『第六部』 第六十話 切なく微笑むは……
どうも、麒麟燐です。
さあ、今回も張り切って参りますよ!
魔界でヴァラグに敗北した悠斗。
ヴァラグの言葉や、エリカたちの言葉に悠斗は自責の念に駆られてしまい……⁉︎
早速分裂していく探偵部。
どうなってしまうのか。
第六部、始まるよ。
皆さま、どうか評価等にご協力ください。
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「…………」「――――」「…………」「――――」
「…………」「――――」「…………」「――――」
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「…………と?」
「…………ん?」
「…………と?」
「…………ん!」
………………………………。
「ぉ…………‼︎」
「……ぅ……?」
「………………ん! ぉ……!」
「……と?………………の?」
「…………ん!…………ん‼︎」
………………。
「………………。…………ょ?」
「……………………っ‼︎」
「……ぅ……?……?………………。ぃ……?」
「ぉ………………!……。っ……ょ…………‼︎」
「…………の?」
「………………」
…………………………。
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「……………………‼︎」
「…………」
「…………ん?」
「…………」
「――――!」「――――!」「――――!」
「――‼︎」「――‼︎」「――‼︎」「――‼︎」「――‼︎」
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「――‼︎」
「――‼︎」
「――――――‼︎」
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「――ハッ‼︎」
意識が暗転し、世界が壊れ去っていった。そのひび割れていく世界に何故か佇んでいた少年は、それが夢という妄想の世界であるとも知らずに必死に足掻いていた。
次の瞬間に意識が覚醒し、夢であったことに気がつく。
微量の汗で服や布団が肌にくっついて来て気持ちが悪い。
いつも感じるそんな感情も薄れ、勢いに任せた上体が静かに起き上がっている。
「はぁ……はぁ……、っ、はぁ……」
呼吸が荒く必死に空気を求めている。その途中に数度だけ息を飲む行為を挟んだ。
呼吸音も息を飲む音も、体の中から直接耳の奥に届いて来ていつも以上に音がよく響いた。
片目を隠すように額に手を当てると額に密着した指ではなく、眼に触れた部分に妙な液体が付着したのが分かった。
視界を開けると突然目の前が潤み始め、世界が不自然に揺らめく。その振れ方には規則性がなく、まるで砂浜に押し寄せる波のようだった。
「…………なみ、だ……」
その正体を見破った途端、謎の寂寥感が腹の奥底から込み上げて来て、少年の感情を大きく揺るがす。
「なん、で……」
理由も判らず溢れ続ける『涙』という不確定要素に声を震わせて必死に両眼を擦る。
擦って、拭って、擦って、拭って、取り払おうとしたけれど、一向に止まる気配が無かった。
1人ベッドの上で声を押し殺して泣きじゃくる少年はまるで幼子。もっと言えば、生まれたてで母を求める赤ん坊とも取れるだろう。
全く頼りにならない体感で約5分が経過し、やっと涙が流れ切った。
最後にもう数度目元の水分を取り払い大きく、ホッ、と息をついた。
辺りをぐるっと見回すと見覚えのある内装が映り込む。
カーテンで日光が遮られ、光の少ない室内。
ベッドの側に置いてあるデジタル時計を見ると8時30分21秒だった。その時計にはご親切に日付と曜日も記載されており、4月20日土曜日と表示されている。
今日は休みか、と心中で呟く。
「ええっと……」
どうすれば、いいのか。
昨日は何を、したんだったか……。
今から何を、すればいいのか……。
「っ――!」
