謝る事も出来なくて
音楽コンクールの事もそうだが、美術の作品も完成させなければならない。美術の授業の時、俺は珍しく絵と真剣に向かっていた。
まず、白紙に日向丘の地図を書く。お気に入りの地図は、日向丘のページだけ擦れていて、すぐに分かった。そして、それを見ながら写し、建物まで書きこむ。
そして、画用紙の中に白地図が完成した。俺はそれを乾かして、先生に見せに行く。先生は、俺の絵を見て驚いていた。
「海斗君、これで完成かい?」
「はい、これが何処か分かりますか?」
俺の事を見に来た溝口が、こう答えた。
「日向丘の地図?」
「そうですよ」
甲賀先生は、首を傾げながら俺に絵を返した。どうやら、まだ何か足りないらしい。
「そうか、もっと書き込むんだ」
「色を足すとかはないの?」
確かに、この絵は他の絵と並んだ時に地味だ。飾られる時に映えるように色を足した方が良いかもしれない。
「色…?そうだ、建物を灰色に、川を水色に、山を緑に塗ってみよう」
俺は、絵を持って自分の机に戻った。溝口は、そんな俺を不審がっていたが、それは全く関係ない。
溝口に言われた通り、色を足してみる。本当はあまりしたくはなかったが、他の絵と並んだ時の事を考えると、そうした方が良いと思った。
まず、日向川を水色で塗る。学校の近くを流れる川は、蛇行して、海の方まで続く。次は、山を緑で塗ろうとした所で、今日の美術の授業が終わった。
美術の授業の時間が足りないと思ったのは初めてだ。教室に戻ってからも、次はどこをどういうふうに描いて塗ろうか考えている。
家に帰ってからも、それが続いた。宿題を早めに済ませて、剛也を誘ってゲームをしようとしても、絵の事が頭から離れない。俺は白紙を見つけて、また日向丘の地図を書こうとしている。
その時、壁にずっと貼ってあった紙に目がいった。河川敷で亮に出合った時に、連絡先を書いて手渡された紙だ。あれから、一度も連絡を取っていない。その後、亮は元気にしているのだろうか。
俺は、一階に降りた。相変わらず両親は出掛けていて、家には俺以外誰も居ない。家の電話は空いている。俺は、連絡先が書かれた紙を持って、その番号に電話を掛けた。すると、電話の向こう側から、亮の声が聞こえる。
「亮、突然ごめんな?」
「ううん、大丈夫だよ」
元気そうで良かった。亮は向こうの中学校で楽しくやっているのだそうだ。丁度、向こうの中学校でも、文化祭の準備をしているのだそうだ。
「そういえば、もうすぐ文化祭だってね。僕、見に行くよ」
それを聞いて、俺は嬉しくなった。亮に今の俺を見せられる絶好のチャンスだ。あの絵の事も、音楽コンクールも、是非とも亮に見てもらいたい。
「そっか、俺も丁度亮に会いたいって思ってたところだよ」
「うん、ありがとう…」
亮は、俺にまた会えると知って、嬉しそうだった。
せっかく、亮と二人きりで話せるチャンスだ。俺は、三年生で亮と別れた時の話をしようとする。
「あのさ、亮…」
「どうしたの?」
電話の向こう側の亮は、俺の気持ちを知らず、先程と同じ口調で話して来た。思わず、俺は戸惑いの気持ちが漏れる。
「いや、何でも無い…」
俺は、亮と別れた時の事を謝ろうとしたが、言葉に詰まって、電話を切ってしまった。
あの時の事を、亮に謝る事が出来なかった。いや、謝っても亮は何故俺が謝っているか分からないだろう。
亮は俺の文化祭に来てくれると言ってくれた。はっきり言って、両親が見に来るよりも嬉しかった。その時に話してみようか。俺も、亮にあの絵を見てもらいたい。
何年も、親友の亮に謝りきれないでいる。それは、俺の問題だろうか。それとも、亮の問題だろうか。
文化祭は確実に近づいている。ひみつクラブの事、絵の事、音楽コンクールの事、やらなければならない事は沢山ある。
もちろん、文化祭以外の事もおざなりになってはならない。俺は、一日が何時間に伸びても、足りない気がした。




