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神の名のもとに〜異世界と現実の狭間に生きる〜  作者: 麒麟燐
第一章 人生開幕編
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第八十二話 パーティーは閉幕


「ほらよ」

「サンキュー」

 容積3分の2程度まで満たしたコップを返し悠斗も再びその隣へと腰を下ろす。

 ひとまずひと段落。

 互いに今手にしているグラスを傾ける。


「悠斗、さっきのヴァラグの話は本人含めて内緒だぞ」

 健祉が念を押すようにたった一度、そう言った。

「……分かったよ。分かったから、早く二つ目の理由を聞かせろよ」

「……」

 今日は珍しく悠斗の方が鋭い。

 またしても悠斗が健祉の心中を読み、催促する。

 どうやら今から話す内容的に、健祉の心に余裕が無いらしい。それほどのものがまだあるというのか。


「俺がお前にちょっかいかけるも一つの理由はな……嫉妬って言うんだろうな……多分」

「嫉妬? 何にだよ」

 グラスを口元に運びかけたその動きが止まる。

 掴めない心情表現に純粋な疑問が出たのだ。

 悠斗視点から見れば健祉と悠斗には全てにおいて雲泥の差がある。勿論悠斗が下だ。

 だから、まず頭に浮かんだのは、能力値による嫉妬ではなくエリカたちのような顔的偏差値の高い女子に囲まれる境遇のことだ。

 しかし、やはり健祉にはそう言った色気のある話や感情は似合わない上に、そんな様子は一切読み取れない。

 だとすると悠斗の知らない福田健祉が存在する、と言うことなのだろうか?

