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神の名のもとに〜異世界と現実の狭間に生きる〜  作者: 麒麟燐
第二章 王政奪還編
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第六話 必須科目


「いやー、美味かった」

「そうですねー」

 悠斗の満足感満載な声に合わせてノアが頷く。

 すっかり観光気分だ。


「それでは、行きましょうか」


 しかし美楽の一言で一瞬にして現実に引き戻される。

 ケジメをつけ、キリッと表情を引き締めると緊張感を増しながら伊勢神宮に足を踏み入れた。


 宇治橋を通り手水舎へ。

 手水舎で左手と右手、口を洗い、参道の脇を通って進む。

 やがて正宮・皇大神宮を視界に捉えた。


 観光客に紛れ、4人で連なって歩く。

 どこから異世界へと向かうのか、と疑問を抱きながら美楽の背を見つめ追い続けるとやがて拝殿の前に到着する。

 観光客が参拝に並ぶ中に4人も並ぶとそこで初めて美楽から正式な説明があった。


「これから参拝をしますが、2人は『試練』とだけ頭の中で連呼していてください。但し、その間に決して目を開けてはいけません」


 理解の及ばない説明に頷くと、それを確認した美楽は質問を受け付けないといった様子で黙って参拝者たちを見た。

 ここから先は本当にその道の人にしか分からない領域。

 黙って従おう。


 悠斗たちが参拝する時が来た。

 神前に進み姿勢を正す4名。

 横一列に並びとても見栄えがいい。

 参拝の作法に倣い二度のお辞儀、その後胸の高さで両手を合わせ右手を少し下にずらすと二拍する。

 悠斗、絵美、ノアは頭に試練のことだけを浮かべ最後にもう一度深くお辞儀をした。


『恐れを知らぬ者たちよ、試練の地へ参られよ』


「っ――!」


 直後、脳内に直接響く高い女性の声音が悠斗たちの鼓動を激しくした。

 思わぬ事態に、悠斗はうっかり美楽の言いつけを破り目を開け背を起こしてしまった。


「ここは……」

 そして、その悠斗の目前に広がる大地。

 地平線が見えるほど果てなく広がる高原が辺り一面を埋め尽くし悠斗たちのちっぽけさを物語る。

「全員無事に来られましたね」

 美楽がほっと息をつき胸を撫で下ろす。

 どうやら「試練の地」とやらに足を踏み入れたらしい。

 悠斗の失敗はギリギリ失敗にカウントされないラインだったようだ。

 そのことに何よりも安心し、一人静かに他とは異なった理由で息をついた。


「ふぅ……それで……試練は?」


 呼吸を整え精神を安定させるとあたりを見回してただの草原であることを再確認する。

 四人の参加が必要と言うからには戦ったりすることはあるまい。

「はい、まずは移動からです」

「い、移動⁉︎ どこへ」

 美楽の発言に疑いを持って三度周囲の殺風景を確認した。

 ここから建造物や洞窟等のある場所までは相当の距離があるに違いない。

 悠斗たちの視線で捉えられる地平線の先が一体何キロ先にあるのかは知らないが、歩いて進むには無謀とも言える。

「まあまあ、ここから美楽の見せ場なわけだし」

 絵美が驚愕に震える二人を宥める。

 落ち着き払った様子からやはりこの事態は経験済みのようだ。つまり、ここからどうするのかも分かるはず。

「そう、ですね」

 悠斗もそれに気が付き少しずつ冷静になる。

 ここは異世界、非日常は当然。

 落ち着け、落ち着くんだ。


「……? それは何をしてるんですか?」

 悠斗が胸に手を当て高鳴る鼓動を鎮めている中、美楽がどこからか取り出した小さな鏡を地面に置いていた。

 その様子をじっと観察するノアが不思議そうに首を傾げてそう尋ねた。

「これは第一の試練です」

「えっ、もう試練⁉︎」

「はい、試練です」

 ノアの質問への返答に悠斗が愕然として辺りを見回す。

 何度もだだっ広い草原を見渡しては美楽は向き直る。

 しつこく繰り返した動作は何度でも新鮮に感じる。

「これで方角が分かるんだって」

 太陽の光を真上から浴びる小さな美楽の鏡。

 少しだけ近づくと光の反射の仕方が妙だった。

「この光の反射、不自然じゃないですか?」

「そうです、その反射した光の先に出口があります」

 悠斗の疑問は見事なほど的を射ており、悠斗一人でも第一の試練は突破できたかも……いや、鏡を地面に置くと言う発想から不可能か……。

「こっちです」

 美楽が方角を定めその方を指さすと鏡を光となって消滅させ先導して歩き始めた。


 歩く内に悠斗にはいくつか質問が生まれた。

 だがどれから聞くか、聞いてもいいのかと葛藤が始まる。

 そしていくつか質問を絞り、早速、

「あの、試練は一部突破済みなんじゃ……」

 と小さく挙手して尋ねた。

 悠斗の一つ目の質問は、昨日一部の試練は免除制度があるといっていた件だ。

 しかし今は第一の試練から行っている様子。

「免除があるのは第三、第四、第五の試練で、一とニは必須なんです」

「……え、試練って何個あるんですか?」

「六です」

「じゃあ今から行くのが……」

「因みに私は第四までの突破です」

「……あ」

 連鎖して湧いた疑問から繋がり、本日受ける試練の個数を知ることとなった。

 悠斗の自己完結を訂正すると、今日受ける試練、正しくは第一、二、五、六だ。

 少し萎縮しつつ歩速をを落とす。


 第四までの試練はどう突破したのか、美楽の鏡はどうなっているのか、いつまで歩けばいいのか、ここに転移する際脳に響いたあの声は誰なのか、と言った数々の質問は胸の内に秘めておく。

