第七十五話 謎を抱える部員
悲惨な状況に悠斗は眉を寄せて処理に悩むが、この弾け方はしばらく収まらないと当たりをつけた。
二人の女子に押し潰されながら、この散々な状態を視界に映すと、そのまま話を進行させた。
「もうこのままでいいから、司と唯、お前らなんかあるか」
手足は拘束されているが、顔は自由が効くので顔だけイチャつく二人の方へ向け話題を切り出した。
「……何かって、何?」
唯が邪魔だといった鋭い目つきで聞き返す。
人の家で妙な事はしてくれるなよ?と心の中で念を押して問いに返答する。
「困ってることとか、俺たちに話してないこととか、まあ無いなら無いでいいが」
大まかな例を挙げ再度問う。
勿論悠斗も事件が欲しいわけではない。
何もない人生に不満は無い。
「うーん……特にはないかな」
司が手を顎に持っていき、思考を巡らす素振りを見せたが何も得られなかった。
だが、笑みから読み取るに本当に問題として取り上げる事象が無いのだろう。それは平和で何よりだ。
「それなら――」
「でもひとつだけ」
「――?」
「僕たちも頼って欲しい」
「……ああ、頼ってやるよ」
司の頼みとして心に刻んでおこう。
それに、司の依頼は別件として残っている。
とても重大な依頼がひとつ。
その任務完遂には、大した時間も労力も必要としないだろうが。
「そんじゃ白翼」
「は?」
心を切り替えて次の者へ移る。
しかし白翼は急な振りに少し間の抜けた声を出して、動きを停止させる。
そう言えば、いつの間にか室内が静かになっている。
白翼の声が目立つと思えば、それが理由か。
と、些細な変化を感じた。
「は、じゃなくて。なんかないのか?」
もう一度同じ意図の質問を繰り返す。
脳内整理を待機して彼女の言葉を待つ。
「あ、ああ、そうだな……オレは能力だ」
数秒を要して我に帰り短くそう表現した。
能力、それは即ち固有魔法のことだ。
「ああ……そういや前に言ってたな。波動ともう一つあるんだっけか?」
以前の会話を思い返し今の会話とリンクさせる。
その能力の使用したタイミングは、悠斗の知る限りでは夜中に家を抜け出そうとした時の一回。
それとどう結びついてくれるのか。
「そうだ……。あーちゃん、ちょっといいか」
悠斗の確認を肯定して、傍らのあーちゃんに離れるよう指示する。
「オレの二つ目の能力は――『貫通』だ」
一単語ずつ丁寧に喋りながらドアの前まで歩く。
能力の使用を目の当たりにしろと言っている。
悠斗が勝手に想像するに、貫通程度なら家内で使われても被害はないだろう。
固唾を飲んで見守ることにする。
――――。
「ぇ?」
悠斗が珍妙な音を鳴らした。
しかし、それを指摘する人間は一人もいない。
何故ならあーちゃん以外全員同じ声が漏れそうだったからだ。
能力に関しては博識とも言えるエリカや健祉でさえも難しい顔をしている。
それも当然。
彼女に『貫通』の能力と説明されながら、実際目にした能力は――
「これ……透明化、だよな……?」
悠斗の単語の方が適切なものだった。
全員が能力のお披露目を目を凝らして見ていると、突然彼女の姿が消え去った。
まるでこの世から失われたように。
その光景は、悠斗がノアにこっそりと見せてもらった『透明化』と同類だった。
否、同類でも少し遠いほど似通っている。
困惑する一同。
目を伏せる一名。
その空間に、ガチャッと音が響いた。
ゆっくりと開くドアは、透明化した白翼が開けているものと予想する。
ただ一名を除いて。
「よっ……」
「えっ、マジっ⁉︎」
外側、即ち廊下側から姿を見せる白翼に唯が驚愕する。
否、黒金姉妹以外、驚かない者はいない。
悠斗たちは当然の如く目を剥き、知識量豊富な健祉とエリカは必死に脳内から関連のある能力を引っ張り出す。
「……やっぱ、見えないか……」
後ろ手でドアを閉じながら白翼が物悲しそうに呟いた。
