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振られて転生?

かなりお待たせしました

 幸せ過ぎて、朝からにやけが止まらない。三百歳を越した魔王がニヤニヤ笑っていたら、不気味を通り越して怖いと思う。でも、気を抜くと頬が緩んでしまうのだ。

 ……魔王ブーロ、今日結婚します!長かった。本当に長かった。

 普通の魔族として生まれた俺だけど、ひょんなことから創世の女神クレア・ガルディエーヌの元で修行する事になった……いや、あれは修行なんて生易しいもんじゃない。女神おにばば基準の修行は正に地獄でした。

 しかも、あの鬼ば……大変お美しい女神さまは卒業試験に合格すると、俺にこう言ったんだ。

『ブーロ、今日で修行は終わりです。よく耐えましたね。さあ、今から地上に戻り魔族を統一するのです』……もう一度言っておく。俺はごく普通の魔族だ。つまり後ろ盾なんてない。むしろ諸般の事情からマイナススタートなのである。

 でもね、神様って怖いし、酷いの。魔族を統一しなきゃ死ぬって、契約を勝手に結んでるだぜ。

 その頃の魔族は各部族が覇権を巡って、争っていたんだ。

 魔族は、自分より強い者しか認めない。つまり、俺一人で全魔族を屈服させろって事なのだ。

 でも、頑張った。各部族の王をぶちのめしたり、裏で手を引いていた邪神を封印したり……とにかく頑張って、魔族を統一して王となったのだ。

 若い頃は、王様になれば毎日がパラダイスだと思っていた。

 でもね、魔族を統一したら、猿人が攻めて来たんだよ!言っておくが、こっちからは手を出していない。昔から迷惑をかけられていたのは。俺達まぞくの方だし。

 まあ、王となった今なら分かる。隣国が統一されたら焦る。俺も妖精族やエルフの国が統一されたって聞けば、警戒するもん。


「ブーロ様、こちらにいましたか。探しましたよ」

 声を掛けて来たのは、俺の腹心である部下ネズミ族の魔導士テチュ。


「柄じゃないけど、心がウキウキして落ち着かないんだよ」

 こんな気持ちはいつ以来だろう……心の奥底に封印したあの時以来か。


「ブーロ様、結婚おめでとうございます。さあ、奥様がお待ちですよ。これでこの国も安泰ですね」

 テチェはそう言うと、微笑んだ。俺達は長い間辛苦を共にしてきた。それがようやく実を結ぶのだ。


「ああ、これで猿人達との争いが終わり、ようやく平和が訪れる」

 猿人達と争う様になり三十年。戦況が魔族有利となった事もあり、向こうから停戦の申し出があったのだ。

 都合の良い申し出ではあるけど、俺達魔族がこの戦で得る物は少ない。俺は、何の条件を求めずに停戦に応じた。

 そうしたら、猿人サイトは和平の証として姫と結婚して下さいと言ってきたのだ。

 婚姻を結んだら、戦争は起きない筈。何より結婚が出来る。俺は速攻応じた。

 本来魔族はある程度の年齢になると婚約者が決められ、その相手を生涯の伴侶とするのさ。しかし、俺はある事情から三百歳を超えるまで独身だったんだ。

 ……良いじゃん、政略結婚でも。幸せになって『そんな事もありましたね』笑えれば良いんだし。


「コローナ国のリアン姫と言えば、猿人の中でも有数の美人ですよ」

 ……別に美人だって聞いたから、婚姻に応じたんじゃないからな。俺でも良いって言ってくれた姫が、たまたま美人だっただけで。


「式にはまだ日がある。望み宝珠に、要望は届いているか?」

 王たる者、国民の声をきちんと聞き、ピンチには手を差し出さなければいけない。でも、国民全員と話をするのは無理だし、全員のピンチに駆け付けるのも無理だ。

