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神の名のもとに〜異世界と現実の狭間に生きる〜  作者: 麒麟燐
第一章 人生開幕編
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第五十四話 姉妹の共闘2


 悠斗がヴァラグとぶつかり合いを始めた頃、5人が連れ込まれた最初の間では2人のハーフの健闘により三つ首の魔獣を撃破すると言う任務は遂行されていた。

 しかし、それと同時に予期し予期せぬ乱入者が下劣な笑みを浮かべ、その身に似合わぬ苦々しい顔で天魔のハーフを軽蔑し牽制していた。


「ストップストップ――」

「――お前たちはここで――」

 ――――。

「「――僕[俺]たちによって処刑されるん[だ]ですよ」」


 幕引きした劇場に再びスポットライトが灯る。

 まさにここが修羅場と言わんばかりの力強いスポットライト。


 第一陣営、黒金姉妹。


 第二陣営――天界軍幹部。


「チッ、いつか来るとは予感してたが……よりによって今このタイミングかよ……ッ!」

 間の悪さに奥歯を強く噛み、ギシッと音を鳴らすと突如現れた危険人物を鋭い眼光で睨みつける。

 その鬼気迫る形相を煩雑な態度で虫を払うような仕草を見せる1人の男。ギリギリ少年と呼べる域の外見で、身長は勿論高くないが顔たちがどこか幼い。

「やめてやめて、そんなに見られたら聖なる僕の忠誠心やら誠実性やらその他もろもろが、汚れて、汚染されて、混濁して、穢れて、臭くなっちゃう。怖いなー」

 存在そのものを否定するような態度と物言いだが、既に2人は何度も浴びせられた誹謗中傷。2人は悪くないのに、習慣や掟、風習や風評によって塗り固められた剥がしようのない固定観念。

 理不尽な世の中とは不本意にも付き合い続けて来た。

 不条理の世界と向き合って、そして逃げて来た。

 不合理を嘆かず、運命として受け入れた。

 今頃誰に何を言われようと感情は揺らがない。

「法が改正された今、オレたちに何の用がある」

 ブレない瞳が敵対する2人の存在と形をしっかりと捉えて離さない。

 先程見るなと言われたが、互いにそっぽを向いた状態で会話することもまた変な話。いくら嫌った相手でも多少の妥協点は引き出してくる。

「無能な少年に拾われて情報が入手できただけでつけ上がるなよ。俺たちが今何と言ったか聞いていなかったのか」

 そして、「これだから穢れた生物は」と蔑視しながら荒いため息をつく。補足は不要だろうが、無能な少年とは当然悠斗のことを指す。

「でも――」

「俺たちを殺しに来るのは予想してたけどな……、でもお前ら、ここは魔界だぞ? 穢れた土地に踏み入れてていいのかよ」

 その言われようにあーちゃんが珍しくムキになるが、それを以心伝心のような何かで感じ取った白翼はあーちゃんの言葉を封じて会話を繋げた。妹を庇うことは姉の義務とでも言わんばかりの悠然たる立ち振る舞いで前に出て、右手をあーちゃんの前に上げて守る仕草を見せた。

 煽って挑発し自分だけがターゲットになるように仕向ける。能力的にも年齢的にもあーちゃんの方が生存確率と生存意義が大きい。さらに妹であることを踏まえれば、白翼が防衛に徹するのも頷ける。


「そうだ、貴様の言った通りここは魔界だ。だから――」


 男が苛立った顔でそこまで言いかけると一度息を吐き、小さく息を吸うと利き手なのか左手を大きく前に翳す。


「――早々に片付けてこの腐敗した世界から去る」


 突如、外界との通気口がないこの空間に暴風が吹き荒れる。その風は白翼とあーちゃんを取り囲うように渦状の形を形成していく。多方面から押し寄せるそれぞれベクトルの異なった風は次第に勢力を増し、軽い少女たちの体を易々と持ち上げるほどだ。しかし、これまでの人生、それは過酷なものだった。その15年以上を生きた2人はこの程度の向かい風に吹き飛ばされたりしない。

 2人の周りは既に竜巻によって覆われており、そこを通り抜けることなど不可能だった。直接2人に風をぶつけないのは恐らくどこかに飛ばないようにしているからだ。2人の動きは封じつつ、トドメは自分たちの手で……そんな決意すら読み取れた。


「ぐっぅ――ッ」

「んっ……お姉ちゃんっ……」


 さらに暴力的な風速へと加速していきいつの間にかあーちゃんは吹き飛ばされそうになっていた。


「クッソっ!」

 右手をあーちゃんの左手と結んでその場に押さえながら、左腕は風力から目を守るために眼前へと翳す。

 白翼の波動操作で竜巻を消滅可能にも思えるが、この竜巻はいくつもの風の波が多方面から押し寄せているため、一度に複数の波動を操作しなければならない。白翼が意識下において操作できる波は同じベクトル方向に動く波動を一波として、精々3波程度。明らかに力不足だ。

