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いい人

どちらが自分だったのか、はたまた彼が誰だったのか。

覚えているが、思い出したくないから思い出さない。そんな遠い日の、在りし日の思い出。

「いい人」



とある所、とある時の話。



「なあ、お前はなんでそんなにいい人なんだ?」


少年は目の前の男に言いました。


「さあて、なんでだろうね。」


男は答えました。

男はそう答えながら、遠く遠く、空か、はたまた先の大地かを見ていましたが、まだ背の低い幼い少年には、男の目は見えませんでした。


「なあ!俺は決めたぞ!将来の夢だ。俺はおじさんみたいないい人になる!」


少年は目の合わない男に向かい突然そう言い放つのだ。

男はちらと少年に目をやり、横目で答えた。


「はっはっは!それは面白い。」


男は少年を見下ろして頭をわしゃわしゃと撫でてやった。


「なあ、少年。いい人って、好きか?」


「好き!おじさんのことも!」


「そうか…幸せになれよ。」


少年がキョトンと男を見上げると男はまたどこか遠くを見ていた。


「オレは、もう行くよ。またな、少年。」


最後に見た男の顔は笑っていた。




しばらくして少年は青年になった。


「あれは…」


見ると数人の男子が床にうずくまる男子を蹴っていた。

青年はいい人に憧れていたから声をかけた。


「おい、やめろよ。」


振り返る男子達。リーダー格だろうか、1人が前に出て言った。


「何だよ、お前。」


「お前こそ、そこの人の何だよ。」


「友達だよ、お前は違うだろ。黙ってすっこんでろよ。」


オレは殴った。手が痛かった。


「って…何だよお前!やんのか!」


まくし立てる目の前の男には何も思わなかった。少年は一歩前に出る。


「大丈夫か。」


下で見上げる男子にしゃがんで顔を近づけようとしたとき、思いきり腹を蹴られた。


「無視すんなよ。」


痛い。


何とか立ち上がった。

リーダーの後ろで他の男子はただ野次馬をしていた。


そのあとはめちゃくちゃだった。

大事にはならなかったが、満身創痍で家へ戻った。


蹴られ、殴られた傷が痛い。

それよりも、何度も殴った手が痛かった。


人を、人を助けるための暴力は、いい人には必要でしょうか…おじさん…




しばらくして青年はすっかり大人になった。


大人になった男はある時、駅の発券機の前でうろうろしている老人を見つけた。

男は自分をいい人だと思いたかったから声をかけた。


「大丈夫、ですか…?」


うろうろしていた老人はこちらをじっと見て、帰りの電車賃がないと言った。


「いくらでしょう…」


老人は掌を見せる。おそらく5と言ったのだ。

500円くらいなら、と財布を出して開けると


「5000円、です。」


徐にそう言った。


「う…そうですか…では、これを。」


男は5000円札を手渡した。




そういえば、住所くらい伝えれば、帰ってきたのかもしれない。

男は家に戻り、椅子に深々と腰掛ける。


いい人って、こんな人生なのか…







小銭が落ちる音がした。


「あ。」


前でレジをしていたおばさんが落としたらしい。


「落としましたよ。」


オレは拾って渡した。


「ああ、ありがとうねえ。」


「いえいえ、当然ですよ。全然当然。」


オレは相手の顔もろくに見ずにバツが悪そうに下を向いたままこたえた。



そのあと、自分もレジを済ませてレジ袋に買ったものを詰めていると、さっきのおばさんが近づいてきた。


「本当に助かったわ。ありがとう。」


「いえいえ。」


そういいながら、顔を見るとおばさんは笑っていた。

オレも何だか、笑った。はにかんだ。

店の自動ドアをくぐる頃には、オレは本当に笑っていた。





いい人が、いい人生を歩めるとは限らない。


だから…

だから私がもしいい人に見えても、決して勘違いしないでほしい。

こんな人の真似をすると、生涯後悔するだろうから。


いい人が見せる憧れは、もしかすると…

だから君は、その分幸せになりなさい。





後から聞いた話だと、おじさんは何処かへふらっと出かけたきり失踪したらしい。




とある所、とある時、いい人と呼ばれる人がいました。




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