ込むので有名なんです。もともとEDENを始めたのも同性の友達みたいな距離感で、性行為もさせてくれる美少女と会いたいって理由の人ですから。

それで最近その人がニラヤマさんとよく会っていて、口説いてるみたいなんですけど……」


 そこで黙り込んでしまったミズナラの様子を見て、豆腐は「成る程、それで“ニラヤマの心を読んでほしい”などと言ったわけか」と器用に頷きました。


「ニラヤマと同じ場所に居ることができる今の状況を失いたくはないが、このままでは奴がムロトという人間のものになってしまうかもしれない。しかしニラヤマの想いがはっきりしないままでは、自分から奴やムロトという人間に対して不用意に手を出すのは怖いのだな。

ならば本当に貴様の片想いであるか、ニラヤマの感情を読んでやろうではないか」


 豆腐の変身したペンダントの表面が白く輝いて、契約が完了したことを示します。


 そして豆腐は両手で抱えられる大きさになると、ミズナラに「ニラヤマの動向を知りたくば、我の内側をその目で覗き込むが良い」と言いました。

 アバター同士に衝突判定(コライダー)の働かないEDENでは、壁に首を突っ込んで向こう側を覗いたり、スカートの内側に直接顔を突っ込むことも可能です――それがデリカシーのある行いかどうかは別の話ですが。


 そして言われた通りにミズナラが豆腐の中に顔を突っ込むと、視界を取り囲んでいる正六面体の裏側が白く点滅して別の場所の景色を映し始めます。

 そして顔を突っ込まれている自分の視界に、ミズナラの胸元が大写しになることに気付いた豆腐は「ムグッ……」と呻きました。


「……これは?」

「ニラヤマが着けたイヤリングから見える景色を、即席のVRゴーグルのように映し出している。このインスタンスを訪れる直前、ニラヤマと話していて思いついたのだ。どうして全知全能の神が、他人のヘッドセットの中を覗けないことがある?」


 確かにニラヤマは豆腐の本体をミズナラに預けましたが、分裂した片割れをイヤリングとして着けたままで居るのでした。


「うぇっ!?豆腐さん、本当にそんなことできるんですね……」と驚くミズナラに、豆腐は

「我ではない、我と契約した貴様なればこそだ。ニラヤマのような自己の理想にしか興味がない者では、その願いを反映しても今のような“契約の箱”は与えられなかっただろう」と言いました。

 とはいえ実際に豆腐が映し出しているのは、ニラヤマが身に着けたイヤリングを通した視界でしかないのですが。


 そしてミズナラと豆腐が見たのは、少年にも見える中性的なアバターがニラヤマと唇を触れ合わせている光景でした。


 豆腐は、そのアバターの主の名前を言いました。


「まさかムロトというのは、今ニラヤマの前に居るユーザーのことか?」

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