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神の名のもとに〜異世界と現実の狭間に生きる〜  作者: 麒麟燐
第二章 王政奪還編
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第十二話 激しさ倍増


「打倒方法は二つ。鏡でカバーできない質量の攻撃か、鏡を全て取り除くこと」


 美楽が作戦を提示する。

 隠したところでいずれ勘付かれるため、初めから警戒させておく。

 悠斗たちの後ろに崩れた瓦礫が散乱している。

「っし、ノア!」

 瓦礫の中から丈夫そうな掌サイズの石を掴み男に豪速球として全力投球した。

 ノアに意思を汲み取らせ名前を呼ぶだけで指示を通す。

「はい!」

 ノアがテレポートし男を無理矢理鏡の前に引っ張り出す。

 鏡の前で無防備に放り出された男はなす術なく――

「悪いな嬢ちゃん」

「んぐっ!」

 テレポートの性質上ノアに触れられた男は、移動先でその手を掴み、もう片方の手で素早くノアの目を覆う。

 ノアの視界を塞いでテレポートを阻害すると上手に体を拘束し身動きを封じる。

 そして、

「ぐっぅぅ!」

 悠斗の投石がノアの肩に命中した。


「っ! ノアっ!」


「あガァァァッッ、い、いだい……ッ」


 直後に襲ってくる衝撃と痛みに涙を流す。

 患部を押さえて止血しようにも手足は拘束されて身動きが取れない。空気に侵食され、傷がさらに痛みだす。

「まだまだ甘いぜ――っ!」

 ノアの拘束を解かない男に悠斗が殴り込みに踏み込もうとした瞬間、男がノアから身を離し、その場を離脱した。

 後方に引いた男は即座に一枚の鏡を自分の腹のあたりへとスライドさせる。

 刹那――一筋の光線が男の腹を穿たんとして放たれた。

 光線は男の鏡で反射して天井へと焦点を変えるが、光線の出所が悠斗の予測を上回る位置だった。

 なんと、倒れるノアの背後から、男に向かって筋が伸びている。

 ノアが負傷し血の垂れる右肩を押さえながら膝をつくと原因が明らかとなった。

「美楽さん!」

 ノアの背後から小さな姿を現したのは、美楽の現出させた小型鏡。

「小さいと便利なこともあるんです」

 ノアのテレポートの質量にギリギリ収まったようだ。

 そして、ノアのポケットかどこかへと姿を隠し、今の瞬間を狙ったわけだ。

 惜しくも命中しなかったが。


 更に美楽は追加で二つの鏡を現出させ、計三つの鏡から男に光線を発射する。


 光線が重なり男が死角に位置する。


 悠斗はその隙を狙い男へと狙いを定め全速力で接近した。

 その間、絵美がノアの肩を持ち場を離れると何やらスケッチブックをペラペラとめくっていた。


「っ!」

 息を殺して男へ急接近し死角から不意をついた攻撃を繰り出す悠斗。

「ぎぃっ!」

 止まない美楽からの光線に気を取られ反応の遅れた男は、鏡で対処する余裕がなく素手で悠斗の両手を捕まえた。

 互いの手を掴み合い、戦闘によく見る力比べが始まる。

「はっ」

 悠斗は素の力勝負なら負けないと笑みを溢す。

 さすがの試練監督も切羽詰まった様相だ。


 未だに美楽からの攻撃も止まない。

 しめた、これなら押し切れる。


「こいつがあるぜ」


 男は笑い、後ろに備えていた大鏡を悠斗へとぶつける。

 光線を撃たないのは自分への被害を避けるためだ。

