第七十六話 謎を抱える部員、増加中
「次は……福田……は最後だから……ノア、は今言った……後はエリカ」
机やソファーの周りをグルグル回って威嚇し合う二人のうちの一方を強く呼び立てる。
それに反応した彼女は、ピコンとアンテナのように癖毛を動かして輪の中に帰ってくる。
余談だが、彼女の髪はまともな運動器官として働くのだろうか?
ちなみに悠斗がノアの話が他にないと言ったのは、唯一の強度な信頼関係のもとに、だ。
「なに〜?」
ここでもまた懐かしいゆるゆるとした態度が出てきた。
集まる注目をものともせず平然と立ち振る舞う。
「お前、色々あるんだろ……俺たちに隠してた事とか」
突き詰める様子ではなく、確認のために罪を提示する。
ああ〜、とエリカも軽いノリで話し始めた。
無意識にふと時計を見ると10時を回っていた。
「まず……私は、ミスティア・エリキャス・スィースター。グラスティル王国の元国王、ユリテウス・アルティア・スィースターの娘――」
「「ええっっ‼︎」」
悠斗と健祉以外から上がる悲鳴。
更に言葉は続く。
「固有魔法は、『コピー』」
紡ぎ出された能力名に、悠斗は思わず息を呑んだ。
理由こそわからないが、とても強大な力を示された気がしたのだ。
圧倒的力を見せつけられたような感覚があったのだ。
「……」
エリカの家系に動揺する周りを意識の外に出して少し黙り込み、能力を自分なりに解釈してみる。
まず能力名からして、他人の能力を一時的か永続的に真似ることができる能力だ。
そのコピー方法は不明。
また、能力を仮にコピーしたとして、その強さは果たしてなにに比例するのか?
相手と同等のパワーか、もしくは自身の力量によって変化するか……。
そう思考を巡らせて自己完結させようと躍起になっていると……
「名前の通り他人の固有魔法をトレースする能力だよ〜」
まるで悠斗が覚えた感覚を理解し、それを解すかのようにゆるゆると説明を始めた。
一度言葉を区切ると、ニコッと悠斗に咲い、強く意識させる。
照れながらもその微笑みを目に焼き付け、それと同時にエリカの言葉の理解を図る。
「だけど、ちょっっっとだけ変なんだよね〜」
とてもちょっととは思えない表現をする。
深く考えれば妙だが、大した問題ではないと言う事だろうか?
「――? 変って、なにがなの?」
いちいち悠斗の興味を引こうと遠回りをするエリカ。
その彼女にため息をつき、渋々便乗しておこうとしたが、悠斗の開口よりも早くにあーちゃんが純真な目で問いかけた。
「ん〜、まあ、コピーした能力は自分の力量に合わせて調整されるのは必然だし、妥当かなーって思うんだけど……」
何かに納得がいかない、そんな不満を込めた緩い顔があーちゃんに向く。
中々先を話そうとしないエリカに唯がタンタンと足を鳴らして痺れを見せる。
それでも、う〜、と唸る事数秒、やっとのことで硬い口が開かれた。
「魔法の発動条件がね、『相手と自分が互いに敵意を向けている時』なんだよ……」
その言葉で理解できたものはエリカを除けば2人だけだった。
それは、もはやお決まりの異世界精通者――司と健祉だ。
他の面々は難色を示したり、首を傾けたりと様々な形で無理解を表現していた。
それを代表するように指摘するのは当然悠斗である。
「どこに不服な点があるんだ?」
まさか相手を見るだけでコピーできる者が異世界的な一般なのだろうか?
だが、それでは万能というかなんというか……。
正直強力すぎる。
そもそも、どうやって相手の能力を知るのか、という問題から悠斗には理解できない。
「……あー、そうだな……じゃあまず悠斗、『敵意』ってどこからどこまでが範囲に含まれると思う?」
「え? そりゃあ…………相手を敵と認めた時……とかじゃないのか?」
答えのない質問に戸惑いつつも自分の見解を述べる。
そしてなんとなく理解する。
この問題は、非常に証明しにくい問いであると。
「じゃあ例えば、ある2人がサッカーをしているとする」
すると、次は突然文章問題のように例を上げ始めた。
「一対一のフリーキックのとき、互いは間違いなく敵同士だな?」
確認のように付加疑問形で尋ねる健祉に小さく首を動かした。
「じゃあ、片方がコピー能力者、片方が……肉体強化でいっか、まあ、そうとすると……コピーは可能だと思うか?」
そう問われ、さらに困惑した。
先の質問よりも単純だが、状況的に能力の使用条件に当て嵌まる気がしない。
これは、根拠などなく、感覚的にそう思う、いわば主観的な心理や思想といったところだ。
「……なるほどな……確かに難しいな」
そう呟いて改めて実感する。
エリカの能力の不完全さを。
その不完全部分を端的に換言するなら、『心理や思想によって効果が変化する』ということだ。
もし片方がある一定ラインを敵意と判定したとしても、相手がそのラインは敵意に値しないと判断すれば、能力の条件は不成立。見事にエリカの能力は回避されるわけだ。
これだけ聞ければ納得だ。
全員異論はないようだ。
さあ、なら話を進めよう……とはならなかった。
「そして悠斗、もう一つ」
健祉が指を立ててまだ深く掘り進めてきた。
エリカの能力が議題の中心にあるというのに、健祉が一番饒舌だ。能力研究が趣味なのだろうか?