 そこで俺が作ったのが、望みの宝珠である。宝珠は各地に設置してあり、俺の首に掛けてある魔石と繋がっているのだ。

 緊急時に宝珠に手をかざして望みを言うと、俺の魔力で願いが叶う様になっている。

 飢えた者には食糧が届き、怪我をした者は治癒の魔法が掛かるのだ。

 また生活に不安を持つ者や、悩み事がある者も宝珠に願うと各職員が対応するシステムになっている。

 ただし、望みの宝珠を使う際には、守らなければいけない決まりがある。願いを叶えてもらった後に、それに応じた魔力を返してもらう。きちんと分割にも応じる。

 ただし返納しないと、罰則があるぞ。悪意がある場合は、魔王軍の怖いお兄さん達が駆けつけて、強制徴収するからな。


「望みの宝珠に国民からお祝いの言葉が沢山届いていますよ」

 長年の苦労が報われた、心の底から、そう思えた。


 ◇

 それは誓いの口づけをする時に起きた。

 花嫁が隠し持っていた短剣で俺の腹を刺したのだ。純白のウエディングドレスが返り血で真っ赤に染まっていく。

 唖然あぜんとしている俺を見て、リアン姫が満足気に微笑む。


「魔王ブーロ討ち取ったり……この勝利を愛するクロヌ王子に捧げます」

 姫は血の付いた短剣を高々と掲げ、勝利を宣言した。俺は魔王だ。普通の短剣では死なない。

(なんでだ!?回復魔法は使えないし、魔力がどんどん抜けていく)

 しかし、腹に出来た傷からは大量に血液と魔力が流れで出ていく。回復魔法を使おうとしても、何かに阻害されて効果がでない。


「じ、自分が何をしたのか分かっているのか?」

 魔王軍と人間が戦いを始め、もう三十年が経つ。これ以上無駄な犠牲を出さない為に、停戦をする事になったのだ。

 今回の結婚をそれは祝してのもの。その花嫁が花婿おれを殺したとなれば、戦火はさらに拡大するだろう。


「貴方さえ死ねば魔王軍は弱体化します。それにこれがあれば私達の戦力が強化出来ますわ」

 そう言うと姫は、俺から望みの宝珠とつながった魔石を奪い取った。朝から祝いの言葉と共に大量の魔力が捧げれていたので、魔石は眩い位に輝いている。

  今の魔石を使えば、コローナへの転移も簡単に行えるであろう。


「……ザ、ザンナの連中がだまっ……」

 どんどん意識が薄れていく。俺は姫が魔石と共に城から姿を消すと同時に意識を失った。


 ◇

 目を覚ますと、懐かしい場所にいた。見覚えがある場所だけど、なぜ俺はここにいるんだ。

 ここは師匠の神域か……ある意味、俺が一番来たくない所だ。

 ここは創世の女神クレア・ガルディエーヌの神域。かつて師匠にしごかれ……修行した思いトラウマの地である。


「おお、ブーロよ。しんでしまうとは何事だ……結婚式当日に花嫁に刺されて死ぬなんて……面白ろ過ぎですよ」

 ハンカチを目にあて泣いたふりをする金髪碧眼の女性。絵に描いたような美しさと気高さを持っている。

 この方の名はクレア。この世界クレアーズを作った創世神であり、俺の師匠でもある。


「師匠……お久しぶりですね……視ていたんなら、助言してくれても良いんじゃないですか」

 創世神である師匠は、天界にも地上界にも干渉しない。時折、様子を見て助言を与える位しかしないのだ。


「ブーロは三百歳を超える良い大人じゃないですか。モテな……事情があって、その歳まで独身だったとはいえ、女の嘘位簡単に見抜けると思っていたんです。それがまさか殺人犯相手に鼻の下を伸ばして、殺されるなんて……だっさ過ぎですわよ」

 うん、相変わらず遠慮がない。いや、創世神が遠慮する訳ないんだけどさ。もう少し傷心の弟子に気を使っても良いんじゃないでしょうか?


