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神の名のもとに〜異世界と現実の狭間に生きる〜  作者: 麒麟燐
第一章 人生開幕編
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第四十四話 悠斗を見る目


「はあぁ、男が欲しい」

「「ええ!!」」

 悠斗の呟いた嘆きに一同が声を揃えて5歩程引く。

 彼の半径3.5メートル内に人がいない状況が出来上がった。

 場所は2年3組の教室。既に一般生徒は捌け切っており室内には探偵部のメンバーが揃っていた。

 司と唯も加わり賑やかになり始めたこの部活だが、悠斗は何やら不満がある様子だ。


「変な意味じゃねえよ。もう少し男子キャラが欲しいんだよ」

 ある程度想像できた反応に嘆息し誤解を解く。その弁明に唯と司以外が安堵し定席に座る。

「良かったよ〜、悠くんがそっちじゃなくて」

「そっちってどっちだよ」

「どっちって、そりゃああっちでしょ」

 エリカがニコニコと悠斗に近寄るが悠斗は座っている席を立ち一つ遠くへと離れる。それを追い悠斗が元いた席へエリカが座って笑ってくるので仕方なく逃げることを諦めその配置で妥協しておいた。

 こそあどの「そ」「あ」「ど」で会話を回すエリカと悠斗は仲良しに見えた。


「悠斗くん、僕は男子なんだけどな」

 頰を掻きながら苦い笑みでアピールしてくる。勿論そんな事は承知の上での言葉だ。

「んなこと知ってるよ。だけどな、司と一緒に唯も入ったからプラマイゼロって感じでさ……まあ男女比率で言えば男子率は上がったけど」

 文句を言ってもどうにもならないが、やはり男子の友人が沢山欲しい。入れられるものなら健祉を入れたいとさえ思っている。

 これ以上異世界関係の人間は必要ないが、異世界側でなければこの場に入れない。どうせ異世界関係が来るなら次は是非とも男でありますようにと切に願う悠斗。

 そんな微妙な態度を取る悠斗には、司だと納得できない理由がもう一つあった。


「それに……2人がラブラブでなんか疎外感がな……」


 ミリの隙間もないほど密着している兄妹の光景だ。窓側最後尾の席で椅子を二つ並べ唯が司の右腕にしがみ付いている。人前でも平然とその行動に出られる度胸は評価するが、見ている側が恥ずかしいので出来れば公の場では控えていただきたい。

 というか、司の依頼は『唯との距離を縮めたい』のはずだったが……物理的には十分縮まっている。これで満足できないのだろうか?

「アタシは普通だったら家で兄さんとこうしてる予定だったのよ。時間を裂いてあげてるんだし文句言わないでよね」

「お前らの普通は怖いな。俺は普通だったらゲームしてた……頃……?」


「――? どうした悠斗」


 言葉から力が抜けていく様子を不可解に思った白翼が首を捻る。

「――今日ユイのイベント&ガチャ開始日じゃん!」

 突然椅子と机を押しのけて立ち上がると盛大に叫んだ。

「は、アタシ? 意味分かんないんだけど」

 軽蔑の目で悠斗の行動と存在を睥睨する。


「安心しろ、お前じゃないしお前より可愛いから――」


「ゆ・う・と・くん?」


「――ってのは流石に無いがまあ、うん! とにかくイベントだ!」


 司の鬼気たる笑みに怯えて咄嗟に取り繕う。司に対して唯の暴言を吐くと殺されることがわかった。恐らく逆も然りだろう。本人に文句がある時は相方のいない隙を狙って吐くべきだと心が告げる。

