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神の名のもとに〜異世界と現実の狭間に生きる〜  作者: 麒麟燐
第一章 人生開幕編
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第七十四話 軌道修正


 次の相手は、

「司、唯、福田」

 対象として指名する3人の名前を挙げ、それぞれの顔と向き合いながら更に続ける。

「取り敢えず、エリカたちのこと、有難う」

 最後に全員を対象として正面を向き、深々と腰を折って頭を下げた。

 今日は頭を下げてばかりだ。

 謝罪するべき相手が多い事に妙な懐かしさを感じた。

 だが、そんな感慨に浸る暇もなく事は進展し続ける。

「気にしないで、僕たちは一応部員だしね」

 そう言って少し遠回しに顔を上げろと伝える。

 司ならそう言うだろうな、と予測はついていた。

 勿論、唯も同様に。

「アタシは兄さんに言われたから、仕方なく」

 ツンデレ力を発揮して、ぷいっとそっぽを向く。

 2人はいつも変わらない。


 だが、福田は予測できない。

「気にすんなよ」

 止めてくれと言わんばかりに手で何かを払う。

 照れているのか、それとも本心からか。

 満更でもなさそうな顔が、仮初に見えて来る。

「……お前は一体……何なんだよ」

 無理解ばかりでどうしようもない。

 処理が追いつかない世界だ。

 それでも、福田の行動理念程度は理解したい。

 そんな欲求からつい妙な尋ね方をしてしまった。

「何って言われてもな……。……保護者?」

「それは凹む」

「だろうな」

 健祉が悩み抜いた結果出した答えにトホホと肩を落とす。

 健祉視点から見た悠斗の存在を多少理解し、その評価に落胆しながらも冗談めかして反発する。

 観衆が2人のやり取りをたまに笑いを挟みながら傍観している。

 立ちっぱなしに疲れたのか、唯がわざわざ司が悠斗のために開けた席に腰を下ろす。

 停止した空間のように動きの少ないこの室内での一つ一つの行動は、特殊でなくても良く目立った。

「ま、俺は後でいいよ」

 その付近の席に、当初から変わらず偉そうに構えている健祉が組んだ腕を(ほど)いて、今度はその両腕の肘をテーブルに立てた。

 どこまでも偉そうだが、事実偉いので何とも言えない。


 健祉の配慮とも主観的都合とも判別できない言葉と態度に一度首肯し、傍らにいる少女を見下ろした。


 悠斗の動作に、割と敏感に反応したノアが青髪を揺らして首を持ち上げる。

 ノアの震える蒼い双眸が、自分の眼と意識が震えていると悠斗に錯覚させる。

 初動、悠斗は微かに悩んだ末――右手を彼女の青髪の上にポンと乗せた。

 そして、言葉を贈り始める。

「お前もごめんな、強く言ってしまって……」

 頭を撫でながら昨日の暴言を謝罪する。

 ノアも当然気にしていた「信頼」と言う議題。

 3人の秘密が立て続けに明らかになり、その結果悠斗の暴論でノアにまで飛び火する惨事だった。

 あの時の悠斗の発言、最も傷を負ったのは間違いなくノアだ。

 誰よりも信頼が厚かったはず、それを裏切られて、見捨てられた気分になった。


 今考えれば、その時のノアの心情など手に取るようにわかる。だからこそ、ここで謝罪ともう一つが必要だ。


 ノアが悠斗の柔らかい言葉に一度首を下げる。

 そして、様子を伺うような上目遣いでその先をじっと待った。


「でも、本当は……」

 一瞬たじろぐ。

 この大衆の面前で言いたくはないから。

 しかし、その逡巡をネガティブに捉えたノアの顔が陰る。

 彼女にジメジメとした陰湿な表情は似合わない。

 悠斗の都合で彼女――否、妹の心に傷を負わせるわけにはいかない。

「本当は、一番……」

 一旦言葉を切り、ノアの耳元に口を近づけ、キス間近あたりの距離で止めると、

「信頼してるからな」

 悠斗は、自分を晒し者とせず、しかしノアに本心を伝えるために、卑怯ながら耳打ちという手段を取った。

 だが、逆にノアから向けられる視線に顔が真っ赤に染まった。まだ朝の9時半過ぎなのに、夕陽を浴びているようだ。


 他の面子は悠斗の耳打ちの内容を気にしている……いや、健祉は能力を使ったのか、ふっと鼻で笑って悠斗を一瞥した後、静かに目を瞑る。

 心中で「クッソ、あの野郎っ!」と怒りに震えていると唐突に体に負荷がかかった。

「はい!」

 何事かと健祉から視線を外すとノアが自分に抱きついて、一度大きく返事をする。

 その後、先ほど悠斗がノアにしたように、今度は彼女が悠斗の耳元まで口を近づけた。

 そして、

「私の信頼と愛は、お兄ちゃんだけのものです」

