第四話 三種の神器
「あの、そろそろ本題入ってもらっていいですか? こっちの奴らが飽きてるんで」
後ろの探偵部員を素材として上手く活用し一向に進展のない状況を打破する。
自分も疲れているがそれは言わない。
他人を蹴落とし自分の評価は下げない卑劣な作戦だ。
「あ、ごめんね……じゃあほら、これ上げるから許して」
絵美がポケットから何かを取り出し、悠斗の制服のポケットに詰めた。
音と感触から袋で梱包された固形の何か。
気になるので絵美が手を抜いた後悠斗が手を入れると、
「あ、確認は家でしてね」
静止された。
…………非常に怪しい。
が、これ以上の時間の浪費は避けたいので黙って従う。
なんというか……、副会長とは思えない性格だ。
「……それで?」
悠斗は変わらず催促する。
「…………」
「ほら、美楽」
「うぅ……分かりました」
まるで渋々仕方なくといった様子だ。
まさか依頼主は美楽ではないのか?
「あの、神本さん……」
なんと、名前指定での依頼だ。
悠斗御指名で一体どんな依頼だろうか。
「実は、異世界関係で依頼があるんです」
丁寧にまず、話題の中心となる世界が異なることから入る。
やっぱりそうなるか、と非常に残念に思う。
依頼自体は嬉しい。
頼ってもらえる事は有難いことだ。
しかし、異世界側の問題はエリカの問題等も含め逼迫していた物が丁度ひと段落ついた所だ。これ以上受け付けたくない。
とはいえ言葉にできるはずもない。
はい、と首肯して表向き快く引き受ける。
「その……実は私、とある試練を以前受けまして……」
と、詳細を語り始めた。
申し訳なさそうなトーンで話す美楽は髪をたまに触って視線を泳がせていた。
だが、悠斗が気になるところと言えばやっぱり、
「ん? 試練?」
この一点に限る。
女子の美徳の内の一つの仕草に目もくれずその点だけをピックアップする。
誰もストップをかけない所から、やはり悠斗の無知によるものかと思いきや、後方でも難しい顔をするものが所々にいた。
「はい、試練です」
悠斗が美楽の態度を気にかけていない事を悟った美楽は少し安堵して胸を撫で下ろした後悠斗に視線を合わせた。
悠斗はその時、今日としては初めて美楽の清純な眼差しに顔を赤らめた。
「何の試練? 試練っていっぱいあるよね?」
数少ない、試練という単語に対しても心得顔だったエリカがさらに深く掘り下げた。
話から試練とは種類豊富なものらしい。
あーちゃんやノア、唯も悠斗と同じで難しい顔つきをしていた。無理解仲間の存在に悠斗の心に僅かながらゆとりが生まれる。
「私が受けたのは、『八咫鏡の試練』です」
八咫鏡……。
悠斗がその単語を処理するのと同時、部員数の少ない室内がザワっとした。
「八咫鏡……⁉︎」
司が普段よりも食い気味になる。
司のこの反応は極めて珍しい。よってその試練の難易度(があるかは知らないが)が高いものと推測される。
イマイチ凄さが湧かないが。
「凄いのか?」
馴染みのない単語に司に聞いてみる。
ここで美楽に聞いても謙遜かどうか区別がつけられないからだ。
「凄いなんて……そんな言葉じゃ到底……」
司からの評価は絶賛らしい。
隣の唯もこんな司は初めて見たのか「兄さんがそんなに言うなんて」と捉える角度を少し変えつつ感嘆する。
「悠くん八咫鏡知らないの?」
エリカが煽る気なく煽ってくる。
無意識の煽りほど腹立たしいものはない。
「いや、そんぐらい知ってんだけど……なあノア……」
「――?……あ!」
ノアに振ると一瞬困惑して意思を読み取れていなかったが、すぐに真意を理解して首元の「それ」をごそごそと探り出す。
「これですね」
一つの勾玉を取り出す。
それは探偵部なら誰もが記憶に残しているノアの両親の遺品だ。
「あー、そういや悠斗それ持ってんだったな」
思い出したと手を鳴らして悠斗を指す。
いや、俺のっぽく言うけど違うから。
この話題の中で挙げられる勾玉。
察しが悪くても気づくだろう。
「まさかそれ……!」
エリカが何かに思い至ったのか信じられないと驚きを露わに近寄った。
エリカにもそんな反応ができたのか。