「する事ないし帰っていいか?」

「そこは部長のお兄ちゃんが決めるべきかと」

 誤魔化し半分に言ってみたがノアを筆頭に周り全員がうんうんと頷いた。

「それだと毎日部活無くなるぞ?」

 自分で言うのも何だがそんな風に脅迫じみた事を口走ると、


「それなら、毎日ここで会議を開いてお終い、とか。ここに娯楽の道具を持ってきて遊ぶ、とか」


 エリカが適当に二つほど提案してくれた。部活設立者の意向に従うのも悪くないと思い、

「あ、じゃあそれで」

 と部長の権限により活動内容が正式に確定する。

 活動内容は顧問との話し合いが必要だが、その顧問から悠斗に一任されているためここで決まってしまった。


「2人は科学部と探偵部の好きな方に行っていいぞ」

「なら基本的にはこっちに参加しようかな」

 わざわざ宣言する司を誰もが注目し、真横で密着している唯も例外はなかった。

 科学部ではあの状態で居られないからだろうか、それとも他に理由があってこっちに来るのか……正直他意があろうが無かろうが悠斗にはどうでも良いが。


「そう言えば悠斗、知ってると思うがお前今凄い事になってんぞ」

 唐突に白翼が視点の定まらない事を言う。彼女なりの配慮だとすればそれは無用だ。

 噂に関してはもっと遥かに広がるものと予測していた事を鑑みれば逆に気が楽だ。

 一応確認するが、この噂というのは5時間目体育の持久走のことだ。

「知ってる」

 切り捨てるように答えたが、エリカに拾われた。

「あー、私的には悠くんが負けるのにビックリしたかな〜」

「――? お姉ちゃん、何の話なの?」

 噂は2年生の間でしか広がっていないため3人以外はキョトンとしていた。中でもあーちゃんが何故か興味津々で食い気味に白翼に尋ねていた。悠斗に直接聞かないのは、さっきの白翼への返しが素っ気無く聞き辛かったからだろう。

「悠斗の足の速さについてだ」

 悠斗の足元を見ながらあーちゃんの頭にポンと手を置く。その視線に釣られあーちゃんも悠斗に向く。


「なあ、突然だがこの学校ってアクセサリーオッケーだっけ?」

 またしても話題を堂々と切り替える悠斗に一部は呆れ顔だ。しかしそれがこの少年、そう割り切って普通の態度を取る。

「は、悠斗アクセ付けんの? キモすぎ」

 そんな毒舌キャラはただ1人、唯しかいない。

「大丈夫だよ、僕は友達でいてあげるから」

 唯の攻撃から防衛するように司がフォローを入れるが、それは大きな間違いであり大切な誤解が解けていない。

「私はどんな悠くんでもいいよ〜」

 エリカまでも真に受けて喜しげな顔をする。

「私は今のお兄ちゃんがいいですけど……頑張って愛します!」

「待てコラ、何でお前がふざけとんのじゃ」

 立て続けにノアまでボケてきて流石に突っ込みたくなる。そもそも誰のためにこんな質問をしたと思っているのか。

 ノアは自分のためだなんて微塵も自覚していないが。


「俺はお前の……」

「ひゃぁっ!」

「――これのために言ってんだよ」

 呆れた悠斗がノアまで早足で近寄りその首元に手を伸ばす。普通に変質者だが、こういう時こそ兄妹と言う建前を使用して押し切る。そのままノアの首元にある紐状の何かを掴む。冷たい手が突然に侵入して来て悲鳴を上げたノアを無視してその紐に繋がれた勾玉をシャツの中から引っ張り出す。

 それを反対の手で示し全員に見えるようにする。

「ななななな、ナンてことをしゅりゅんでしゅかぁっ!」

 不意打ちに赤面しそのまま爆発しそうな顔を悠斗に近づけて必死に抗議する。目がグルグル回っており舌も噛んでいた。悠斗にもいくつかは非があったが、きっとノアが悪い、というより彼女的にはいわゆるご褒美なのではないか?


