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神の名のもとに〜異世界と現実の狭間に生きる〜  作者: 麒麟燐
第二章 王政奪還編
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第十四話 天照大神


 目を開くと、そこは白の世界。

 何もない世界に、悠斗、ノア、美楽、絵美が転移させられていた。

 ぎゅっと閉じた瞼を恐る恐る開き、周囲を確認する。

 キョロキョロと辺りを見回すが、全てが白。

 地を踏む感覚こそあれど、上下左右がまるで分からない。

 これが試練突破ということなのだろうか?


「ようこそ、白紙の世界へ」


 唐突に、背後から声がした。

 驚き振り返ると、全員が同じ動作をしていた。

 そんな友人たちの先、一人の大人の女性が、着物のような巫女のような、表現に迷う装いで微笑んでいた。

「どうしてまた、面会で?」

 女性の隣には、さっきまで悠斗たちと激闘を繰り広げていた男の姿があった。

 試練関係の知り合いのようだ。

「ジョーカーへの信頼度が低い事、そして、身分が同等かそれ以上の方を相手に失礼な挨拶はできません。分かりますね?」

 男を嗜めるような口調と視線。

 前者はともかく、後者には全く身に覚えがなさそうだ。

「同等かそれ以上って……あの嬢ちゃんが?」

 男が目を丸くして吟味している。

 その様子を側から見る悠斗は察してしまう。

 女性の指す高身分の者とは、自分であると。


「はぁ……やっぱり気づいていませんでしたね」


 女性が男に落胆しため息をついた。

 額に指を当て頭を抱えていた。

 相当参っているように見える。


「彼が、かの有名な神本悠斗様ですよ」


「いいっ! あの兄ちゃんが?……アマ様、さすがに俺の真似事なんてしなくても……ほら、ジョークジョーク……?」

「事実ですから、その失礼な指差しと呼び方を改めてください」


 試練監督側で勝手に話が進んでいく。

 挑戦者側は張り詰めていた空気もすっかり収まり、むしろ脱力感に襲われていた。

「アマ様……って、もしや、貴方があのアマテラス様でしょうか」

 美楽が姿勢と言葉を整えて尋ねる。

 美楽が、まるで悠斗と対面する伊龍のように畏まる。

 こう言っては失礼だが……面白い。

 絵美も時間差で笑っていた。


「おうおう嬢ちゃん、天照大神様だぜ。アマテラス様なんて気安く渾名で呼んでんじゃ――」

「ジョーカー、黙りなさい。貴方の態度よりはマシですよ」

「――うぇい」

 渋々、と顔だけでなく言葉にもはっきり出ていた。

 まず、返事から論外だ。

 そんな返事は日常茶飯事なのか、天照大神は気にする事なく話を戻す。

 ジョーカーと呼ばれた男はその仏頂面のまま一歩引いた。


「貴方が挑戦者、ヴェルディア・ミラーですね」

「は、はは、はい!」


 あの美楽が、人を相手に声が裏返る。

 絵美の笑い声が大きくなった。


「よく試練を突破してきました。全て見ておりましたが、それは素晴らしい物でしたね、感心しました」

「あ、あああ、ありっ、ありがとうございますっ!」

 テンパっている美楽がなんだか幼く見える。

 勿論、天照大神の背の高さもあるが、やはり美楽の豹変振りと、美楽を超える大人びた性格の神様が主な理由だろう。

 頭を深々と下げ、感激したような声をあげている。

 絵美の笑い声ももう届いていないかもしれない。


「しかし、まさか神本様を助っ人で呼ぶとは……面白いですね」


 天照大神が悠斗を見据え、目を細めた。

 流石に緊張感が走る。

 何かに正されたように姿勢を伸ばし、息を飲む。


「は、はい……悠斗さんに、頼まれて……」


 次第に声が弱々しくなる。が、悠斗は聞き取った。

 聞き取ったぞ!

 おかしいぞ!

 あれ〜〜〜〜?