「修行の後はずっと戦漬け、仕事漬けだったんですー。女に馴れる暇なんてありませんでした……早く戻して下さい。そうじゃないと、再び戦火が拡大してしまいます」

 魔族の中には『猿人は滅ぼすべきだ』と主張する者も少なくない。

 特にザンナ軍の族長ルーボは、猿人撲滅を主張している。俺への忠義心は皆無であるが、仇討ちを理由に再戦を主張するであろう。

 俺だって猿人は好きじゃない。過去の経験もあり、むしろ嫌ってさえいる。

 しかし、これ以上戦が長引けば、民にも害が及んでしまう。それだけは絶対阻止しなくてはいけない。

 俺は師匠に向かって、懇切丁寧にプレゼンした。


「無理です。貴方、死んだんですよ」

 ……嘘だろ。師匠は、あっさりと死を告げた。創世神師匠は、輪廻転生も司っている。その所為か、死を不幸と捉えない。

 不幸な目にあって死んだ魂は来世で幸せにすれば良い、そんな感覚なのだ。


「死!?猿人の作った玩具みたいな短剣で?……まさか……」

 思い当たる事が二つもある。どちらもろくでもない事だ。

 一つは短剣を作ったのは、人ではなく神かそれに類する者だという事。そしてもう一つには、俺の過去が深く関係している。


「ようやく気付きましたか。あの短剣を作ったのは、猿人を守護している神です。全く貴方がもう少し女性の事を理解していれば、防げたんですよ。王たる者が、女の色香に騙されて死ぬ等情けない」

 王が倒されれば国は混乱してしまう。俺が殺されたとなれば、戦火は確実に拡大する。卑怯な手を使われたと言っても、政治や戦で騙し合いは常套手段だ。


「二度と女に気は許しませぬ。師匠、俺を生き返らせて下さい」

 床に頭をこすりつけ、師匠に懇願する。女神である師匠なら、死者を甦らせる事は朝飯前だ。

 もちろん、俺も蘇生魔法を使える。さっきから詠唱しているも、なぜかうまくいかないのだ。


「それじゃ、貴方が成長出来ません。ブーロに命ず。異世界二ホンに転生し、伴侶を見つけて来なさい。お嫁さんを見つけてきたら、ちゃんと甦らせてあげるわよ」

 そう言うと師匠は、手のひら大の魔石を取り出した。その中にあったのは、まごう事なく俺の身体。


「待って下さい。この世界でも嫁位見つけられますよ」

 異世界転生なんてしたら、今までの苦労が水の泡になってしまう。だから俺は必死に訴えたのだ。


「はっ!仕事以外じゃ異性とまともに話せない癖に嫁を見つける?キスどころかデートすらした事がないチェリー魔王の癖に!?……偶然の出会いからの結婚なんて物語の中だけです。きちんと現実を見なさい。転生は決定事項、覆りません。ちなみにチキュウには猿人しかいないので覚えておく様に」

 事実なだけに、俺は押し黙るしかなかった。せめて、キスしてから、刺して欲しかったな。

 しかし、どうしても反論したい事がある。


「俺が猿人嫌いなのは知っているでしょ!あいつ等は欲の為に魔物を殺すし、平気で人を裏切る」

 魔族と猿人の関係が悪化したのは、猿人達に原因がある。あいつ等は珍しい武具やマジックアイテムを持っていると、徒党を組んで襲ってる。魔族は悪だと決めつけ、幼い魔族でも容赦なく殺す。


「最初から悪だと決めつけていたら、本当の事が分からないでしょ?魔族を襲う猿人は極一部。そして猿人を襲う魔族もいるのも事実。ブーロに命ず。人とは何か、平和とはなにか?日本で学んでくるのです」

(どうする。下手に逆らえば、生き返れない。でも猿人の女を口説くなんて無理だぞ……魅了を使ってお友達になる。その後にお願いをして、嫁の振りをしてもらえば良いんだ)

 我ながらナイスアイディアだ。魅了は後から解除すれば良いんだし。


「分かりました。異世界二ホンに転生すれば良いんですね」

 俺は知っている。師匠はやると言ったら、絶対にやる神だと言う事を。

 そして師匠には戦いでも口でも勝てない事を。この人恐ろしい位、強いんだって。


「納得したみたいね。それじゃ転生してきなさい……そうそう、今の力は向こうだと過剰戦力になるから、条件を満たさないと使えないから……魅了どころか魔法が使えません。魔王の力を使いたくなったら、頑張って条件をクリアしなさい」

(無理だって。俺、女の子と話した経験が殆んどないんだぞ。魔法を使えないとなると、結婚どころかお友達になる自信もないぞ)


とりあえず十話 励ましで頑張れます

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