会いたくなかった、だけど…
亮は、俺の事に気づくと立ち上がって、声を発した。
「久し振り、海斗君」
動揺を隠せない俺は、思わず亮にこう聞く。
「こんな所に来て、一体どうしたんだよ?遠くの町に引っ越したんじゃなかったのか…?」
「何か懐かしくて、来てみたんだ。そうしたら、海斗君に出会えた。」
俺の事を忘れてなかっただけ、安心した。亮の方は、ようやく俺と出会えて、嬉しいと思っているだろう。だが、俺は会いたくなかったような…、それでもずっと会いたかったような、複雑な気持ちでいっぱいだった。
俺の事を今も純粋な眼差しで見つめる亮に、本当は会いたくなかったなんて言ったら、悲しむだろうか。俺だって、本当の所どうしたかったのかは分からない。
「今も、広い世界を見たいとは思ってるよ。だけど…、母さんは僕の何処かがおかしいんじゃないかって言って、病院に行ったんだ。そして、より狭い世界に押し込めた。」
亮は、俺以上に自分の事を責めているようだった。自分勝手な行動でこうなってしまったと言ったら、自業自得と思われるが、亮にも罪の意識はあるようで、今自分が置かれている状況は、仕方ない事だと思っているそうだ。
それから、亮が俺と別れた後の話を聞かせてくれた。亮は、両親に色々な病院に連れられて、問題があると言われたらしい。そして、今は住んでる町から、更に離れた学校に通っているんだそうだ。
「友達は出来たよ、だけど…、海斗君みたいに親身になってくれる友達は居ない。ねえ、広い世界を見たいって思わなかったら、今も海斗君と一緒に居れたの…?」
「亮、あまり自分を責めるな」
確かに亮の言う通りだった。亮が塀を飛び越えるような事をしなければ、俺がそれを止めていれば、亮と別れる事は無かったはずだ。
それでも、亮は広い世界をずっと見たいと思っている。余程強い願いなのだろうか、おかしいと思われても、俺と離れ離れになっても、諦めようとしない。俺は、亮のように強い願いはあるのだろうか。一度考えてみたが、何も思い浮かばなかった。
それから俺は、亮と別れた後の話をした。あれから、俺の周囲は何も変わっていない。小学校から中学校に上がったが、先生が変わっただけで、後は何も変わってないような気がする。
「俺さ、今も美術とかの芸術関係の事が苦手なんだよな」
「それ、ひょっとして僕のせい…?だったらごめん」
「謝るな、亮は本当の事を言っただけだから」
「だけど…」
俺は、美術が苦手だったのは元々で、幼稚園の時の亮の一言のせいではないと、ずっと思っていた。実際、亮と出会う前から苦手意識はあった。幼い頃から、何か造ったとしても、親や先生に褒められた覚えはない。
だから俺は、何かを造る以外の事に集中した。サッカーや勉強、特に地図や図形を書く事には熱心に取り組んだ。その結果、親は褒めてくれた。サッカーを教えてくれた長居先輩に、見込みがあると言われた時は、嬉しくてしょうがなかった。
それでも、美術関係の事では褒められない。心の何処かで、俺の絵を、造った作品を、認められて、褒められたいと思っているが、中々そうならないので、もう諦めている。小学校の図工で造った作品は、卒業制作を除いて全て捨ててしまった。
どれだけ頑張っても、評価されないからだんだん虚しくなって、とうとう頑張るのを辞めてしまった。幼稚園くらいの時は、苦手でも、頑張ろうという気持ちはあったのに、それすら無くなってしまった。
亮は昔から少しも変わっていない。それだけは分かる。それに比べて俺は、亮と違って幼い頃にあった純粋さを失ってしまった。
大人の事も、信用しなくなった。先生の言う事は聞いてはいるが、心の何処かでは、疑いを持っている。また、亮の時のようにいつ責められるか分からないからだ。
そして、俺と亮は河川敷を後にして、別れた。別れ際に、亮は引っ越した先の住所と、電話番号を書いた紙を渡してくれた。
だが、俺は亮と連絡する事はあるだろうか。昔は、他愛もない事を一緒に話した仲なのに、今は亮と何を話して良いか分からない。俺だって、亮以外の友達は居るし、亮だってそうだ。お互いの事のせいで、それ以外の事が疎かになってはいけない。
それだとしても、俺にとって親友と呼べる存在は、亮しか居ない。俺は亮の事を忘れた事はないし、亮だってそうだ。だから、決してあの時の事を忘れてはいけないと、思うのだった。