 依頼に来たのは美楽だったはずだぞ。


 嘘か、嘘だな、嘘なんだろ、嘘しか有り得ない。

 何故ここで誤魔化す。


 野暮な事……ではないが、ツッコミは控える。

 控えておくけれども!


「ふふっ、そうなんですね」


 違うけどね!


「さて、八咫鏡のことですが……」


 唐突に話題が切り替わる。

 優しげな微笑みから一変、真顔に戻る。

 きりりと凛々しい表情がたくましい。

「世界へ戻った時、貴方に備えられているはずです。確認してください」

「はい!」

 両手を腹の前で揃える天照大神。

 その言葉に敏感に反応して強く声を張る。

 漸く、この試練にひと段落がついた。

 それに間違いはない。

 だが、

「その後、貴方にはここでジョーカーのように試練監督をしていただきます」

「…………」

 美楽の表情の歓喜の色が薄れていく。


「ぇ……」

 声を漏らしたのは絵美。

 初耳だと、笑いを中断し二人のもとへ駆け寄る。

「何それ美楽、私聞いてないよ」

 様相を変え激しく美楽に迫る。

 方を掴んで揺さぶりながら詰問する。

「私も、知らされたのは今が初めてです……」

 美楽の方は絵美と違って随分と冷静だ。

 とすると、

「可能性は考えていたんですね」

 初めて悠斗が口を挟む。

「そうなの? ねえ美楽!」

 悠斗の指摘が的を射ていたため視線を逸らして鼻白む。

 ノアも悠斗も短い付き合いだったが、今生の別れのような演出で言われると、さすがに胸にくる。


「……はい……可能性はあると……思っていました」


 美楽の観念した告白に絵美が驚愕し、ジョーカーは天照大神を一瞥した。

 悠斗とノアは傍観者として気持ちを抑え静かに見守る。

 天照大神は、何を思っているのか、表情に一切の変化が見られない。


 白い空間に浮いている美楽たち。


「貴方は、受け入れると言う事ですね?」


 絵美たちの言葉も虚しく天照大神が確認を取る。

 その言葉は絵美たちにとっては無情な物だった。

「……はい」

 絵美を一瞥しつつも、目に悲哀の色を残して天照大神へと向き直り、力強く頷く。

 その瞬間、美楽の両肩に乗っていた絵美の手が、するりと力なく落ちていった。

 悠斗とノアは無言で見守る。

 但し、悠斗の見守ると、ノアの見守るでは行為の持つ意味合いが少々違った。


「もう二度と、外界は出ることは叶わないかもしれません。それでも、いいんですね?」


 最後の脅迫。

 ここを頷けば、絵美たちとの縁を代償に八咫鏡の力を手に入れられる。

 絵美は美楽の意を決した表情に言葉を失っている。

 まさか、こんな所で別れるとは。

「試練に合格した以上、放棄はできません」

 肯定としか取れない言葉。

 絵美の目からは小粒の涙が白の世界へと垂れていく。

 その雫が、いつ落ちたのか、この世界では分かり難い。


「アマ様、これ以上はジョークが過ぎますぜ?」


 ジョーカーが小芝居に呆れ、嘆息しながら主人に物申す。

 主従関係と言うより、友人関係に見える。そう言えばまだ一度も主従の関係だとは聞いていなかったな。

「そうですね。久々なもので深く掘り下げてしまいました」

 天照大神が太陽のように眩しくなる。

 そしてジョーカーに一度微笑むと美楽に向き直った。

「……何の話でしょうか?」

 美楽が、恐縮ながら、と言った表情と態度で問う。

 悠斗はなんとなく察しがついたが、絵美とノアはキョトンとしていた。

「これで本当に試練に合格。晴れて八咫鏡の所有権獲得、ということです」


「……? それはどう言う……」

「つまり、今のも試練の一環、と言うことですよ。そうですよね?」

「ええ、その通りです。さすがは神本様」

 悠斗の端的な説明に天照大神が苦笑を含めて深く一度頷いた。

