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神の名のもとに〜異世界と現実の狭間に生きる〜  作者: 麒麟燐
第一章 人生開幕編
38/117

第三十八話 見えない所で、家族へ送る


 体感で深夜3時18分、おそらく正確だ。門前を見張るだけでは暇なので時間を数え続けていた。

 だがやっと待機の成果が出た。目当ての人が視界に映り込んだのだ。

 人生で初めて座った屋根瓦は凍えるほど冷たかったが、正に石の上にも三年、尻の下辺りはすでに温もりを持っていた。その温もりを冷気に帰し目的の人物の下へ飛び降りる。

 その人物は丁度今玄関から()()()()()()出て来た。

 予定通りだったが、ここからは計画も何もないぶっつけ本番の戦いだ。


「おい、こんな時間に何してんだ」


 少女の背後に気配なく着地するとたった今追って来たように声を掛ける。

 闇夜で一層黒く見せるその長髪を靡かせながら振り返る。

 その顔がたった今雲間から顔を覗かせた月明かりに照らされた。


「…………」


 勇ましい睨みを利かせ再び歩き出す。

「ちょっと待て」

 悠斗の静止に肩を反応させた。

 強く奥歯を噛み怒りのようなものを必死に堪える。

「何だよ」

 眼を煌めかせ相手の威勢を削ごうとする。

 そんな見せかけに、偽物に悠斗は気圧されない。

「どこ行くんだ」

 いつになく真面目に問いかける。

 再び月が雲と重なり2人の表情に薄暗い影が刺した。

「分かってんだろ、だから止めに来た、違うか?」

 自分が何をするか見抜いている、白翼はそう確信していた。だから強気に言い放つ。


 悠斗は敢えて無言で時を流しある種の肯定を示す。

「やっぱお前はすごいな……音がしたのか?」

 嗤いながら因果関係の調査を始める。

「いや、白翼からは気配を感じないからな、わざわざ待ってたんだよ」

 肩を竦め自分の弱さを強調する。


 だが白翼は別の部分に顔を顰めた。悠斗の眼が気に入らない。

「オレが出て行くって……分かってたのか」

 威嚇するように身構える。

「食事の時から怪しかったからな」

 何度めか判らない少し強めの夜風を受けながら一歩前に出る。

 それに合わせて白翼も二本後退りし逆に距離を広げる。

 悠斗のこの優しそうな態度が気に入らない。


「お前もしつこいやつだな」

 イライラしながらも怒りを抑制し『普通』を、装う。

「お前もな」

 白翼の言葉は悠斗の反射を受けるまでもなくブーメランとして返っていた。


「……」

 …………。

「……」


 お互いに譲らず、しばし睨み合う。

 一瞬の隙を見せれば白翼は逃げる。

 刹那の気の緩みで悠斗に束縛されてしまう。

 こんな深夜に通行人は誰一人存在しない。


「起きた時にお前がいないとあーちゃんが泣くぞ」

 睨み合いで夜が明けてはならないと進展を求める。

 白翼が納得する好材料を見つけ説得に尽力しなければならない。

「死ぬよりはマシだろ」

 一連の流れのように答える。

 怒気を含んだ口調だが踏み止まっているあたりから惑いが心に浮き出ていることが窺える。

「ごもっともだな」

 ここは肯定。全否定では前に進まないし事実は認めるべきだ。だが、そこで終われば白翼は去ってしまう。


「でもお前もだろ」


「あ? そりゃどういう意味だ」


 理解の及ばない発言をされ更に怒りが募る。すでに血管が破裂しそうなほどに怒りが累積し間もなく爆発する。

「迷惑かけたくないから自分が犠牲になる。人に迷惑かけるよりも死ぬほうがマシか?」

 一歩踏み込み問いかけに力を入れる。今夜一番の強風に背中を押されたこともあり悠斗の圧力は暴力的だ。

「……あ、ああそうだよ、そっちの方が楽だよ」

 圧倒的な気迫に一瞬たじろいだ白翼、即行で態勢を立て直し逆に一足踏み込み返す。


「…………」


 白翼が怒り狂った鋭い眼光を突き付ける。悠斗は無言で受け止め彼女の叫びを刻み込む。しっかりと刻印として残し教訓とする。

「いい加減にやめろよそういうの‼︎ 鬱陶しいんだよ‼︎ 腹立たしいんだよ‼︎」

 罵声は生み出され続け全ての矛先は悠斗へと向いている。

 自分の思ったことじゃない。それでも感情は操作しきれず時に意に反した行いをしてしまう。それがニンゲン。


「オレが『敵』を引き付けてうまく散れば丸く治るだろうがっ! 天使と悪魔共はオレが消えたことに喜んで、オマエらは被害を受けないことに安堵して、それで解決するだろ! 何でオマエは簡単にオレの決意を踏み潰してくるんだよ‼︎」


