君だけが居ない日々
見知った町並み、流れる川、その上を見上げると青々とした山々が見える。川の近くには畑があり、季節の流れを伝えてくれる。
H県N市日向丘町、俺達の町は地図上でそう呼ばれる。地図の中では小さいこの町が、俺達の住む世界だ。俺はそこで暮らし、今も住み続けている。
俺は船町海斗、当たり前だけど親に付けられた名前だ。船町は父さんの名前で、海斗は両親に付けられた名前だ。
別に俺はそう名前を付けて欲しいとは、言った覚えはない。それなのに、親は俺をそう名付けて、そう呼んでいる。
そんな俺も、今日から中学生だ。着慣れない制服を着て、カバンを背負って、中学校に向かう。そして、式典を終えて、親に写真を撮ってもらった。両親は自分の事じゃないのにどういう訳か嬉しそうだ。別に喜んでとは一言も言っていないはずなのに。
俺はこの中学生生活を楽しみにしている。小学校からの友達は一人を除いてみんな同じ中学校だ。そう、一人を除いては。
俺が唯一親友といえる友達、下田亮は、此処には居ない。小学校はずっと一緒に居た。それなのに、あいつの身勝手のせいで、大人達の理不尽のせいで、俺と亮は離れ離れになってしまった。
あの時止めれば良かった、と幾度後悔しただろうか。亮が学校という狭い世界から、広い世界へと抜け出したいと思ったばかりに、授業中に塀を飛び越えてしまった。そして、亮は先生達に取り押さえられ、問題児扱いされて転校してしまった。それ以降、全く会っていない。
俺は亮の気持ちを誰よりも分かっていた。分かっていたからこそ、止めれば良かったと思っている。俺も亮も、これからもずっと、狭い世界で、生きていくのだろう。
亮の出来事以降、俺は両親も、先生達も、大人達全般が信じられなくなった。大人達が何を言っても、上辺だけで返事をして、内心では不信感でいっぱいだった。
これからも、俺は、大人になるまで大人達の言葉に動かされて、何れはそんな大人達になっていくのだろうか。それだけは、俺は嫌だった。