 甘く妖艶な美声で愛情を囁いた。


 その音色に顔がより鮮やかに火照り始める。

「お熱いな」

 健祉の安い挑発じみた茶々が入る。

「え〜、何々〜?」

 エリカが誰よりも興味を示して悠斗に擦り寄ってくる。

 健祉の言葉からある程度の目星をつけ、その答え合わせのために当人に近寄ってきている。

 健祉の無駄な一言のせいだ、と心で愚痴るが、自分の赤らんだ顔が何よりの証拠である事は、悠斗自身が一番よく分かっていた。

「んふー」

 エリカの怪しむ目と、ノアの歓喜に満ちた表情が悠斗の間近まで迫っている。

 ノアの鼻息が首筋を擽り、エリカの凝視が逸らした目に突き刺さる。

 他のメンバーに救いでも求めようか?と辺りを確認してみたが……。

 司と健祉は苦笑して温かい目を向けたり、唯は「はぁ」とため息をついたり、白翼は自分の気持ちを隠して目を逸らしたり、あーちゃんは姉を見て悠斗を見て難しい顔をしたり、などなど……。

 誰一人として役に立たない。


「悠くん」

 名前を呼び、ジッと見つめる。

 段々接近して来る錯覚に見舞われ、身を後方に引いた。

「……お前には、後で色々あるから」

 顔を歪めて話を微妙に逸らす。

「なんだ、そっか」

 それだけで豹変し、いつも以上の明るさが帰って来た。

 まるで太陽のように明るい。

 いや、そのためかむしろ暑苦しくて鬱陶しい。

「……ふぅ」

 ひと段落した謝罪の連鎖。

 安堵に極めて近い吐息を溢し、今一度全員を見直す。

 空気の変化を感じ取った探偵部員プラス一名は悠斗を焦点として視線を集中させる。


「改めて、本当に迷惑をかけた。謝罪する」

 しつこく繰り返すお辞儀。それを各々が自由な感情で解釈する。

 笑う者、呆れる者、困る者、嫌う者、などなど。

「だが、以後こんな事はないように善処する」

 上げた顔は真っ直ぐとした瞳で飾られていた。

 日本人としては一般的な黒の瞳が照明を反射している。

「そのためにも、お前らが何者か、詳しく聞かせてくれ」

 人を……仲間を……否、友達を疑わないためにも、彼ら彼女らの本性や正体、それを確かめておきたい。

 自分の頭の中のノートに書き記したい。


「あんさ、アタシ別にそれはいいんだけど、でもこの空気はそろそろヤなんだけど」

 唯が妙にいい点を突いた。

 悠斗の堅苦しい言葉。

 友達同士と思えないぎこちなさ。

 周りくどいやり方。

 全てが鬱陶しくて誰もが皆疲れている。

 自己中な意見のつもりだった唯だが、実際は全員が違和感を覚えていた。

 まさかその指摘の第一人者が唯になるとは、誰も想定していなかったろう。

「……そうだな、悪い」

 そんな世界を構築していた主犯の悠斗が頰を掻きながら視線をうろうろさせる。

「……じゃ、はい! どうぞご自由に」

 両手を強く平手で叩き合わせ注目を浴びると、主役として全員に許可を出した。

 すると、


「「ゔああぁぁぁぁーーーーー」」

「悠くん!」

「お兄ちゃん!」

「兄さん!」


 メンバー8人の内5人が弾けた。


「おいおいなんだよ悠斗、さっきまでの気持ち悪い時間は」

 幼馴染みの関係の中、初めての緊張感に無駄に気を張っていた健祉は、表現し難い音を鳴らして悪態をついた。

「ほんとな、さすがに疲れたぞ」

 それに同調するは、もう一人の唸り声の主、白翼だ。

 彼女もまた、健祉と似たり寄ったりな不吉な音を鳴らしていた。


「もう悠くん大好き、可愛い、愛してる!」

 それに被せるような勢いで悠斗に飛びつく者もまた2人。

 そのうちの一人がエリカ。

 透き通る桃髪を靡かせて悠斗を襲う勢いで抱き付く。

 愛を叫び、恥じらう様子もない彼女は、正にエリカだ。

「お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん!」

 もう一人はノア。

 彼女は愛ではなく兄を叫ぶ。脳が故障してしまったのかもしれない。

「兄さん、アタシ結構頑張った」

 唯は唯で兄にしがみ付き自分の努力を誇示する。

 しかし、客観的に見れば彼女の功績など大したものではない。

「うん、ありがとう唯」

 まあ、兄妹で分かり合って平和に済むならそれでいいが。


「ええと、私も何か……えぇと、えっと……、ぅっ」

 一人だけ流れに乗れず取り残されるあーちゃん。

 あたふたと身を動かして言葉や行動を探す。

 しかし、慣れない環境に簡単に適応できたりしない。

 慌てるあーちゃんの銀髪に白翼が手を乗せて冷静になるよう促した。


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