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神の名のもとに〜異世界と現実の狭間に生きる〜  作者: 麒麟燐
第二章 王政奪還編
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第二話 幹部登場


 夏花の入部拒否の余韻で重苦しい空間、静かに時計の針の音を聞く事数分。

 やがて三つの人の気配が教室に接近してくるのを第六感で感じ取った。

 恐らく予約のあった3名だろう。

「来たか……」

 再度重たい腰を上げて席を立つ。

 相手が誰かも分からずに寝た状態で迎えるのは失礼にも程がある。

 誰も来訪者があるとだけしか知らされていないので、各々普段通りの過ごし方だ。


 コンコンと軽いノックが響く。

「開いてるぞ」

 そんな柄じゃないだろう、と思いながらも応答してやった。

 全員の視線が音を鳴らした出入り口へと向けられる。

「よっ、待たせた」

 そこから顔を出すのは昨日悠斗に来訪の予約を入れた健祉だ。

 さらに背後から連なって二つの影が扉を通り抜ける。


「えっ……福田が紹介したかった人って……」


 悠斗がその見覚えのありすぎる顔に驚愕する。

 後方でも司や唯が目を見開いていた。

 それもそのはず。何故なら1人はこの学校の誰もが知る存在。そしてもう1人は悠斗やエリカはそこそこ縁のある人だからだ。


「ああ、この2人だ」


 互いに互いの存在を認識している上での紹介。

 それは即ち――異世界人であるとの暗示でしかない。

 そしてそれを裏付けるように、


「私、伊龍、こうして再び神本様の側に置いていただけることを心待ちにしておりました」


 スーツの汚れなどを気にも止めずに片膝を床につけ、忠誠を誓うような格好とって悠斗の前に出る。

 伊龍――。

 まさかこの人まで異世界人だったとは……。

 驚きは何もその一つではない。

「え、っと……」

 悠斗は伊龍の教員とは思えぬ畏まった態度に困惑する。

 忠誠が自分に向けられていようことは明らかだが、唐突な忠義と想定外の人物紹介に心が追いつかない。

「ほっほっ」

 その様子を見守る傍観者の1人――この学校長、露無が年寄り臭く笑った。

 まだ30代のはずだが……。

「ふっ、先生、互いの立場から説明した方が良いんじゃないですか?」

 露無の笑いに同調するように健祉がそう助言した。


「はい」


 悠斗同様、健祉に対しても敬意を払う伊龍。

 教員が生徒に従事する光景など、まずあり得ない。

 そんな気味の悪さを感じる間に伊龍は話し始めた。

「私、伊龍幻志は先代の神、神本栄作(かんもとえいさく)様の代よりお仕えしております、人界軍、第一幹部にございます」

「…………」

 一瞬理解に手間取る。

 そして、

「「ええっっ!!」」

 探偵部一同、声を揃えて叫んだ。


「えっ、先生が幹部⁉︎」

「はい」

「すごっ」

「いえ」

「え、今第一って……」

「はい」

「驚いた……」

「それはどうも」


 部員の興奮冷めやらぬ中、いくつかの声が伊龍に向けられていたが、尽くを簡潔に答えた。

 幹部と言うものの偉大さこそ悠斗には分からないが、周りの反応から想像を遥かに超えるものだと判断できた。


「何よりもまず、謝罪を」

 そう言って悠斗よりも低い位置に置かれる頭を更に下げる。

 悠斗には全く謝罪される覚えがない。

 わけもわからず自分を攻撃したくなるほどこんらんしていた。

 戸惑いを隠さず頰を掻く。

「教員の立場であると言えど言葉遣いから態度まであらゆる方向から無礼を働いた事、どうかお赦しを」

 今度は内容を具体的にし、重ねて謝罪した。

「や、やめてくださいそんな……。僕に敬語なんて……」

 今まで親しんできた間柄でもない。

 教員の前では必然的に一人称が僕に変わってしまう。

「しかし……」

「ほら言ったろ、悠斗が敬語使われても戸惑うだけだって」

「ですが、そうでなくては示しが……」

 悠斗の当惑を予想していた健祉からも指摘が入る。

 この2人の関係はどうやらこんな形で確立しているらしい。


「わ、わかりました。じゃあ先生は敬語を使ってください。そのかわり、畏まった言い方と態度は極力避けてください。僕も今まで通り先生として接しますから」


 悠斗が妥協して落とし所をそこに決めた。


「はい、分かりました」


 伊龍も主人の指示とありそれに従う。

 これにより、敬語で接し合う謎の師弟関係が生まれた。


「ほっほっ、伊龍くんが終わったようなので次は私が……」

 そう言って露無が伊龍と入れ替わる。

 だが、もはや紹介する必要性は感じない。


「私は露無邦保(つゆなしくにやす)。この高校を運営する異世界人です」

 それだけ簡潔に言うと悠斗たちからの質問を受ける前に数歩引いた。

 それでもひとつだけ悠斗は聞きたいことがある。

「露無校長も幹部なんですか?」

 そう、その点だ。

 伊龍が悠斗陣の勢力なら露無は健祉の勢力あたりに入っていそうだ。

 しかし、

「いえ、私はそんな大層な者ではありません」

「そうなんでか……」

 露無の単純な否定に少し面食らう。

「露無さんは私の知り合いなんです。先代、神本栄作様の頃からよく助力を頂いて、それを栄作様も評価していたんです」

 伊龍が補足説明する。

 そんなに父は偉大なのか、と感嘆するほど父を持ち上げられた気がした。

 逆に露無のことなど頭に入りそうもない。

 むしろ父の説明をされた気分だった。


「ところで神本さん、知っていますか?」

「――?」

 最近耳にする形で聞かれた。

 このパターンは流行りなのだろうか?