 そこで浮上するのは先の健祉の質問だ。


      「お前に取って俺はどう映る?」


 この質問と一つ目の接近理由の接点が無かったことを考えるとここで意味を持たせてくると予想できる。


「お前の父さんが亡くなった時、同時に俺の父さんも死んでる。それは分かるだろ」

 緩む瞳に小さく首肯した。

「の割に、あの時期の俺……相当元気だったろ?」

 少し回想に入る。

 確かに、泣きじゃくる悠斗を励ましに近くない距離を走って毎日家に来た。

 折角悠斗が葬儀場で我慢した涙を家まで見届けに来た。

 しかし悠斗は、健祉の涙どころか、悲しむ姿すら目にしていない。

「俺の母さんは父さんを追って自殺した」

 それは聞いた。

 昔、悠斗を励ます際の文句としていた。

 俺も親がいなくなった。親がいない者同士頑張ろう、と。

「俺は同時に両親を失ったのに、悲しさも悔しさも、ましてや孤独感なんて微塵も感じなかった」

 確かに健祉はそうだった。

 今でも大した感情は見せない。

 特に負の感情などは。

 悠斗はそれが羨ましかった。

 何にも閊えることなく日々を自由に生活できる穏やかな性格が。

「それに対してお前はどうだ。泣いて、拗ねて、泣いて、喚いて、泣いて、閉塞して、泣いて……」

「泣き過ぎたろ……」

 過剰表現に突っ込んだが、再思考すれば案外過剰でもなかった。実際それだけ泣いていた気もする。

「お前の愚直で豊満なほどの感情表現。俺とは正反対で羨ましいよ」

「……俺だって、お前の無感情さが羨ましい」

 対抗するわけではないが、言う必要があった。

 何か見えない感情に急き立てられていた。

「両親の亡骸の前で無感情無表情でただ静かに経を聞く姿がお前に想像できるか?」

「……まあ、それは……」

 無理だ。

 無感情なんて悠斗とは無縁なもの。自分の知らないものを想像できるほど人間はできていない。

 珍しい健祉の対抗心だった。

「俺はその時、周りで泣く親族を見て涙脆い心の弱い奴らだと思った……」

 天井を見上げ、天を臨む。

 そしてグラスに映るジブンに焦点を合わせると、

「でも……悠斗、それから周りの友達とか知人とかを見ていてある日気付いた」

 健祉とケンジの視線が交わった。


「欠陥品は俺だ」


 グラスに映るジブンの顔が歪んでいた。

 まるで心を投射しているようだ。

 そこに映るジブンは無論、苦笑い気味。

 健祉は、負の感情を見せない代わりに毎度自嘲を自身に向けるのが決まっていた。


「俺だけが周囲から浮いている。俺だけが感情を欠落して存在している」

 まるで悠斗のように自己嫌悪に陥り始める。

 投射絵を見る健祉。

 更にそれを自分の投射図のように見る悠斗。

「それで? お前は同情でも買うつもりか」

 こんな話をする奴の心は固より決まっている。

 同情を貰いたい時、人間は無意識的、即ち心理的にこのような行動、態度を取る。

 自身の思いを口にした時点で自分のことを知って欲しいと願望している。

 その欲求を、果たして健祉が本心から満たしたいのか。

「どうだかな……」

 自分でも分からない、とまた自嘲の笑いを溢す。

 もうほぼ無意識的な行動と化している。

 いわゆる癖や習慣的なもの。


「ふ〜ん、まあ変なことだが良かったよ、お前が普通にそんなこと悩んでて」

 相手を貶めるような発言だが、純粋な気持ちだった。

 幼馴染みとして真意を汲み取れない健祉ではない。

 だが、それでも真意を口にする。

「いっつも俺より前にいると思ってたし、今でもそう思ってるからな、俺も少しくらい妬むさ」

「俺のどこに妬む要素がある」

 無理解を示し、自分の評価ポイントが分からないと不満そうに口を歪めた。

「そっくりそのまま返したいが……お前と一緒でお前の無感情なとこだよ」

 健祉が悠斗の豊かな感情表現に嫉妬したように、悠斗もまた健祉の感情を表に出さないクールさに、大きく言うなら畏敬の念を抱いていた。

「は? なんでそんな欠点……」

「俺からしたら俺の感覚こそ異常だと思うがな」

 互いに自身の短所を強調し、自傷し合う。


「まああれだ。俺も最近知ったんだが、人は無いものを欲するらしい」

 自己体験談でこじつける。

 大体のことにおいては結局自己満足。

 もしそうなら、どんな形でも納得できるものを提示すればいい。

「そんなもんなのか……?」

 折角の話し合いの機会ということもあってか、今回に限って健祉が中々頷いてくれない。

 ここでいい答えを探したいのだろう。

 だが、それを悠斗に求めるのは少しお門違いだ。

「そんなもんなんだよ、きっと」

 悠斗は確実性のある答えを持ち合わせていない。なので全て自身の見解となるが、それでも健祉の力になれるように努力する。

「だからまあ、互いに互いを羨みながら生きてりゃいんじゃねぇの?」

「切磋琢磨ってやつか」

「そんな立派なもんじゃないだろ」

「ふっ、確かに。俺たちには似合わねえ四字熟語だな」

 苦笑し合って落とし所を見つける。

 ここが2人の妥協点。

 両者共に互いの長所に目を当て、そこだけを尊敬していればいい。きっと互いに協調性を発揮して更に能力を高めていくことだろう。


 無論、切磋琢磨なんてカッコいい単語は当てはまらない。


 「らしさ」とは我々が想像する以上に重要な要素である。



「っし、湿っぽい話なんてやめてアイツらと遊んでやるか」


 悠斗が少し残ったジュースを全て飲み干してすくっと立ち上がる。

 残飯処理係として空腹感を残しておいたが、それが無用なほど食事の残りが少なくなっていた。


 その後エリカたちのジョークに付き合ったりしていたが、ふと大事なことを思い出す。


「そういやエリカ、これって一応作戦会議でもあるんだよな?」

「ぁ…………」

「……おい……」

 小さく喉を鳴らして、しまった、と顔と癖毛で表現する。

 飲酒しているわけでも無いので今からでも遅くない。

 さっさと始めてもらおう。


「はいはーい、それじゃあ注目!」


 雑音が響く中、エリカが手を挙げ注目を集める。


「これから作戦会議を始めます!」


 高々と宣言した後、掲げた左手を下ろすと一度ジュースを口にする。

「とは言っても特に何も無いけどね〜」

「じゃあなんでこのパーティ開催したんだよ」

 どぎつい声音でエリカに顔を寄せる。

 折角準備までしたと言うのに、要の作戦会議が必要ないなら何のための努力だったのか。骨折り損すぎる。

「ええっと、ほら、メイドと作戦立てたって言ったでしょ?」

 エリカが弁解しようと言い訳を立て始めた。

「ああ、言ったな」

「アタシ知んないけど」

「ま、まあまあ」

 エリカの質問に対して、悠斗が肯定するが唯が否定する。

 唯の空気を読まない愚痴にノアが対応する。

 司も唯を笑顔を駆使して宥める。


「その作戦を今既に実行中なの」

「えっ! そうなのか⁉︎」

 相当ことが進んでいて心底驚く。

 悠斗が声を上げた周りでも驚きの表情や声が所々から漏れている。

「そうそう、それで下準備が完了したらメイドから連絡が来るようになっててね」

「つまりそれ待ちってことだな」

 ピザを手にした白翼が確認を取った。

「うん、だからもう暫く時間がかかるかも知れない」

「じゃあ何で今日集めたんだよ……」

 結局悠斗はそこへと行き着く。

 悠斗の復活祭を真の目的とするなら準備等は別の人間がするべきだ。

「それ、それでみんなに忠告」

 エリカがジュースを飲み干しテーブルに音を立てて置く。

 そして割と真剣な顔を正面に向けた。


「今の王様。結構過激だから乱戦になったりするかもしれない……」

 全員、ごくりと息を呑む。


「この数日、覚悟を決めておいて」


 エリカの勇敢な脅迫の言葉に、この場の全員が心を奮い立たせた。



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