 悠斗への威力はなさそうに思えるが、鏡面をぶつけた時、悠斗に与えられる衝撃は悠斗の肉体の硬質度と同力。

 よって、自分プラス男を相手にしている構図となる。


 特大鏡の動きから悠斗の状況を見兼ねた絵美がついに動く。

「悠ちゃん、その人離さないでね」

 悠斗に叫び、ノアを美楽の側まで寄せるとそこに自分の踏み止まる。

「美楽、ずっとそのまま」

「はい」

 集中力を保ったまま、美楽が小さく首肯した。

 絵美の表情が珍しく真剣そのもの。


 彼女はここへ来る前に言った。

 やる時はやると。


 美楽も長年友達をしていながらも絵美の本気――否、まともな戦闘を見たことがない。しかし、彼女と長年培ってきた信頼の元心配などは微塵もない。


「プロテクター」


 絵美が呟きながらスケッチブックのとあるページに手を突っ込む。

 そこから軽々と巨大な球体の物質を取り出す。

 正六角形がいくつも密着した奇妙に煌めく球体は絵美のいる一帯保護するように覆うと、彼女たちの周囲とそれ以外の場所がまるで別世界のように分離された感覚を覚えさせた。

「悠ちゃん、ちょっと結構我慢してね」

「は?」

 絵美の声に拍子抜けした声を出す。

 力こそ抜かず必死に男をその場に止めるが……嫌な予感がしてきた。

 途端に背筋が冷える。


「SRBM(short-range ballistic missileの略)」


「エスアールビーエム?」

 悠斗が言葉に首を傾げ、そこに特大鏡がぶつけられた。

「なんだそりゃ?」

 男も面白そうに笑った。

 組んだ手は既に力を弱めており余裕が見え隠れしている。

 だが、性格上も、今の状況からも男は逃げ出せない。


 美楽も言葉の意味を理解できずチラと横を見た。

「っ! あなた何を⁉︎」

 美楽が突如攻撃の手を止め絵美の肩を掴む、が既に彼女の手はスケッチブックの中。

 その小さな一枚の紙の中から特大の短距離型弾道ミサイルを取り出し、

「ドォーーン!」

 爆音を意味する掛け声とともに、まだ完全に現出しきっておらず、サイズが小さいそれを二人の元へ投げつけた。


「「はああァァァァァァァ⁉︎」」


 悠斗と男が仲良く仰天し、一秒後――


 どうとも表現できない耳を引き裂く轟音が室内を吹き飛ばす。

 天井が崩壊し、地面が爆ぜ、天地がひっくり返るような大地震が起こる。

 1分以上は瓦礫の崩落が止まなかった。


 揺れが鎮まり、天井の崩壊が止まる。

 抉れた絵美の力で守られた部分とそのほかの部分では、地面の高さに10メートルかそれ以上の陥没差があった。


「あちゃーー、さすがに悠ちゃんでもキツかったかなー」


 絵美が頭を掻きながらバリアを解除して下を覗き込む。

 圧倒的な武力を前に美楽は疲労も忘れて唖然としていたが、絵美の一言で我に帰る。

「絵美! あなたなんてことを! そんな惚けたことを言って!」

 美楽が崖になった土地の前で絵美の肩を掴みグラグラと揺さぶる。

「わっひゃぁーーっ……び、びびびび、ビックリするでしょ……ああ、死ぬかと思った……」

 美楽の行為に肝を冷やした絵美が冷や汗を拭い、胸部を押さえてふぅー、と息を吐く。

「ビックリ? それは私です! あなた悠斗さんになんてことを! もし悠斗さんが死んだら……死んでしまったら……私のこの想いは、願いは、どうしてくれるんですか……。恩返しだって何一つ……」