「試練……? 今の会話がですか?」

 情報処理の遅れている美楽。

 爽やかな様子で佇む天照大神に眼を見開いて質問を加える。


「最終、第六の試練。『度胸試し』です」

「度胸……試し?」


 試練内容に首を傾げた。

 折角別れを決心したが、気勢をそがれやるせない気持ちになる。

 そんな美楽の心中を察してか、ジョーカーが割り込んできた。

「毎度毎度、試練に来る奴らは俺たちを認めさせる実力を持ってんのさ。でもな、悲しいことにここで働き詰めだと告げた途端に試練を放棄しやがる。勿論俺からすれば愉し過ぎる仕事だぜ?」

 ジョーカーはジョーク抜きで「全く度し難い奴らだぜ」と惜しまず披瀝する。

 絵美は不意打ちの不意打ちに開いた口が塞がっていない。

 ノアも美楽も唖然とし言葉を失っている。


「どうか気を落とさないでください。貴方は素晴らしい気骨の持ち主で、間然するところがありません。貴方のような真っ直ぐな方は、本当に数年ぶりなんです」


 称賛か激励か、それとも歓喜なのか。

 真意がどれであれ、天照大神の言葉に嘘偽りはなかった。

「……えっと、じゃあ……美楽は……」

「ええ、ここに勤める必要はありません。どうぞご自分の気の向くまま、ご自由な人生を歩んでください」

「ぇぇっ…………!」


 絵美が全身を慄かせて尋ねる。

 それへの返答はやはり予測通り。

 美楽や悠斗、ノアに見せた取り乱した自分を思い返し大損害を被った気分になった。

 彼女の内心は悠斗の頭にありありと浮かんで見えた。

「……ふふっ、絵美……さっきの絵美ったら……泣きそうで泣きそうで……ふふふっ」

 今日1日の仕返しと言わんばかりに美楽が絵美の取った態度と行動を揶揄って見せた。

「もうっ! 美楽もその人もキライっ!」

 美楽の含み笑いに絵美が幼く怒りを見せた。

 方向も方角もわからない世界で美楽と天照大神から視線を背け頰を膨らませていた。

 その光景に悠斗もノアも思わず苦笑した。


「あぁ、みんなして酷い! 乙女の純情な感情を笑うなんて」


 絵美が更に膨れそっぽを向く。

 やはり態度がエリカにそっくりだ。


「おっと、どうやら時間を掛け過ぎたようですね」


 そんな雑談もやがて収束させられる。

 天照大神の一声に一同振り返らざるを得ない。

 絵美は少し膨れて腕を組みながら、他の3名は普段通りに天照大神と向き合う。

「ヴェルディア・ミラー。帰還後、貴方には八咫鏡の力が宿っているでしょう」

「はい」

「貴方の気概、大切にしてください」

「はい!」

 神様からのお告げ。

 美楽はそれを心に大切に仕舞い、健やかで晴れやかな笑いを見せた。


「神本悠斗さん」

「うぇっ! はい」


 まさか御指名あるとは想像だにせず、声が裏返る。

 咄嗟に姿勢を正し偉大なる神話の神様と対峙する。

「いずれまた出逢う機会があるでしょうから、その時には是非お話を」

「……? はい」

 預言じみた言葉に難色を示すが、返事は大切、きちんと応答はする。


「ノアさん、絵美さん、貴方がたもミラーさんとの絆、更に深めてください」

「は、はい!」

「……うん」


 最後の指名。

 ノアの快活な返事に対し、絵美は先のハッタリをまだ根に持っているのか、少し怒気を混じらせて返事した。


「ふふっ、それでは、また」

「兄ちゃん、色々悪かったぜ」


 天照大神とジョーカー。

 二人は白の世界に溶けていくように光り始めた。

 二人の輝きが最高潮に達した時、悠斗たちの視界は眩さで真っ白に染まっていた。



 真っ白に染色された世界が数秒続き、次の瞬間――


「っ――」


 拝殿の前に佇んでいた。



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