どこに悲しむ要素があるのか些か疑問だが、何となく頷き難い様子だった。
「ああ……今のが、『貫通』……なのか?」
白翼にではなく、知識の海に疑問をぶつける。
膨大な知識が解決してくれるという信頼を持って。
「……どうだろうな。正直『貫通』と言えるかは微妙だ」
感嘆のような声で個人の見解を述べる。
そんな健祉に合わせて頷き、エリカは様々な能力名を挙げ始める。
「次元移動、テレポート、透明化、交換……」
知識として溜め込んだ中から、適合しそうなものを一通り挙げてみる、が、納得のいかない顔だ。
「次元移動は移動にホールの展開が必要、交換は移動先の何かとの位置換えだからこの場に何かが現れるはず……」
健祉がエリカが挙げたものを一つ一つ潰していく。
しかしそれが適当かは悠斗には分からない。
「テレポートは……ノアちゃん、わかる?」
エリカが残りの二つのうち一つの解消方法を発見し、その能力の所持者であるノアに尋ねる。
回想してみれば、以前魔界に行った際、素のテレポーターは転移先がわかると言っていた。
それを利用しようと言うことだ。
「はい、テレポートではありませんでしたし、私の目からも白翼さんは見えませんでした」
「…………?」
ノアの深刻にふと首を傾げたエリカ。
悠斗にはよく理解できないため、何が不満なのかさっぱりだ。
「なんでノアちゃん、透明化の能力者みたいなこと言うの?」
半信半疑な顔でノアに近寄る。
そこで悠斗もなんとなく合点がいった。
恐らく、『透明化』の能力者は透明化した相手が見えるのだろう。そうすれば噛み合う。
「あ、すいません、私、いつの間にか『透明化』の能力を持ってしまっていて……」
と、白翼に続けて告白した。
「「ええっ!」」
連鎖も加えた衝撃に一部から声が上がる。
特にエリカの声はよく反響した。
「悠くんと福田くんはともかく……二人まで二重能力……」
エリカが絶句し、珍しい表情を見せた。
だが、その面白い顔よりも、エリカが驚愕する事実の大きさがイマイチ悠斗には伝わらない。
「二重能力ってそんな珍しいもんなのか?」
ノアとエリカが離れたことで身軽さを感じ、軽く手足を動かしていた悠斗は、どちらかと言うと興味なさそうに誰を特定するでもなく独り言のように言った。
「そうそういないよ、そんな優れた人なんて」
「いやー、そんな優れた人だなんて、照れます」
エリカの本心からの称賛に照れ照れと頭を掻きペコペコするノア。
エリカにノアを評価する意思はなかったため、その態度が何やら癪だったらしい。
「まあ生まれつき頭が悪くて才能もない人に慈悲深い神様が能力を分け与える例がここに一人いるけどね〜」
「な、なにをー!」
以前のような懐かしい喧嘩が始まった。
賑やかな事は悪い事ではないが、時と場所を考えて欲しい。今は揉め合うタイミングではない。
「で、結局白翼の能力は貫通でいいのか?」
地味に気を使って少し離れた位置でキャイキャイと騒ぐ二人を放って脱線した話を元に戻す。
「さあな、本人がそう言うならそうなんじゃないか」
健祉もお手上げだと降参したように両手をあげる。
もはや確認する手立てはなくなった。
「ああ……オレ視点では自分の姿が見えてるから、透明化の線はないし、テレポートや交換、次元移動も違う」
己の力をそう評価して苦い顔をする。
更にその横では白翼よりも硬い表情をしたあーちゃんが、悲壮な様子で姉を見つめていた。
「…………うし、じゃあ、あーちゃん。なんかないか?」
「へ、わ、わたしはないの」
わたわたと慌てて動揺を見せる。
深く知らない他の者たちから、どうしたのかと不思議そうな視線が浴びせられる。
そしてその中に、白翼もいて……。
それは即ち、誰も知らない「何か」を彼女だけが知っていると言う事で……。
「……そっか」
だがそれを深掘りしない悠斗。
健祉も悠斗に合わせて平常を装った。




