最強は誰?
五田忍、氷室竜貴の力を借りてクリミナルとなった少年である。
「そんな暗い顔するなよ。この俺様が来たんだ。大船に乗ったつもりでいな」
そんな彼の前に立つのは、一匹のリザードマン。職業は傭兵、猿人を殺せるから傭兵になったという殺人狂だ。
「でも、オークやオーガが殺されたんだ。魔法少女でも勝てないって聞いていたのに」
忍は自信を失いかけていた。五常に襲撃をかけたが、何者かの手によって完膚なきまでに阻止されてしまったのだ。
「お前を馬鹿にした奴に復讐したいんだろ?安心しな。俺はオーガやオークより強いからよ」
リザードマンは肩を組む振りしながら、忍の持っている短剣に手を伸ばした。正確には短剣についている赤い魔石に魔力を送ったのだ。
「そうだよな。俺を馬鹿にしたあいつが悪いんだ……折角力をもらったのに、妬ましい」
目に嫉妬の炎を宿す忍。それを見て、ほくそ笑むリザードマン。
(利用されているとも知らずに可愛いもんだ。まあ、俺は猿人を狩れれば良いんだがな……そうだ、あれを使ってみるか)
リザードマンは、猿人を殺す事好んでいた。しかも、ただ殺すのではない。いたぶって、泣きわめく顔を見る事を好んでいた。
特に大事な者が殺され絶望する顔が大好きなのだ。
そんな彼が手に入れたのは、対象者の大切な者を呼び寄せるマジックアイテム。しかも、一番弱い者を呼び寄せる様にカスタマイズしてある。
(運がついているぜ。こんな弱者しかいない世界に来られるなんてよ)
リザードマンは決して、幸運ではなかった。彼は決してやってはならない間違いを犯してしまうのだ。
数時間後、リザードマンは一人の魔法少女と相対していた。赤トンボをモチーフにしたコスチュームを身に付けたDランクの魔法少女。レッドドラゴンフライ・スエッティーこと森林楓である。
「お前、一人になっちまったぜ……泣きな、喚きな。まあ、この結界の中じゃ、助けなんて来ないけどな」
リザードマンは部下を使って、楓達のチームを分断させた。部下にはあえて殺さない様に命じてある。仲間の死体を見せて、絶望させる為だ。
「負けない。SランクやAランクの魔法少女が助けに来てくれる……滑空」
楓は空高く飛び上がった後、滑空を発動した。近くにいる魔法少女に助けを求める為だ。
「良いぜ。逃げな。その代わり、お前の大事な人間に犠牲になってもらうぜ」
そしてリザードマンは、決して押してはいけないボタンを押してしまう。ある意味、自爆ボタンとも言えるボタンを。
◇
おかしい。朝まであった筈の醤油がなくなっている。いつもなら姉ちゃんか向日葵にお使いを頼むんだけど、今日は用事があるらしく、二人共帰って来ていない。
(仕方ない。買いに行くか)
外靴に履き替え、ドアを開ける……嘘だろ?ドアを開けたら、いきなり街中でした。しかも周囲の風景は歪んでいる。
(結界の中?こんな簡単に閉じ込められるなんて!)
魔王のプライドがズタズタです。ここが結界だとしたら、魔物がいる可能性がある。
魔王タイム解禁の条件は命の危機を感じる事。素早い魔物だったら、発動前に殺される危険性がある。
「……げて」
どうするか悩んでいたら、聞き覚えのある声が聞こえきた。
「今の声は、姉ちゃん?まさかな」
偶然呼ばれた結界に、身内がいるなんて、確率的にありえない。なにより、姉ちゃんは魔法と無関係の一般人。結界や魔法とは無縁だ。
(どっちにしろ、出口を探さなきゃ駄目だよな)
結界内で闇雲に歩き回っても無意味だ。とりあえず、声が聞こえた方に向かって歩く。多分、何かある筈。
「しー君、逃げて!」
……そこにいたのは、リザードマンに頭を鷲掴みにされた姉ちゃん。かなり痛めつけられた様で、いたる所から血が出ている。
駆け寄ろうした瞬間、リザードマンが口を開いた。
「こりゃ、弱そうな奴が釣れたぜ。坊主、お前を殺した後に、この魔法少女も殺してやるから安心しな」
姉ちゃんが魔法少女?良く見てみたら、奇妙な赤い服を着ている。
(どうすれば命の危機を感じられる?それ以前に間に合わうのか?)
