白地図の線
今起こっている出来事が過去になった時、それを懐かしく思う事はあるのだろうか。今の俺には分からない。最も、過去を振り返る余裕が無いのだと思うのだが。
もし、過去を振り返られるなら、今は苦痛なだけの美術の授業も、休み時間の何気ない時間も、全て愛おしく思えるのだろうか。いや、楽しかった思い出は楽しかったまま、苦しかった思い出は苦しいまま残るのだから、それはないだろう。
今の俺は、ある線上に居る。白紙の上に書かれた一筋の線は、俺の過去と現在と未来を繋げている。線は途中で分岐して、俺を形どっていく。
俺は白地図の中の線だ。線だけで町を、世界を構成する中の一つの線。俺の存在は、世界の中に溶けて、見えない。この世界の人々は、誰も俺の存在なんか見えていないだろう。
梅雨はしばらく続いている。サッカー部の練習もまともに出来ないまま、大会が刻一刻と迫っている。長居先輩にとって残り少ない大会、それを決して無駄にしたくない。俺は少しでも練習をしようと家の中で練習している。
ある日の事だった。俺は休み時間に剛也と話していた。
「もうすぐ、次の大会だよな」
「そうだな…」
俺は、試合が近いのに練習が出来ないもどかしさを抱いていた。
大会で勝ち進んでいるのは良いが、心の何処かで、何時になったらこれが終わるのだろうと思う気持ちもある。もちろん、大会に勝ち続けるのは嬉しいし、やり甲斐を感じる。だが、それと同時に、終わりが見えないという苦しさもあった。
「剛也は最近練習どうしてるんだ?」
「ああ〜、ずっと個人練習試合ばかりさ」
「そうか…」
剛也もずっと練習している。テニス部の真司もそうだ。俺は、どんなに練習しても、したりない。自分に何か足りないというのは分かっているものの、それが何か分からない。課題というのは、常に自分の中に貼り付いているのに、形が見えない。
それは、いつの間にか始まって、中々終わらない梅雨に似ている。それが終わっても、湿気は置き土産のように夏の間もずっと残ってて、晴れていたとしても蒸し暑くなる。毎年来るのは分かっているのに、いつもそれが辛いのは何故なのだろう。夏には慣れているはずなのに、毎年苦しめられるのは何故なのだろう。
もうすぐ、夏が始まる。夏になったら、テストもある。練習に集中出来るのは今のうちだ。この一日一日を、無駄にしないように過ごして行こう。