 すでに一部のメンバーは退屈そうにしていた。

「先日あった宮園さんの誘拐未遂事件」

 その言葉に当然宮園兄妹が過敏に反応した。

 だが、問題はその事件ではなかった。

「あの時ここから転移しようとしたミミックがいましたよね?」

 そう言われて薄々と思い出し始める。

 そう言えばあの時、唯がスタンガンで昏倒させられその唯を連れ去ろうとした男がいた。

 だがそのミミックと思われる男はテレポーターの不備なのか何なのか、転移できずに狼狽していた。

「はい」

 頭に様々な思考を巡らせながらゆっくりと趣向した。


「ちょっと露無さん、わざわざそんな事……」

 伊龍が一度止めかけたが悠斗の聞き入る様子を見て渋々身を引いた。

 その反応に当然全員が訝しむ。

 そして露無の言葉は続く。

「実はあの時彼が転移できなかったのは、ここにいる伊龍くんのお陰なんですぞ」

 この流れは……そうだろうな。

「そう、なんですか……」

 内心の驚き以上に落ち着いている。


「おや、意外と冷静ですね。これは残念、ほっほっ」


 やり取りから目星をつけた悠斗は大した反応を見せなかった。それを見て残念そうに笑い、顎をなでる。

 変わった人だ。


 それはさておき話を戻そう。

 もし仮に校長の言葉を信じるなら、それはみんな大好き固有魔法の効果だろう。

「伊龍先生の能力、ですか?」

「はい」

 悠斗と向き合い静かに首肯すると部屋の中央へ歩いた。論より証拠ということだろうか。


 次の瞬間――


「っ、消えた……」

 白翼が声を上げた。

 お前が驚くか……。

「……なんで異世界人は誰も彼も消えたがるんだ……」

 悠斗がぼそっと呟いた。

 ノアの透明化とテレポートに、白翼の自称貫通、そして今回の目の前の現象。

 確かに他人に知らしめるには最善だが……。


「こちらです」


 窓の外から窓ガラスを通り抜けて声が聞こえた。

 全員が咄嗟に声のする方を向くと、伊龍が地のない空中、即ち窓のすぐ前に直立していた。

「っ、ここ……四階だよね……?」

 エリカが信じられないと悠斗に確認を取る。

「ああ、間違いなく浮いてるな……」

 その疑心暗鬼を払拭するように肯定した。

 消えて、浮いて、意味の分からない能力だ。

 と思ったが、どうやらまだあるらしい。


「次はそちらをご覧ください」


 窓の外から伊龍が悠斗たちのずっと背後、廊下の更に向こう側を指した。

 丁度グラウンドがある方面だ。

 言われるがまま平然と振り返る。


「ギギャァァァアアアアァァーーー」


 この世の生命体と思えぬ奇声が耳を貫き、その姿が全員の目に映る。

 悠斗は、エリカは、ノアは、白翼は、あーちゃんは、唯は、司は、目を疑った。

 健祉と露無、そして仕掛け人の伊龍だけはただ泰然とその姿を見上げる。

 いつの間にか消滅した廊下や壁、教室の前にどっかりと居座るのは見間違えようもなくドラゴンだった。


「ひぃっ!」

 あーちゃんが竜の雄叫びに怯み白翼にがっしりとしがみつく。

 だが、正直その白翼も頼りなく身を震わせていた。

 エリカやノアも危機感を露わに構えを取る。

 司は唯を、唯は司を守るために構えを取る。

 悠斗は……顔を顰めてその龍を見上げる。

 そして気がついた。存在する物に存在しないものを。


「分かりました」


 悠斗が伊龍に直接告げるように振り返る。

 部屋の中央を向いてトリックを解説する。


「先生の能力は他人に幻影や幻相を見せる魔法」

 見破った悠斗に健祉がほくそ笑む。

「突然先生が消えたのも、窓の外に立っていたのも、ここにドラゴンが現れたのも、すべて先生の能力による幻を見たから」