 時間が数秒経過し、もはや立つ事もままならない状態。

 羽を広げてあーちゃんを風から護りつつ、自身も飛ばされぬようにと羽を器用に使ってバランスを保つ。

 こんな嵐では自分を地に止めることだけで精一杯、更にあーちゃんを傍に連れている今、白翼に自衛の余力などあるはずも無い。

 だからこそ、恰好の標的なのである。


 ――――光の矢が突き刺さる。


「ガァァァッッ‼︎」


 神々しい光を纏った光の矢が、二人を守っていた白翼の両翼を貫き、その勇ましい白と黒の翼を焼いた。

 血は出ない。

 流血に必要な血など羽には流れていない。

 鳥の翼と違って悪魔や天使の羽は腕では無い。細かい神経網や基盤となる小さな骨は存在するが、血液は巡ってない。

 ただただ焼失感を味わうのみ。

 風に隔たれた反対側からは、「当たったね」と少年の軽々しい声が響いてきた。


 痛い――熱い――痛い――熱い――痛い――熱い、痛い、熱い、痛い、熱い、痛い、熱い、痛い熱い痛い熱い痛い熱い……………………慣れた。


 先も述べた通り、羽に張り巡らされた神経網は細かく、反応に関しても鈍く、多くの衝撃に対して敏感で鈍感だ。

 唐突に開けられた風穴も一定時間が経つと痛みが収まってくる。神経が鈍感なため、慣れるのも必然早くなる。

 再生には一週間ほどかかるだろうが、その不便は仕方がない。


「ぐっ――」

 相手は二人を殺す気で襲撃している。

 立て続けに数本の矢が二人を襲うことは想像に難くない。

 そして現実、2人を狙いとして新たな一本の太い矢が飛来する。

 それをギリギリのところで身を翻して躱した白翼。

 しかし、この包囲網の中では逃げ続けられない。袋の中の鼠となっている。

 脱出法が浮かばない。

 そんな時こそ強行突破。

 白翼が得意とし、今まで何度も繰り返した戦法。

 負担こそ大きいが、最も信頼のおける方法。


「あーちゃん――」

「お姉ちゃん、まさか竜巻に――」

「ああ」


 僅かなやり取りで真意を汲み取り、突破口について共有する。

 あーちゃんの手を引き、大きく広げていた羽を小さく折り畳みながら、天使の2人がいないと思われる方角へと走る。互いに居場所の特定ができないこと、それがメリットでありデメリットでもある。轟々と鳴り響く風音に足音は掻き消された。

 2人を狙った数本の光の矢が奇襲を仕掛けてくるが、幸運にも以降は命中することはなかった。


「いくぞっ!」

「んんっ――」


 白翼の掛け声とともに2人は大渦からの脱出を図る。


「うぐっ――」

「っひゃぁっ!――お姉ちゃ!」


 荒風へと飛び込んだ途端、先までの不規則な暴風とは比較にならない異常な風圧が2人を襲う。一定の方向に動き続ける風は2人の体を吹き飛ばし、グルグルと円を描くように吹き回す。

 身体が暴風に揉まれ、2人の意識が旋回する。破壊的な風速によって振り回される2人は上下左右も分からず、自分達に起こっている状況すらも理解できなくなる。

 次第に吐き気が襲い、腹の奥底から胃液が逆流しそうになるが、それを必死に堪え嵐からの脱出を試みる。


 小さく折った羽を細かく調整しながら展開し、風の受け方を変え、気流を上手く掴む。そして――


「ガァハッッ!」


 ガンっ!という硬いものとの接触音が耳元で鳴り響き、そして一瞬で鳴り止む。

 白翼の背が、暴風による勢力を保ったまま天井の岩石へと激突したのだ。目前まで接近した天井に気が付いた白翼は、あーちゃんを風の暴力から守るために身を回して直撃を受けたのだった。あーちゃんを庇った分、2人分の衝撃を1人の身で受けたためそのダメージは相当な者だろう。

 既に渦中からは抜け出しており、先の激突の前に竜巻から外側へ投げ飛ばされたようだ。


 そして、風の支配下から離れた2人は世界の物理法則に従い自由落下を始める。

 白翼は衝突の反動で昏倒し意識が定まらずに羽や能力の操作もできない危機的状況にあった。

 天井から地面までの距離の半分ほどのところであーちゃんが両翼を展開し、白翼の手を引いて必死に羽ばたいた。そして、それが功を奏し2人はゆっくりと地に舞い降りることができた。


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