思考を巡らせ、自問自答を繰り返している脳内に突然入り込む影があった。
それは、薄れゆく意識の中、唐突に少年の前に現れた別の少年。
思い、出した。
いや、ここは思い出してしまった、と表現すべきか……。
昨日起こった出来事と今自分がこうして目覚めた事実、その二つがやっとの思いでリンクする。
「ぐっ――」
奥歯を強く噛み、『何か』を噛み潰す。
目には幻覚のような昨日やそれ以前の惨劇が、
耳には幻聴のような昨日のヴァラグの一言が、
口には味わったことのない血と砂の味が、
鼻には腐敗した空気と血の臭いが、
肌には汚れた砂と血、そして嗤う様に撫で付ける風が、
五感全てが記憶に残る悲劇の数々を思い起こさせる。
「あいつら、は……?」
急激な衝動に駆られた少年が、ついに体を動かせた。
重たい体を45度回転させて足を床に着く。
絨毯が敷いてあるため裸足でも冷たさを感じることはなく、フローリングと足が張り付く鬱陶しさもなかった。
焦燥に発汗量が増すが、その割に歩く速度が遅い。身体が弱っている事もあるが、それ以前に感情の半分ほどが迷い躊躇っている。
自分の部屋を出て廊下を歩く。
間近にあるノアやエリカの部屋も通り越すとそのまま一直線に階段へと辿り着く。その階段を一歩一歩踏みしめて行くと、少し古くなった床がたまに音を立てて来た。
階段を降り切ると視界の端に鍵のかかった玄関があった。
何となく5秒ほど見つめた後、反対方向を向きリビングのドア前まで歩みを早めた。
「…………」
「……………………」
「…………」
中からは誰か複数名が談話する声が聞こえた。
「…………」
話の内容も聞き取れず、3秒ほど聞き耳を立てようかとしゃがみ込みかけたが意を決してその扉を開く。
朝、大して変わらない明るさの変化。
目の前には音に反応して視線を向けてくる4人の女子。
皆が皆、目を見開いて目を濡らし始める。
桃髪の少女が、口角を上げて席を立つ。
青髪の少女が、嬉しさに固まって座り続ける。
黒髪の少女が、頬を赤らめてにこやかに出迎える。
銀髪の少女が、安堵の吐息を溢し優しく笑う。
先手を取るべきなのか?
先におはよう、と挨拶するべきなのか?
「悠くん! 良かったよ、心配したんだよ!」
開口一番はそんな感激するような言葉。
安心よりも感激。そして涙は感涙。
「みんな、悠くんが心配で心配で……ね?」
最後は疑問のように周りのメンバーに同意を求める。
満場一致でシンクロして何度も首肯すると代表したエリカが少年に駆け寄る。
会話の途中だっただろうが、そんな事に一切構わず全員席を立つとエリカに続こうとした。
「しん、ぱい……?」
が、少年のそんな不思議な返しに一同の動きが一瞬停止する。
誰も深く考える事なく各々一度頷き返すと、またしてもエリカが代弁も含めて口を開いた。
「そうだよ。悠くんが起きなかったらどうしようって」
そこまで、憂いてくれていたのか……。
こんな、奴のことを。
「そう、だよな」
自嘲的な笑いを溢して相槌を打つ。
彼女たちの言葉には納得するほかない。
だって、事実なのだから。
……。
いや、誰も納得云々の話はしていない。
そんな思考は有り得ない。成立しない。
「悠、くん?」
いつもと様子の違う少年に、数秒前まで仲間と分かち合っていた不安の表情を取り戻す。
他の3人も非常事態に気が付き、少年の側へと急いで駆け寄る。そしてそれぞれが少年に呼びかけると、呼応する様に爽やかな嘲笑を作って言う。
「ごめんな」
ただ一言哀しげに告げると4人が先まで会話していたテーブルの自身の定席に腰を下ろす。ゆったりとした足取りが事の深刻さを強く印象付ける。だからこそ、誰一人として彼に続く事なく、静かにその着席までの行為に目を見張るだけだった。
「昨日のこと……聞いていいか?」
呼吸音が支配した世界で発破をかけたのはその少年。
元の席に着くよう促し、薄い眼で誰かを定める事もなく言葉を待機する。
ただならぬ気配に恐れた者たちが次々と席に着く。
「話してくれ」
全員の着席を感覚で確認し、静かに一度目を瞑る。
「……うん。昨日はね――」




