第五十六話 またしても、乱入者
両チーム、構え、戦闘準備完了。
最終決戦は、いつだろうか。
どちらも悪であり、互いに正義である。
この両極の対立、どちらが勝利しても、必ずなにかの反感を買う。ならば引き分けが、最も賢い選択肢。
だが、勝負に決着を求めないなど……。
「これで最後だ」
男が吹き荒れる風を従えて、更に無数の雨雲を出現させる。
「そうだといいね」
少年が嵐を物ともせず直立し、周囲を発光させる。
「あーちゃん」
前へ進み、少女が、庇う。
「お姉ちゃん」
後ろで護られながら、少女が、庇う。
「――いざ‼︎」
男の掛け声に世界が豹変し、その変貌した環境の中に4つの影が浮いていた。
あーちゃんが一足先にバリアを展開。
牽制としてその守護膜に天使2人が神の裁きを下さんとして――
「ギィッ――!」
「わぁっ!」
その天使2人に――
――神の鉄槌が下される。
男は迫り来る何かを察知し、その勢いある物質の勢力を弱めるため、無数の雲を一点に固め、威力を殺した。
……それでも、多少の衝撃に体が揺れる。
少年は、飛来する一撃に面食らい軽く一発を貰ってしまう。が、どうやら相当な手加減があった様子。
2人を襲った影は天魔のハーフを庇うようにバリアの前に仁王立ちした。
その後ろ姿、なんとも神々しい事この上なく…………。
だが待て、と心が呼びかける。
何となく、見覚えのある背中……。
影の速度と天使への接触の結果、再び砂塵が舞い、目の前が薄暗くなっている。
「くっ、何奴だ!」
「てて、ビックリしたー」
2人のそれぞれ異なる対応。
それに対して影は、
「何奴だろうな。何奴だと思うよ、なあ? バルド?」
と疑問を返す。
「いっ……ま、まさか……いや、でも、なぜこんな所に」
男は一瞬で顔を青くし、砂煙で見えない中その影に向かって敬意を込め、加えて怯えた様相で尋ねる。
しかし、少年はと言えば、
「わわっ、ミカエル様だー。どうしたんですかー?」
と、ノリが軽く、扱いの格差が歴然だった。
一瞬にして捌けていく砂埃はどこへ消えゆくのか。
開けた視界、両者の間に割って入り、佇む神々しい少年。
少年の何気ない暴露に黒金姉妹が今まで以上の警戒態勢を取る。が、醸し出す雰囲気から戦意の無さを理解し、その背中を再度よく見つめ直してみた。
………………。
「悠斗の……」
……悠斗の…………何だろう?
彼らの関係が正確にどうかは認識の範囲外だが、2人が関係者である事は知っている。
つまり悠斗は……無自覚に大天使ミカエルと接点を持っていたのだ……こうも身近に。
「バルド……ステを騙したのか?」
その大天使は、自分が話題として挙げられていることを理解し、後ろに庇ったハーフ2人を一瞥すると、天使――バルドと呼ばれる青年に向き直った。
外見からミカエルとバルドではバルドの方が年上だ。けれども上下関係はかなりしっかりしているらしい。そう、態度や空気が物語っている。
「い、いえ、決してそのような事は……彼も自分の意思で……」
先まで威勢よくハーフを襲っていた鬼の青年はどこへやら、上司にゴマをするように声の調子を変え、怯えながら話題に上がるもう一方の天使――ステグ(ステ)と呼ばれた少年に視線を預ける。
それに従い大天使も少年の可愛らしい瞳を見つめる。
「ほんとほんと、先輩の言ってる事はほんと。僕、先輩が困ってるのみて力になりたくて……」
悪気なさそうで申し訳なさそうな顔をする。感情が読めない性格で大変な子だった。
しかし、その目を見て大天使は即事実だと理解する。
「そうか……。バルド、ステ……それでもお前たちのやった事は天罰が下るほどの命令違反だ」
一度目を閉じ、そして開く。
それに続けて2人に罪の重さを自覚させる。
「し、しかしミカエル様、何故あの様な法改正を……」
「バルド」
「何故彼にそこまで固執するのですか……っ」
「……」
「俺は……俺はまだ……!」
「バルド」
部下の訴えは重要な意見。賛否両論は政権において当然。
だが、答えは一つ。
全ての人間に思いがあり、執着するモノがある。
それは、天魔のハーフや大天使に限らない。バルド、ヴァラグ、更には悠斗やエリカまでも「ある何か」に囚われている。ヒトには、手放せないモノが少なからずある。
それの違いが亀裂を生むのだ。
「今日の昼に、悠斗の運動神経はある程度測れただろ」
「ですが……! あの程度では――!」
「ああ、でもあれも本気じゃない。詳しくは戻って話す」
訳のわからない論争が展開され、取り残されるハーフの2人と後輩の天使。
「バルド、私情を捨てろとは言わない。俺も大方私情と関連してこの状態だからな」
たまに噴き出る熱い気体を一度スゥッと吸い込み、ハっと吐き出す。
そして続く。
「でも……俺がトップだ。その指示には従ってくれ」
「…………」
その言葉にバルドが怯んだ。
勝手に自画自賛して、俺が頂点だと言い張る大天使。
それが持つ意味。
「それが嫌なら……俺から離れてもいい」
さらにそう続いた。
「そんな事……できません……!」
悲壮な表情を隠す様に熱い地面に視線を送る。
会話の詳細は、2人にしか分からない。いや、大容すらも他の3名は全く理解できていない。
収集のつかない事態に目が回りそうになる。
「ほら、2人は帰れ。ガブリエルには内緒にしとくから、バレない様に仕事に戻りな」
突然笑い、二つのテレポーターをそれぞれに押し付ける。
「…………」
「…………」
突然トーンが明るくなり、場の空気を一変させた主人に目を丸くし、2人で見つめ合う天使の従者。
天使長の寛大な心に今一度感謝しながら、渋々とこの場を後にする。
その去り際、大天使から2人にもう一言、
「開いた時に、ちゃんと話す」
それで満足だった。
2人はテレポートしていった。
「んで……こりゃあどういうことだ?」
白翼が後ろで安堵しつつも怯えるあーちゃんのために率先して尋ねる。
が、その出鼻は早速挫かれる。
「悪いな、それより奥の3人が先だ。俺は先行ってるから、急いでついて来てくれ」
そう言うと見覚えのある少年は、瓦礫として通路に立ち塞がる岩石を正拳突きや回し蹴りなどで雑に破壊して奥へと飛んでいった。
その光景を呆然と眺めていた2人も、ハッと我に帰り、
「お姉ちゃん、行こう?なの」
「え、でも……眼が――」
「平気なの」
片目だけでニコニコと健全をアピール。
心配が尽きないが……本人がそう言うのなら。
「……分かった」
「なの」
2人も、援軍の後に続いた。
最も、既にその援軍の背は目視できなくなっていたが。