「お前が悪い」

「んひゅっ!」


 これでもかと言うほどに迫ってくるノアの脇腹に弱い手刀を入れると、擽ったかったのか変な動きと奇声を上げる。

 純粋に5つ位年下に見えて面白く可愛い。しかし、それはもはや犯罪レベルなのでは……。


「ズルーイーッ!」

「っぶねえな!」


 エリカが猛突進する勢いで悠斗に飛びついた。その勢いに体が僅かに揺れバランスが危なかった。ついでに加えるなら彼女の胸が悠斗の背に密接して不健全だった。気配の接近から察知していたが、避けると彼女が怪我をするので優しさを見せて食らってみると予想以上に威力があった。これはもしやノアへの嫉妬ではなく悠斗への怒りなのか。

「最近ノアちゃんばっかりでズルイよ! 私にも何か頂戴」

 悠斗の背にしがみ付きおんぶされた体勢のまま「何か」を強請(ねだ)る。

「このおんぶで十分だろ」

 ノアのネックレスから両手を離してエリカを支える力に変換する。それで妥協してくれることを願ったがそんなに甘くない。


「イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだーー、私にも何か凄いの!」

「凄いのとは何だ凄いのとは。そこを明確にしろ」


 彼女のいかがわしい言い回しに悠斗がケチつける。


「悠くんが理性を失って私を襲うとか」

「それは事件だ、俺が捕まる」

 きっと次の日には全国のテレビで放送され「神本悠斗」の名前を誰もが知ることになるだろう。

 刑務所には入れられないが、そんな暗い人生は絶対に送りたくない……いや、すでに人生は真っ暗だが。


「大丈夫!」


「――――」


 悠斗はその宣言が自分の心への呼びかけに聞こえてつい心が弾かれた。

「私が承認すれば犯罪にならないから」

「――はぁ」

 無駄に、そして勝手に期待した自分の心に深いため息をつく。

「ねえお姉ちゃん、襲うって何なの?」

「さあ? なあ悠斗――」

「結局アクセってどうなわけよ‼︎」

 純粋人の黒金姉妹が会話しているのを耳にした。彼女たちの純朴な心を悠斗たちが汚していいはずがない、何としても隠し通さねば。

 そんな風に訳の分からない責任と焦燥に駆られ、白翼が疑問の一言を言い始める前に注目を集める。

「そりゃまあ一応禁止だけど、何人かはしれっと付けてるわよ。アタシはそんな事しないけど、別にいいんじゃないの」

 唯が真面目に答えてくれる。そのあと司から身を離すとノアの下まで静かに歩み寄って来た。


 ネックレスにされた勾玉を手に取りマジマジと見つめ、光に翳したりして観察していた。どちらかと言えば品定めに近いだろうか。

「ふーん……結構良さげって言うか、値段張りそうっていうか……何なわけ、コレは」

 鑑定結果としては暫定高価なものとされた。彼女が一流鑑定士でない事は一目瞭然(見た目で分かるものではないが)、そんな唯の一言で一喜一憂できるものでないと思う。それにコレは両親の形見、いくらの値が与えられても足りないほどだ。


「両親の形見です。お兄ちゃんが渡されたみたいで」

「何で悠斗が?」

「それは……」


 ノアの答えに納得行かない唯が追求していくと段々ノアが困り顔に変わって行く。まるで泣きそうな目で足元を見ていた。

「色々な」

 ノアの両親はいない、その事実以外に知らない唯を諭すように宥めどうにか察してもらう。

 訝しげな睨みが悠斗に刺さったがすぐに「あっそ」と興味無さそうにそっぽを向く。唯なりの優しさと捉え苦笑しておいた。


「でもそれ、魔力があるよね?」

 司まで近寄って来たかと思えば全く理解不能な事を確認される。

「おおー、兄さんさんは見所があるね〜」

「アンタバカにしてんでしょ」

 エリカの高評価を無視して二人称の方に愚痴を零す。確かにこの示し方では唯をバカにしてるとしか言えない、と言うよりバカにしている。厳密に言えば揶揄っているのだが、この場面ではどちらも同じだ。

