第五十九話 悠斗の周り
更に場所は変わり、ヴァラグのいる一室――
殴られ、蹴られ、投げられ、吹き飛ばされ、目が回る。
胃の奥底から液状の物質が逆流して来そうだ。
腹と喉に力を込め必死に流出を堪える。
幸い能力のおかげでどこかが負傷したとしてもすぐに治療することができる。それこそ、対峙する相手が余裕を見せてくれているから。
再度腹部に強力な蹴りを撃ち込まれ後方へ押し返される。
「しッかし、まあ残念なことだな、こんな雑魚の下につく奴らもよォ」
ケラケラと笑い首を傾けて骨を鳴らす。
どんな造りなのか、アニメで聴くようなゴキゴキという異常な音が響いて来て不快感が掻き毟られた。
数分前に悠斗の失策で蹴り飛ばされたノアが無惨に無防備に転がっているのが視界に映る。それの方が悠斗にとって気分の悪いものだった。
「意味が……、分からん……ゔっ、っっ」
またしても遡ってくる胃酸。
喉の奥が焼けるような感覚が不愉快で、立つことに抵抗感を覚える。
かと言ってここで引き下がれるわけもなく、右手を強く地面に着き自分に気合を入れる。ゆったりと立ち上がり、涎に光る口元を雑に拭った。
服の袖に染み付いたその液体はまもなく消えて無くなっていくだろう。
「テメェは本気で何も知らネェみテェだな。宝の持ち腐れってやつか、ああ?」
理解不能な言葉を列挙し、悠斗を嬲り続けるその姿は正しく悪魔――いや、的確に、『魔王』と。
「た、から? その、勾玉か……」
秘宝らしきアイテム。悠斗の頭に浮かぶのはそれの一つ限りだった。しかし、ヴァラグの嗤いと言葉の使い方からそれでない事は明白、ならば宝とは――持ち腐れとは、何を指していて……。
「違げェよ、いや、あってんだがよ。俺様が指してんのはもっと他の奴らのことだ」
その言葉から、この悪意の塊が先ほどから示し続けた「タカラ」の正体に辿り着く。それは、勾玉以上に身近なモノ。
モノ……そう、それは決して「物」ではなく、「者」である。
その者は、一体……。
「馬鹿げた能力に恵まれたハーフの野郎共に神器を持ったアマ、オマケに一国の元王女候補と来たもんだ、しかもそいつらですら幹部に及ばネェとはなァ、ククッ」
「お……おい、今、なん――」
最後の一文字を発音することは許されなかった。
腹を側面から全力で蹴られ体が宙に浮く。濁った音や、汚い逆流物を口から出すこともできず石壁の方へと吹き飛ぶ。
背中を強打した瞬間全身に激痛が走るがまだ何とか耐えれた、が、ほんの僅かに遅れて今度は後頭部から岩石にめり込む。そこで意識のほぼ全てが刈り取られた。
痛みを感じる暇もなく意識がどんどんどんどん遠のいて行く。気絶した事はない、初めての感覚、初めての体験。
でもないか……そう言えば、白翼との言い合いで一度……あれ、なんだか走馬灯みたいな……ハハ、死ぬわけ……ないだろ。
「あ?」
途絶していく意識の最中、悪魔の声が聞こえて来た。それは声と言えるのかも分からないが、きっとそう。
地に寝そべった体、頭を動かす事もなく無理矢理薄目を開き続けていたその視界に、白い異物が入り込んできた。
視界がぼやけて像が揺らめく。
この揺れる白い物体はなんだ?
悠斗の意識の中でも見ているような……。
「……まで……ぅ…………ろ」
別人の声だ。
聞き覚えがある。
誰だったか……。
確か、身近にいた……。
そうそう、よく後ろから、聞こえて来ていた声。
えーっと、確か、名前、は、福、田、け、ん、じ、だ、っ、た……よ……う…………な……………………?
「――――――――」
悠斗の意識は闇と光の交雑する渦中に沈んでいった。
みなさん、第五部の最終話という、そこそこ区切りのいいところまで来ましたが、どうですか?
一人でも多くの方が見てくれているのなら、私はそれだけで描き続けられます。
いやー、遂に悠斗陣が負けましたね。
悠斗陣の戦力トップ2の悠斗とエリカが全く敵わない相手でしたが、大丈夫なんでしょうか。
まあ、小説や漫画は、作品の都合上どうしても後半に行くにつれてキャラのインフレが起きちゃうんですよね。
少しだけ話しておきますが、ストーリーは殆ど頭の中では完成済みですので、あとは文字に起こすだけ。
あんな子やこんな子も早く登場、活躍させたいなーって思ってます。
あんな子やそんな子に、乞うご期待!
評価等もよろしく。