「はい、私もよく知りませんが、デスサタン曰くこれは『八尺瓊勾玉』だそうです」
室内にピリッと衝撃を起こした。
明らかに一般市民の所有できるアイテムではないことの証明だ。
「ちょっと見せて」
「オレにも」
「じゃ、じゃあ私も」
「私にも見せてもらっても?」
「えー、じゃあ私も一緒しちゃおっかな」
全員がノアを潰すように押し寄せてその姿を一眼見ようと背伸びをしたりして押し合い始める。
「ちょっとタイム、ノアが潰れるから」
流石に見過ごせない状況なのでノアを庇う。
ノアも嬉しそうに悠斗に庇われていた。
そんな中、エリカが無言で悠斗を凝視する。
「……なんだよさっきから」
気恥ずかしさに無言ではいられなかった。
「これ、本当に八尺瓊勾玉なんでしょ?」
あのエリカの顔が真剣そのもの、適当に遇らえる様子じゃなさそうだ。
「あ、ああ、らしいが……」
「…………」
また無言で瞳の奥を覗かれる。
「……本当に今まで私と会った事ない?」
「――? は?」
質問内容が今までと比較にならないほど飛躍し過ぎていた。何もかもが汲み取れない。
「…………ううん、なら大丈夫」
「……何がだよ」
やっぱり最近のエリカの精神がおかしい気がする。
しかし、いくら憂いていても理解はできない。
彼女から話すこともなさそうなので杞憂なことをただ祈りその場を流す。
「すみません、それで何でしたっけ?」
話が脱線したことに謝罪して美楽へと向き直る悠斗。
八咫鏡がどうこうという曖昧な事は覚えているが、依頼の詳細を覚えていない。まだ何もいってなかったか?
「はい、実はその試練に挑むに当たっての助っ人を呼びたくて……」
「それで俺たちに?」
悠斗は相変わらず唐突に他人の頭に飛び出すらしい。
「と言うより……悠斗さんと、悠斗さんが最も信頼を置いている方一人を……と思いまして」
まさかの本格的に名指し型だった。
前例通り悠斗が指名されるのだ。
毎度毎度何故悠斗は簡単に他人の脳内によぎるのだろうか。何かそういった特殊能力でもあるのなら、そんな能力は是非とも消え去ってほしい。
「はあ……。まあ依頼なら受けますけど……何でまた俺に」
変わり映えしない疑問を永遠に抱く悠斗は過去に倣い同じように理由を尋ねる。
ここでも今まで通り「なんとなく」やら「神本の名前を聞いたから」などと言われるのだろうか?
「最初は俺のとこに来たんだよ」
すると思わぬ横槍が入る。
「福田のところに?」
「ああ」
少し胸を張って自慢した。
異世界精通者として悠斗よりも先に健祉に視点が集まる事は確かに当然だ。
悠斗の疑問に福田は勿論、悠斗の目の前の美楽もはいと頷いた。
「でもその試練、俺が内容制作に若干関わっててな、参加できないんだよ」
「ああ……なるほどな」
なんとなく納得のいく説明だった。
ゲームの大会に主催者やその関係者が出場できないことと同じである。
異世界事情に慣れてきたのか、はたまた単に分かりやすい内容だったのか……。
前者は正直嬉しくない。
後者だと安心する。
「よく分かんないけど、分かりました」
「――!」
「でも……」
依頼受諾に肯定的な発言をした悠斗に美楽の表情が太陽のように光り輝く、がその悠斗のつなぎの言葉に表情が戻った。
「試練の内容って何なんですか? 俺だと異世界に関しての知識ゼロなんで多分全くってほど役に立ちませんけど……」
お荷物になる未来を見て悠斗が少し暗い表情をする。
知識も戦闘力も異世界人に圧倒的に劣る悠斗に利用価値があるかと言われればおそらく否だろう。
「未確認です」
「そう、ですか」
そう言われればお終いだ。
抗う術もなく悠斗の遠回しな拒否作戦が撃沈する。
「じゃあ何で二人なんですか?」
悠斗が追加で質問した。
恐らく数名は意識に置いていたことだろう。
何故、二人でなくてはならないのか。
「私の予想では次の試練に4人丁度の参加が必要だからです」
「四人丁度……って、次の試練⁉︎」
四人必要なら一人足りない、その疑問と共に頭に飛び込んだのは『次の試練』と言う単語。
突然の発言に人数よりも優先して問い返してしまう。
