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突然の手紙を失礼致します
先日私は、ちょっとした偶然から
あなたの書かれた詩を拝見しました
季節について書かれていた
感情豊かなあの詩、−−−−私という季節−−−−です
私はあなたのことを何も知りませんでした
ですから、あの詩が私にとっての初めてのあなたです
そしてお察しのように
こうして手紙を書かせて頂いているのは
あの詩が私の全存在を貫いて、まさに雷のごとく
この体から精神まで余すところなく震えさせたからです
あの詩は、私という季節、という題名を持ち
そしてそれはあなたのことでありながら
私のことでもあり
この地上に現れる様々な季節のなかで生きる
全ての人間のことでもありました
あの詩は壮大であるだけではありません
人間が持つことのできるおよそ全ての感情が
あの一編に見出せるのではないでしょうか
そしてそれを書かれたあなたの目は
なんと深く丁寧に
一つひとつの自然や感情をありのまま捉え
あなたの直観は
その律動を驚くほどの正確さで表現しています
私たちはよく
「どの季節が好きか」という会話をします
もちろん私もそのたわいない会話に参加し
皆の意見を聞いてきました
気持ちいい風のふく春が好きだとか
一番活動的になれる夏が好きだとか
秋の少し寂しい雰囲気がいいだとか
雪の降る冬の景色が好きだとか
答える人たちはそれぞれに頭を悩ませながら
それぞれに素敵な答えを出すものです
しかし私自身はというと
この質問が苦手なのです
どれだけ悩んでも一番を決めることができません
その季節のただなかにいる時
私はその時の季節以外を考えることができません
そして私は思うのです
きっとあなたも、私と同じ意見に違いないと
あなたにとって季節とは
あなた自身のことに他なりません
少なくともあの詩を書かれている時
春とはあなたのことであり
夏も秋も、冬も同じように、あなた自身です
そして春である時のあなたの指先は
新芽を開こうとしている桜の枝のように
氷解していく冬の残す暖かな水気を含んでいるでしょう
あなたの息は
私の心臓に春の菜のような苦味を与えてくれるでしょう
それほどまでにあなたは春であり
春であるあなたはもう
自分は春が好きだとは言いません
しかしあなたを目の前にして
私たち、あの詩を味わう者たちは言うのです
私は、今、あなたのことを愛している、と
どうか、気を悪くされないでください
本来であれば
作者自身と詩は
切り離して見つめるべきなのかもしれません
ですが、「私という季節」において
そんなことができるでしょうか
そしてこのことにも、あなたは同意してくださるでしょう
あなたという存在が
それぞれの季節を代表して地上に立っているのです
あの詩とあなたは関係ないと
そんなことがいったい誰に言えるでしょうか
あなたはありのままあの詩として存在しています
「私という季節」を読んだ私の感動を
どうしてあなた自身にも感じずにいられるでしょう
もし叶うのならば
私はあなたの言葉を聴いてみたい
あの詩のように、ではなく
私だけに向けられた、私だけのあなたの言葉をです
そしてそれは
きっと叶うと信じています
季節は季節だけでは生じえません
その後ろ側に隠れた生命が季節を演出します
どうか私に
あなたの季節を完成させる生命の任を与えてくださいますよう
今
陽の光が
これを書く私の手を照らしています
あの詩を知る私にとって
この光は、あなたの優しい手に他なりません
私の言葉が
あなたにまで届くことを祈っています