「まあまあ、それより……キミも慧眼だね」

 一度唯の怒りを抑えるよう促した後、その眼をエリカに合わせてやや爽やかに微笑む。

 2人の異次元の会話の意図をつかもうと他のメンバーを見渡してみたが誰一人として理解していたものはいなかった。


 この際話の腰を折るようでも尋ねてみるしかない。

「何の話してんだよ」

「えっ、悠斗くん……分からないのかい?」

 まるで挑発するような言い方だが悪気はなさそうだ。堪えろ、堪えろ、堪えるんだ。

「んー、半々だと思ったけどやっぱり気付いてなかったんだね」

「だから何の話かって、お前は自分の意見や見解より先に重要な部分を伝えるように努力してくれ」

 以前にも数度似た場面があった事を思い出して文句を垂れる。そう、注意ではなく文句を。


「そうだね〜。う〜ん……まあ、ほら、あれだよ〜、魔力の流れの話、かな〜」

 言葉選びに慎重になっているのが伝わってくる。わざと厳選して何かを悠斗に隠すようにしているのだ。わざわざ隠すほどならきっと聞かないほうが……いいだろう。

「俺には分からんが?」

 勾玉を掌に乗せじっと見つめても何も感じない。波動のような流れも、音も、光も、何も。


「だから僕は驚いているんだよ……。君は明らかに僕の上をいく存在だ。でも、僕よりもエネルギーの流動に鈍感なんだ」

「悪いな、鈍感で。あと、お前より上なんて分からんだろ、と言うか下だ」

 身勝手な期待や理想を押し付けられイラッと来た悠斗は少し眼を鋭くして指摘する。

 すると、司ではなくエリカが答えた。

「悠くんは私たちの中で一番強いよ? でも今はまだみたいだけど」

「俺は現状の話をしているし、未来でも強くなる気はないしそんなに強くなる気はしない」

 当然の如く知らされた最強通告をハエを叩くように地にはたき落した。

「そもそも今は話が違うだろ」

 逸れていく話題の道を整え全員の意識を再度勾玉へと向けさせる。エリカは「もう」と息を鳴らしていたがその態度にも悠斗は腹が立った。


「お兄ちゃん……?」


 ネックレスを外さずに会話を進行していたため全員の輪の中心には必然ノアがいた。そのノアが悠斗の険悪に憤怒を紛れさせた顔つきに恐々と呼びかける。覗き込み、安寧を求めてくる。

「……。ふぅ……悪い、どした?」

 眼を一瞬だけ交差させ大きく深呼吸すると平常に気を戻していつも通りの柔らかい聞き返しをする。


「あのっ、私なんかじゃかもしれないですけど……悩みがあったら話してくださいね」

「――」


「頑張りますから!」


「……」

 ああ、なんと純粋無垢な瞳と表情なのだろうか。

 その神々しいほどの意気込んだ顔が悠斗には天上の存在に見えた。


 エリカと司(特にエリカ)はいつも悠斗に過ぎた期待を寄せてくる。

 鬱陶しい。


 白翼は基本的に悠斗に頼ろうとせず離れていこうとする。

 悲しい。


 あーちゃんと唯は本当に何もしない。少し会話が繋がる程度。

 寂しい。


 ノアはいつも悠斗を頼りにしてくれる。そして一定の期待を抱きながらも悠斗に弱さを見せろと迫って来てくれる。

 頼もしい。


 悠斗が部員の中で今一番好意を寄せれる相手を指名するなら刹那の迷いなくノアを選ぶ。

「前もそんなこと言ってたな、ありがとう。でも大丈夫だ」

 以前とは反応が全くと言っていいほど異なる。絶対に何かある、だがノアに踏み込む力はなかった。

「そう、ですか」

 自分程度では頼ってもらえない、そう思えてしまう。

 表情の裏にそんな儚い心を隠した。


「でさ、悠斗は結局何がしたいワケ?」

 話が纏まらず収拾がつきそうにないことに苛立った唯からの強めの一言。


「このネックレスを付けて来ていいのかって話」

「それくらいなら別にバレないし問題ないわよ」

「そっか、ならすることもないし帰るか」


 次第に悪化していく教室内に全員で残っても良い気はしない。ここらで打ち切って家で平和に過ごした方が誰にとっても幸せであろう。


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