 そして無言で一分ほど突き進むと。


「うわっ」

 唐突に世界が眩い光に包まれ真っ白に染まっていく。

 眼を強く閉じ腕で顔を覆う。

 それでも光が目に突き刺さる感覚を味わった。


 感覚的に光が収まったことを察するとゆっくりと眼を開け腕も恐る恐るといった様子で力無く下ろす。

「どう、なってんだ……」

 開いた視界の先に広がる大草原も果ての無い地平線も確認できなかったが、それに変わってそこそこ大きな山が聳え立っていた。

 背後を振り返っても草原の影は全くない。

 世界が入れ替わったか、自分が転移したかのどちらかだ。


「詳細は分かりませんが、伊龍先生の能力に似た魔法でしょう」

 美楽がただの見解だと前置きし、そう答えた。

 伊龍の能力はイリュージョン。

 それはつまり……

「さっきまでのが全部幻影だった……いや、それともこれが偽物か?」

 生物でないものは悠斗であろうとも真偽の判断がつかない。よって、どちらとも半々の可能性として残る。

「これからこの山を登ります」

 美楽がそう言って目の前の通路を指す。

 そこにはまるでこの道を行けと言わんばかりの立て札と山道があった。

「これが第二の試練なんですか?」

 ノアが悠斗よりも早く、疑問を投げかけた。

 いや、悠斗が疑問を投げるのが少し遅かったのだ。

「はい、この山の頂上に山小屋があるのでそこから地下へ行きます」

「折角登るのに地下……」

「はい、この山は標高丁度1000メートル。頂上から地下の目的地までの距離は2000メートルです」

「1000メートルの無駄!」

 山の標高が1000ということは、実際に曲がりくねった山道を歩けば1.5〜2倍の道のりがあると推測できる。

 体力以前に精神がやられそうだ。


 しかし、嘆いていても始まらない。

 おそらく一本道だが、美楽が念のために先導し、最後尾に絵美がつく。


 ロープで道を制御され、それに従って進むが所々ではショートカットも可能だった。

 しかし、それをしないかと悠斗が提案すれば美楽が断固として禁止したので悠斗は渋々無駄な距離を歩き回った。

 後から確認したところ、道に従って登頂することで試練達成となるらしい。


 感覚一時間程度で登頂し、山小屋の前に辿り着く。

 頂上からいい景色が見えるのかと少々期待したが、どこを見ても一面草原だった。

 下で周りを見回した時は山に囲まれていた気がしたのだが……一体どうなっているのか。

 気味悪く感じ、少し他の三人と距離を詰める悠斗。

 山小屋の前に美楽が立つと一人でに木製の扉が開いた。

 魔法とは便利で都合の良いものだ。


 全員、張り詰めた空気を纏わせて山小屋へと足を踏み入れる。

 薄暗い灯りが止まる屋内、床の作りも脆そうな木材での簡単なつぎはぎ、神とは質素な生活を送るものなのか。

 屋内の四角には台座があり、その上に神聖そうな鏡が四つがそれぞれ一つずつ置かれていた。

「皆さん、少し離れてください」

 美楽が小屋の中央手前で止まり他3名にそう指示した。

「は、はい」

 間もなく試練の開幕だと、緊張に声を高くし返事する。

 クスッと笑う絵美、同じく緊張に顔を引き締めるノアと共に悠斗は美楽から距離を取る。

 数メートル分の距離を置くと美楽が率先して小屋の中央へと進んだ。

 薄暗くて目に止まりにくいが、中央には魔法陣のような円があり、その中央に美楽が佇むといった形になっていた。

 まるで召喚されたかのような構図だ。


 そう思ったその時、正に召喚かと思える現象が屋内を包む。

 美楽の足元の魔法陣(仮)が赤い光を放つ。

 それにどう反応したのか、四隅の鏡のうち二つが美楽の方へと自動的に向く。

 そして、これまたどんな仕組みか、その鏡の鏡面部分が光を放ち美楽を薄白く照らした。

 数秒間、目に優しい発光が続いた後、やがてその光が収まる。


「全員こっちへ」


 それが完了するとここまで感情変化の薄かった美楽がやっと緊張を露わに全員を招集した。

 美楽本人も四隅のうちの一箇所に移動しながらだ。

 一つの角、そこに置かれる鏡とまるで獲物を追い詰めたようにその鏡を囲う4人。


「せーの、で鏡面に触れてください」

 美楽が一度簡潔に示す。

 理由の言及もなくただ行動だけが示されるが、一同頷き美楽への信頼を表現するように鏡を見つめた。


「では……せーの!」


 全員の手が鏡に触れた刹那――鏡がこの世の光とは思えない発光で四人を包み込み、どこかへと消し去った。


 悠斗たちは、旋回する意識の中で第五の試練挑戦への覚悟を決意した。



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