 悲しげに声の調子を落としていき、終いには顔を覆って泣き出した。

 あの大人びた女性像からは想像もできない女性らしい脆い感情だった。


「ぷぷっ……そ、それで、その……ぶふっ……その、想いと願いって、何……?」


 絶壁の前、絵美が絶壁を背後に、美楽がその絵美を前にしている。

 美楽が詰問する中、絵美が笑いを堪えて詳細について説明させようとする。

「っ――! あなたは知っているでしょう! いつまでふざけているんですか! 見損ないました!」

 涙を散らして怒り叫ぶ美楽。

 それに笑いが止まらない。

「ぶふっ! あははは、あはは、ぅっ、ぶっ、ご、ごめんごめん、待って……ぶっ、ぷふっ、と、とま、止まんない」

 美楽の逆鱗に触れてもその馬鹿笑いを続ける。

「絵美‼︎‼︎」

 彼女の本気の怒号が響き、天井の崩れ残った残骸がパラパラと舞い散る。

 遂に美楽が掴み掛かろうとし、一歩強く踏み込んだ、


「……あの……美楽さん……」


「…………ぇっ」


 美楽の動きが時間停止したように膠着状態へと入った。

 漸次顔が紅くなり、沸騰したかのように熱を帯びている。目を凝らしていると湯気まで見えてきそうだ。


 絵美が地を這い、安全圏まで辿り着くと笑い転げる。

 その音がよく響いた。


「えっと……なんか、すいません……」

「っ――!」


 更に温度が高まる。


「それと……なんか、ありがとうございます……」

「っっ――――‼︎」


 もはや立っているのが精一杯といった様子でガタガタと振り返る。

 そして、その美楽の視線の先、健全すぎる無傷な悠斗が頭を下げていた。


「いいいいいいい、いい、いい、いつから……」


「ミサイル直撃の直前に……ノアが、その、はい……気を利かせてくれまして、ですね……」

 思わず敬語。


 美楽の正気の抜けた視線がゆるゆるとノアに移動する。

 ノアは気まずそうに視線を逸らした。

 彼女の肩は悠斗の能力でいつの間にか治療されており痛みに顔を顰めることもない。

 ただ己の片肘を持ち視線を美楽から遠ざけるだけ。

 その様子から二人が傍観者だったことが証明された。



「まだ死んどらああぁぁぁぁぁーーーーーーーーん!」



 突如、10メートル崖下から叫び声がしたかと思うと、何かが延々と収まらなかった土煙や爆煙を吹き飛ばして飛び上がってくる。

 声や気配から誰かは一目せずとも瞭然。

 全員の意識が男に釘付けとなる。


「嘘でしょ、タフすぎー」

「核ミサイルで生きてるとか、バケモンだな」

「この試練、いつまで……」

「さすがに厳しいですね」


 各々が感想を吐露していく。

 男は相変わらず浮遊能力を上手く使いこなす。

 煙の底から飛び出たその体に目立った外傷はなく、悠斗と同じく無傷にも思えた。


「あんな程度、俺には効かないぜ」


 男が粋って鼻を擦る。

 しかし事実っぽい。

 この攻撃が効かなければこの先どんな攻撃を撃ち込んでも悠斗たちの体力が削れるだけで、一向に進展がない。

 もはやこれまでか、

「なんてな、ジョークジョーク!」

 いや、男が勝手に暴露を始めた。

 一人勝手に感賞する。

 この男の心情は本当に忖度できない。

 悠斗でさえも他意や真意を読み取れず惚けた口をポカンと開けて聞いていた。

「さすがにあれは響いたぜ。ICBM? なんて初めてだぜ」

「SRBMね」

「どっちも同じもんさ」

「いやいや、短距離型と長距離型は違うから」

「同じミサイルさ」

 男の感心した口調に水を差すように絵美が指摘を繰り返す。何故かミサイルに関して細かい。まさかミサイルマニアなのか?