 自信ありありと指摘する悠斗。

「根拠は?」

 健祉が油を注ぐように言った。

 悠斗の対抗心は当然燃え盛る。

「気配だ」

 健祉の顔を見て強く答えた。

 実に凛々しく良い表情であった。

「ドラゴンの生命活動の気配がない」

 言われて一同再度ドラゴンを見るが全く分からないと首を傾げたり眉を顰めたりしていた。

 それもそうだろう、悠斗や健祉も手こずるレベルの強力な能力だ。


「そして、幻だと分かった上でなら分かる」


 悠斗は視線を部屋の中央――つまり、伊龍がいた場所を向いて正体を暴いて見せる。


「先生はずっと、そこにいる」


 失礼を承知で右手の人差し指を向けた。

 どうだ……。


「…………見事です。流石は神本さんです」


 その声とともに幻影が一瞬して消えていく。

 窓の外の伊龍の影が消失、グラウンドの化け物が消失、そして壊れた世界が再生する。

 まだ追うこともできず、一瞬にして――まるで、光の粉を散らすように。


 気がつくと部屋の中央には天晴(あっぱれ)と、感嘆と敬意の表情を見せる伊龍が佇んでいた。

 悠斗は自分の見解の的中に安堵し、小さな吐息と共にその強く張った腕をゆっくり下ろした。


「悠くんすご〜い、さすが〜」

 エリカが感情の籠っていなさげな拍手を送る。

 悠斗はそれに少し赤面し、はいはいと答えた。


「私の能力は『イリュージョン』。先程神本さんが述べられたように他人に幻影を見せる魔法です」


 淡々と言うが、悠斗でも意識せずには見破れないほどの透過力だった。並大抵のものではないだろう。

「凄いですね」

「ホント、凄かった」

 司の称賛に合わせて唯も珍しく正の方向に頷いた。

「ちょっと怖かったの……」

「ああ……リアルすぎてビビった」

 あーちゃんと白翼はドラゴンの正実な創造にある種の恐怖を抱いていた。

 当然、人型でないドラゴンを見たことは無いので、本当に正実かどうかは分からないが。


「ん? でもこの能力とテレポートの阻止にはどんな関係が……」

 悠斗はふと疑問を抱いた。が、どうやらそれは悠斗だけだった。悲しきことかな。

「テレポートは素の能力にしろ魔法石にしろ、自分の居場所と転移先の場所の地形を把握しないと使えないんです」

 この部室に来て以降影の薄かったノアが自分の存在を主張するかの如くぐいぐいと押し寄せてきた。

「なるほどな、納得だ」

 悠斗はノアの圧力に屈せず適切な距離を保った。

 自身も少し忘れかけていたが、現在の悠斗は危険なのだ。


「まあそんなわけで……? 悠斗、今日誰か来る予定あったのか?」


 話をまとめようとした健祉が突然何かを察知して悠斗に尋ねた。

 その意図は悠斗と健祉のみが理解できるもの。

「いや……ないはずだけど……」

 二つの気配が部室に近づく。

「……ぇ……、……、…………ぁ……」

「……っぇ、……っ…………」

 やがて声も聞こえ始めた。

 ドアの前まで来ると声は完全に筒抜けとなる。

「ほら、もうここまで来たんだよ?」

「で、ですが……昨日あんな事があったのに……」

「もう、面倒だなー、入るよ」

「あっ、待って――」

「失礼しまーーーす!」




 堂々たる登場を見せる一人。

 朝日出絵美。


 その後ろで赤面して部屋の様子を窺う者一人。

 音和美楽。



 美楽と悠斗は視線を交錯させ、その瞬間互いに紅潮しよからぬ雰囲気を漂わせた。



 次々と集い始める者たち。


 彼ら、彼女らは、その末に何を見るのか。



 ここからが、正しく大波乱の幕開けだと、誰もが予期した事であろう。



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