完成した絵
そうして、次の美術の授業がやって来た。俺は、あの絵の続きを描き始める。色は大分塗り終わった。後は仕上げをするだけだ。俺は、残りの時間を使って必死に描き出す。
「私、海斗君の絵初めて見たよ」
溝口がそんな事を言う。俺の意思で描いた絵を初めて見たという事だろか。確かに、この絵は俺が頑張って描いた絵のような気がする。
「本当だ!凄い!」
灯里も、剛也も、真司も、自分の作品を置いて、俺の作品が完成している様子を見ていた。
そして、ようやく絵が完成した。文化祭に展示する絵という事で、その前に完成して良かった。思えば、美術の授業中に絵が完成したのは、初めてだ。
「これが、俺の絵…」
俺は、その絵を甲賀先生に提出した。先生は、よく頑張ったと言って、珍しく褒めてくれた。
「海斗が楽しそうに絵を描いているの、初めて見たよ」
灯里がそう言う。確かに、この絵を描いている間は楽しかった。絵を書いている間を楽しいと思った事が俺にとっては不思議な体験だった。
その帰り道、俺は久し振りに灯里と一緒に帰った。俺も灯里も、遅くまで学校に残っていて、辺りはすっかり暗くなっていた。そこで、一緒に帰る事になったのだ。
「あの人に、この絵を見せたかったな」
「あの人って?」
俺は、目の前の河川敷を指差した。
「ほら、あそこの河川敷でよく絵を描いていた美大生の人だよ」
「私、その人に会った事あるよ」
「灯里も…?」
灯里は、俺と同じ河川敷を見つめていた。
「でも、俺が出会った人と同じ人とも限らないし」
「そっか…、でも、優しい人だったな」
灯里は、川の目の前に立った。
「その人、景さんって言って、近くの下宿で暮らしてたみたいだよ。どうやら、先生になりたかったみたいだけど」
「先生に…?」
「うん…」
灯里が言っていた美大生と、俺の記憶の美大生が同一人物なのか、それを確認する術は無い。ただ、灯里が言っていたその美大生も、人当たりが良い人なんだなと思った。
そして、俺達はそれぞれの家に帰って行った。家の中に入っても、両親は帰って来ていない。俺は、一人で夕飯を作って、食べていた。余程忙しいのか、最近一日も姿を見ない事がある。
結局、両親は文化祭に来る気はあるのだろうか。体育会の時、見に来ていたと雄平は言っていたが、思い出してみても、その姿が見えない。体育会の感想らしき事も言っていなかったような気がする。ひょっとして、俺が両親の声を聞かないだけだろうか。あの絵を両親に見せたいかどうかも、よく分からない。
俺は一人で居間を片付けて、自分の部屋に籠もる。そうなると、親が帰って来ても、気づかないだろう。
学校で見せている自分と、家の自分で、時々板挟みになる時がある。絵が完成して、喜んでいた昼間の自分は、もう居なくなっていた。