 そんな恐ろしいマニアが存在するのか……。

 というか、男が「ミサイルなんて初めてだぜ」とか言っていたが、普通誰だって初だろう。

 むしろ披露会に立ち会えたことを光栄に思えるレベルだ。


「見ろ、お陰で俺自慢の特大の鏡がお釈迦になっちまったぜ。これはまた、数年ぶりだぜ」


 そう言って手元に中くらいの、そう、丁度男が足を乗せている鏡サイズの鏡を現出し、鏡面を地に向ける。

 するとそこからぱらぱらと粉砕された特大鏡が煌めきながら崖下へと舞い散っていった。


「俺もタダじゃ済まなかったぜ、あんなの食らってたらな」


 意味深に言葉を選ぶ男。


「――まさか」

 と、美楽が察し、顔を強張らせながら目を見開いた。

「さすが、メイン挑戦者。察しがいいぜ」

 あの美楽が物怖じした様子で一歩足を下げた。


「俺は完全(パーフェクト)創造(クリエイト)の数少ない成功例だぜ」


 誇示するように胸に手を当て偉大さを披露する。

「パーフェクトクリエイトってなんだ?」

 美楽の動揺から言葉の恐ろしさは伝播する。が、意味がわかない。

 言葉と現状との関連性、そして言葉と美楽の驚愕の関連性が全く掴めない。


「世界には、能力が最大開花しても届かない力というものがあるんです」


 ノアが代弁するように悠斗に歩み寄り語り始める。

 怪我をしていた肩を摩りながら、ゆっくりと。


「能力の性質上到達できない者、または実力の限界として到達できない者」

「なんだ? さっきから……」

完全(パーフェクト)創造(クリエイト)と不死身」

「……」


 前置きのない説明に混乱が拡大していく中、二つの単語に息が詰まり、そしてそのまま息を飲んだ。


「この二つが最強と謳われる力です」

「最……強……!」

 人外の域と思われる最強の称号。

 それを対峙する男が持っている。

「世界に完全(パーフェクト)創造(クリエイト)が可能なのは5人、不死身なのも5人。合計で9人います」

「……?」

 悠斗が訝しげな顔をする。

 ノアが足し算のできない馬鹿だと勘違いしてしまったのだ。

 だってそうだろう。

 5+5=10

 誰だってできる計算だ。

 それが、9人?


「一人だけ、どちらも可能な人がいるそうです」

「それは……エグいな」

 語彙が頭に浮かばない。

 信憑性は高そうだ。


「安心しなって、丁度俺の作品が壊されたとこさ。特大鏡も無けりゃもう作れないぜ」

 男が参ったといった表情で額を擦る。

「結局、パーフェクトクリエイトってどんな力なんだよ」

 色々解説を受けたが肝心な部分を誰も教えてやくれない。

 当てもなく男に聞いてみたが、答える気配はない。

「自分の分身を創る力です」

 美楽がやっとの思いで口を動かすと、静かにそう答えた。

「伊龍先生の能力が相当惜しいところまで来てるらしいよ」

 後ろからふと絵美が横槍を入れた。

 静かだと思えば顔が真剣なものへと変化していた。


「先生……? でも先生は――」

「言いたいことは分かるよ。でもパーフェクトクリエイトって言うのは、その名の通り完璧。この力によって創造された分身は世界の誰にも本物との見分けがつけられないの」

 悠斗が一般人感覚での反論を起こす前に、それを遮って絵美が違いを敷衍していった。

 世界の誰にも区別できない。それはつまり、倒しても倒しても、倒し切ったとは断言できない。

 相手を討ち倒したと誤認した瞬間こそ、敗北。

 今目の前で浮遊する男が、いつものようにジョークジョークで嘘をつき、悠斗たちの目を欺いている可能性だって否定しきれない。

 不死身との差は歴然と思えるが、やはり強敵だ。


 しかし皆までしてなぜそんな通暁しているのか。

 悠斗も本格的に教育が必要か?


「まあ、お絵描き嬢ちゃん言った通り、さ」


 男が右手を左から右へスライドさせ一本の線分を描いた。

 すると、みるみる土地が元の、ミサイル攻撃よりも前、そう、悠斗たちが入場するよりももっと前の状態へと姿を変えた。


 土地が石畳のように慣らされている。

 地に踏み込む感触から変化していた。


「さあさあさあ、ジョーク抜きでこっから第二ラウンドだぜ」


 男が復活させた土地に足を下ろす。

 着地が綺麗で、響いた着地音も土地と比例して美しい。


 悠斗たちも綺麗な土を踏みしめて、戦闘態勢に入る。

 悠斗の拳は、特段強く締められていた。


「ここら辺で、認められるような力を示してくれよ」


 八咫鏡への試練、男との戦闘の試練、第二ラウンド――


 ――突入。



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