「え、ええ、試練は一部クリア済みなので……」
悠斗の驚愕に一瞬驚いた美楽が一歩引きながら答えた。
「え、それだと最初からにならないのか?」
試練といえば一度クリアしてもどこかで失敗すればまた一からやり直すと思い込んでいた。
「ものによるけど基本ならないよ。免除免除」
エリカが軽く答える。
そんなあっさりと……。
「英検の一次免除みたいだな……」
一高校生として最も身近な例えを挙げた。
なんだか非常にマッチしていた気がした。
「ってか、人数四人必要ならあと一人必要なんじゃ……」
悠斗は話題を数秒巻き戻し再び人数の話題へと帰る。
「察しが悪いぞー悠ちゃん」
悠斗の安直な思考に絵美がニヒヒと笑う。
「えっ、まさか副会長が?」
「ん? 誰だって?」
「あ、え、絵美さん、が?……ですか?」
絵美に呼び名を訂正され、瞬間昨日の不純な光景が蘇る。
その記憶に赤面しつつ名前で呼び直し、しっくり来るように遅れて敬語を加えた。
「そそ、絵美さんもやる時はやる人だよ」
「……へえーー……」
Vサインを作ってにっこりと笑うその美しい笑顔を見つめながら感情の薄い感嘆の声を上げた。
以外、的なニュアンスの悠斗の声に不満そうにしていたが美楽の咳払いで空気が一度物理的にではなく洗浄された。
「それでは、明日の朝8時から付き合っていただける、と言うことでよろしいですか?」
美楽が悠斗よりも高い位置からニパッと笑った。
「あ、は…………明日朝⁉︎」
首肯仕掛けて動作が硬直した。
初耳と声を上げるが美楽と絵美はそうだけど?と一切気に留めていない。
「いや、明日は学校が……」
「いいじゃねえか、お前学校嫌いだろ」
登校を盾に取ろうとしたが健祉が失礼な事実で抑えようとする。
「いや、そりゃそうだけど……ってそうじゃない!」
健祉の評価に同意はしたが問題点は全く異なっている。
「いいですよ、行ってきても」
「ほら校長もこう言って……えっ!」
校長である露無が認めるなどあり得ない、そう確信していた悠斗が新たに盾に取ろうとしてまたしても一瞬停止する。
そして先ほど以上の声量で叫ぶ。
「いいんですか⁉︎ 本当にいいんですか⁉︎」
二度繰り返し聞き間違いである事を願う。
きっと悠斗の耳がどうかして……
「いいですよ。そのための異世界人受け入れ学校ですから」
……事実だった……。
二つ返事でオッケーだった。
「もうやだ、この学校……」
悲しみに暮れる。
「か、神本さん、どうか気を落とさずに」
伊龍が悠斗を労る。
これが主従関係か。
この態度も疲労の原因の一つなんだけどね……。
「明日は朝8時に東京駅正面口に動きやすい服で集合です」
「よーし、そうと決まれば早速準備準備!」
美楽の通達に対して声高々にエリカが叫ぶ。
ピクニック気分である様子。
ある意味最も信頼が置けない仲間だ。
「待て、メンバー先行は俺がするから」
悠斗がエリカの勝手気ままな完結に待ったをかけ全員に指を向ける。
「その上で私が選ばれるんでしょ?」
「うるさい、黙れ」
「ぶーー」
ジョークか本心か判断ならないがとにかく切り捨てる。
すると前みたいに膨れた。
可愛いから選ばれるなんて甘い世界ではない。
世間は酷く世知辛いのだ。
「それでは私たちも――」
「あ、美楽さん!」
振り返り出入り口のドアへと足を向け始めた探偵部以外の一向。その中の依頼人を呼び止める。
「は、はい!」
急な御指名声を高くして応答した。
美しい髪を靡かせて振り返る美楽に悠斗はこう確認を取った。
「やっぱり美楽さんの能力は『ミラー』何ですよね?」
名前とのかけがある確証はないがそんな気がした。
この意図が、理解できているのか……。
「…………」
しばし無言で悠斗を見つめる。
悠斗のお供決めで騒がしく揉めていたエリカたちも一度静まる。
「……私の本名は、ヴェルディア・ミラー、能力は『ミラー』。よろしくお願いします」
そう改めて名乗りお辞儀をするとニヤけた絵美と共に教室を後にした。
悠斗の発情状態は、いつの間にか沈静化していたことに誰一人として気が付かなかった。