「……」
まだあるのかよ……と愚痴りながら耳を傾ける。
チラと一同を見回すと、唯は既に飽きて集中力を喪失していた。
根気の足りないツンデレだ。
「不自然に思わないか?」
毎度毎度唐突で反応に困る。
皆は一体悠斗にどんな反応やリアクションを期待しているのだろうか。
話の内容すらさっぱりなので肩を竦めて無理解をアピール。無言を貫くことで会話の早期収拾希望も同時に訴える。
「考えてみてよ悠くん、敵意を向けないと能力が使えないんだよ?」
自分で説明して褒められたい。そんな疾しい心情を胸に秘めたエリカが健祉を押し除けるように交代した。
「……それが?」
今までの経験などを踏まえても不自然さがなに一つ生まれない。頼むから謎かけ方法ではなく公演型で分かりやすく説明してほしい。
再度唯に視線を向けると、司が唯の相手をしていた。
羨ましいカップルだ。
「敵意を向けなきゃいけない――それって即ち、戦闘時の使用前提としてのルールだよね?」
「……ああ」
「でも、魔法って戦うためだけに存在する力じゃないんだよ」
「…………」
エリカが悠斗に顔を近づけて指を立てた。
言われてみると、背筋がゾッとする。
魔法という力のない世界で育ってきた悠斗からすれば、固有魔法のような特有の力はアニメでよく使用されるものと類似していると感じる。
アニメ内では、シリーズによって様々な能力が登場するが、使用用途はどれもこれも戦闘。
強い弱いは、『実用的か』という視点ではなく、『戦闘に向きか不向きか』の点で判断し、されていた。
だが2人の指摘を受ければ確かに不自然な点が多すぎる。
異世界人にとっては魔法の存在が一般的。
いくら異世界といえども一般家庭に戦闘能力は求められない。
天性の能力として備わることのある固有魔法が、戦闘時しか使えないのなら、その人間は神によって戦う世界で生きろと命を受けたも同然となる。
それは、あまりにも理不尽ではないか。
「……確かに変だな……。でも俺にとっては相手の能力を知らずともコピーできる的な発言の方が気になるんだが?」
異世界人視点の主張はよく理解できた。
だが、主観的な疑問が解決されていない。
異世界全体の構成に関する折り入った話よりも、その構成の一部である魔法の、特にコピー能力の詳細の方が悠斗には興味関心がある。
「ああ〜、そうだねそうだね、そっちも気になるよね〜」
知能が幼児レベルのエリカに幼児程度の扱いを受ける。何となく屈辱感を覚える。
だが、そんな感情で話の腰を折るのは時間の無駄だ。非効率にも程がある。ただでさえ非効率な会話を更にややこしく難解なものにするわけにはいかない。
イライラを腹の中に抑えて目の前のエリカの笑みから視線を逸らす。
「でもそれは簡単な事でね、固有魔法所持者からはその魔法の種類によって異なる周波みたいなのが出てるんだよ〜」
「……はああぁぁぁ……」
エリカの『簡単』な説明に疲労、怠惰、呆れ、などなど、様々な意図として読み取れる重たく大きなため息をつく。
何が『簡単な事』だ。
全く意味がわからない。
「……まず、周波ってなんだよ……」
悠斗の指摘に時間が停止した。
「…………どうした?」
笑った顔が硬直し、言葉を発さないエリカに当然疑問が生まれる。何か問題でも発生したか。
「あー、周波ね、うん、アレだよアレ……えーっと……なんか凄いやつ!」
なるほど、理解した。
「わかったわかった、お前にもわからないんだな」
必死に取り繕う姿は実に可愛らしかった。
エリカにこんな感情を抱いたのは久しぶりだ。
最近は鬱陶しい存在としか認識していなかった。
だがそれでも、表情はやれやれと呆れたまま。赤面もせず、そんな感情はおくびにもださない。
「……白翼は周波っての、わかんのか?」
「……は? なんでオレ?」
感覚的に白翼に話を振ると、一瞬唖然としてその後挙動を怪しくしながら問い返す。
「え、いや、周波って言ってたし……だったら波動操作のお前に……って」
そんな思考に至るのは悠斗的には当然だが、異世界常識的には非常識だ。
「知らねえよそんなの……初めて聞いた」
悪びれながらそっぽを向く。
そして何故か口を尖らせていた。
そんな不可解な態度に口を歪めた後、最後の希望と言わんばかりの目で福田を見た。
「……周波か……正直俺も専門外だな……」
「……なんだ、誰も知らないような事なのか」
福田ですら降参と手を挙げるような知識。
悠斗には不要な代物だ。
「まあ、なんせ魔法学界切手の難問で、最近証明されたやつだしな」
「そんな超難問を俺に向けんなよ!」
聞かされる驚愕の事実に嘆く。
最近流行してるから使ってみよう、と使用したが意味もわからず使用方法まで誤っているタイプだ、絶対そうだ、間違いない。
きっと異世界の今年の流行語大賞のうちの一つにノミネートされるであろう。
「まあなんだ、能力の使用未使用に関わらず、固有魔法の能力者はその魔法によってそれぞれ異なる周波みたいなのを発してるらしいぞ」
簡易的な説明に一応首肯する。が、実際理解度は10%ほどしか達していない。
「ちなみに、最新の証明された魔法学の理論は、『フェルタリスの周波収束・拡散理論』だ」
「いや、言われても知らん」
切り捨てるように手を振って頭を振る。
そして切に願った。
これだけは伏線にしないでくれ、と。