リザードマンは動きが素早い。オークは動きが鈍重だったし、余裕ぶっていたからなんとかなった。
でも、リザードマンは動きが素早いし、俺を殺る気満々だ。
先手を取らないとまずいな……こっちから突っ込んで、強制発動させるしかない。
リザードマンの方に向かおうとしたら、姉ちゃんが口を開いた。
「しー君、逃げて。お姉ちゃんなら大丈夫……魔法少女レッドドラゴンフライ・スエッティーは負けない!」
姉ちゃんは、もう身体がボロボロなのに、俺を逃がそうとしてくれている。
……いつも優しく笑っている姉ちゃん。
……お菓子やおかずは大きい方をくれる姉ちゃん。
……小さい子頃、俺が泣いていると優しく頭を撫でてくれた姉ちゃん。
体中の血が沸騰し、腸が煮えくり返る……同時にスマホから魔王タイムが発動しましたとの音声が流れてきた。これで姉ちゃんを助ける事が出来る。
「おい、くそトカゲ。誰の身内に手を出したか分かってんのか?」
本来なら所属を確認しなきゃいけないんだけど、そんな暇はない。
「お姉ちゃんの為に、命懸けってか。泣かせるじゃ……なんだ!この魔力は!?」
下手に動くと、あいつは姉ちゃんを殺す。かと言って交渉に応じる様な相手じゃない……魔法を使うか。
「風よ……切り裂け」
狙うは、リザードマンの手首。姉ちゃんを掴んだまま、地面に落ちるリザードマンの手。俺の放った風の刃が、リザードマンの手首を両断したのだ。
「嘘だろ?猿人の癖に、そんな短い詠唱で……聞いて、驚け。俺は魔王軍七将軍が一人、嫉妬のシルバリオン様の配下なんだぞ」
……うん、驚いた。なんだよ、その厨二病丸出しのネーミングは!人が留守にしている間に、好き勝手しやがって。
「シルバリオンだ……なんで、あんな器の小さい奴を管理職に就けたんだよ。信頼回復って、労力半端ないんだぞ!」
シルバリオン、種族はシルバードラゴン。それなりに強いけど、ドラゴンだからなのか自尊心がやたら高い。
人の下に付く事が不満なのか、噂話を流しまくるし、告げ口しまくりで扱いに困った事を覚えている……だから、嫉妬のシルバリオンなのか。
「今がチャンス……お前等、集まれ。やばい奴がいるぞ」
リザードマンが魔石に向かって喚く。あれは、連絡用の魔石か。
「丁度良い。これ借りるぜ」
リザードマンを突き飛ばし、連絡用の魔石を奪う。
「ぐへっ!……この力、お前、猿人じゃねえな。オークが五匹、コボルトが十匹、ゴブリンが二十匹もいるんだぞ」
だって、俺元魔王だし……シルバリオンに知られたら、面倒だ。ここは証拠隠滅をしよう。
「さっき単純詠唱で驚いていたよな。ならちゃんとした、魔法をみせてやるよ……我、命ず。とねりこの枝よ。槍となりて、敵対する者共を貫け……光の槍」
この魔法は、前世で俺が良く使っていた物だ。相手が持っていた物を触媒にする事で、攻撃対象を敵だけにするのだ。味方を巻き込めば戦力が低下するし、市民を巻き込めば賠償問題になる。
「この魔法は……まさか、悲恋王ブーロ!?」
当然、枝はリザードマンも貫いた。勢い余って地面に穴が開いたけど、賠償問題にならないよな。
まあ、リザードマンなんか魔王の敵じゃないんだよ
それより悲恋王って、なんだよ。当たっているけど、配慮って言葉を知らないのか?……待て、何か大事な事を忘れている気が。
考え事していたら、誰かに肩を掴まれた。もしかして討ち漏らした魔物がいたのか……魔王様の肩を掴むとは、不敬者め。
「しー君、ちょっとお姉ちゃんとお話しようか」
そこにいたのは、満面の笑みを浮かべているお姉様。でも、目が笑っていなくて怖いです……どうやって、誤魔化そう。