 近所迷惑になる程叫び散らし悠斗に轟々と暴言を吐く。

 血走った眼は悠斗からだと見えない。

 自分が溢している涙なんて、他人には見せられない。

 白翼が心の内に隠した想いは、誰にも見られない。

「何かいい方法があるならさっさと言ってみろよ! 計画もないのに適当なこと言ってんじゃねぇよ!」

 あるわけが無い、有ればとっくに伝達し情報を、作戦を共有しているはずだ。

 そんな策があればこんな苦労なんて、こんな葛藤なんて発生しない。


 そう決め付けている。


「あるぞ、一応」

 悠斗の気力無いいつものような返しに声すら出ない。

 心で勝手に判決を下し、自分の道標を書き変えていた少女への不意の一撃。


 一瞬だけでなく嘘だと思った。


「法律に適用されないために今のうちに処分する。ならば今でも法律に適用されてしまえば向こうも無茶できない」

「ど……、どうやって、そんなっ……!」

 悠斗に法を定める権利などない。実刑判決を下す権利もない。

 基本的には全国民の持つ人権辺りだけ。

 だからこそ白翼もできないと踏んでいた。

「俺たちが行動を共にすることだ。これにより一般市民である俺たちに傷を与える行為は犯罪行為とみなされるんじゃないか?」

 対象の周りに大量の妨害物や遮蔽物を配置することで敵の攻撃を阻害する、それだけで相手の動きを大きく制限できる。

「んなの、オレを庇ったってことにされたらそれこそ違法になるだろ」

 白翼は作戦の穴を探り兎にも角にもこの場を退こうとする。

 相変わらず自分を見捨てて欲しそうな態度を取り続ける。

「まあそん時はそん時だ。事実じゃないし何とかなる」

 この期に及んでもまだ楽観的な発言が続く。

「だからっ、そうやってテキトーでッ! 中途半端な思考のままッ! オレを止めるんじゃねえって、言ってんだろうガァァァァァァァーーーー!……!」

 沸騰値を大幅に振り切って雷が落ちる。

 右足を強く地面に叩きつけると同時、石材の道が隆起する。刹那の間に悠斗の足元まで隆起の波が迫り少年の軽い体を容易く打ち上げた。


 数秒間滞空しやがて地面に叩きつけられる。

 石畳と肉質のぶつかり合う鈍く気味の悪い音が辺りに響いた。

 危うく死亡かと思われたが肉体の強化は成功しており少年に傷は一つも見られなかった。


「そうか……」

 悠斗がボソッと風に呟く。

「でも、計画が浅はかでテキトーなのと、心が中途半端なのは、無関係だぞ」

「……どういう意味だ……!」

 悠斗の鋭い視線と指摘に一瞬気圧されるが意図を吸収し怒りがまた沸々と湧き上がる。

「生きたい心と死にたい心。お前の半々で分裂した心なんて俺には丸見えだ」

「……あって数日のお前に何が――!」

「そうだな、出会って数日の俺にお前のことはよくわからない。でも、そんな俺が見破れるほどだ。勘の鋭くないあーちゃんでも流石に気付いてるんじゃないか?」

「…………」

 悠斗の迫力ある攻めにたじろぐ白翼。

 奥歯を力強く噛み締めながら理不尽な睨みを悠斗に向ける。

 だが、悠斗にそんな威嚇は通用しない。

 むしろ白翼の心情変化の証拠として使われるだけだ。


 しかし、白翼は観念するどころか開き直るように笑い飛ばす。

「ははっ、それならそういう事だ。あーちゃんは知ってて止めないんだぞ、俺なんか――」

「ッ‼︎ 白翼ッ‼︎」

「――っっ!!」

 自嘲に乗せて言いかけた言葉を白翼は最後まで言えなかった。

 今までにない悠斗の鬼気迫る迫力。

 最も女子4人の中で最も勇敢な白翼ですら言葉を失って心拍数を上げている。


「お前、その先を言う事がどう言う意味を表すか分かってんのか‼︎」


 風が強い。

 その風が庭の木々や少女の髪を激しく揺らす。

 その強風に乗って悠斗の叫びが白翼に襲い掛かる。

 初めて、白翼は悠斗に恐怖した。


「その先は、家族の……妹の愛を、全否定する事になるんだぞ‼︎」

「――」

「お前はあーちゃんの純粋な眼を見てそれが言えるのか!」

「――――」

「……冷静に、なれ」


 一度風の音を聞く。

 そして自分と白翼に言い聞かせ、俯く。


「お前が護りたいのは……誰だ?」


 俯いたまま、小さく、静かに、問いかける。

 悠斗の逆鱗に触れた白翼は今悠斗が我を忘れたように自分を見失っていた。

 が、その悠斗の言葉に我に帰る。


「あーちゃんを……護ってやりたい……」

「その妹に……お前は何を言いかけた……」

 悠斗の声が、震えていた。

「……悪い」

 白翼が相手を特定せず視線を逸らしながら謝った。

 その隙を狙って――ではないが、悠斗がふらふらと覚束無い視界の中を千鳥足で白翼に近づく。


「家族は――感情を曝け出せる数少ない相手だ」

「――っ! おまっ――! なんで……」

 白翼は再び悠斗に恐怖した。

「喧嘩なんかは好きにすればいいけどッ……」

「なんで……」

「失わないように、大切に喧嘩しろよ!」


「なんで……」


 白翼は怖かった。

 こんな悠斗も、いたのか……。

 全く知らない、別人のようだ。


「何でお前が……泣いてんだよ」


 眼前で白翼の肩を掴み涙を夜風に晒す悠斗の目元は光っていた。


 悠斗は知っている。

 家族を失い、気の許せる友人を失った時――即ち孤独になった時。

 人は感情を晒す相手を失い、独りその重荷を背負う。

 そうなれば最後、延々と続く闇の中から這い上がることはできない。


 だが白翼には分からない。分からない。

 涙の理由が分からない。


「家族の全てを許容して、受け止めるんだ……。あーちゃんもきっと、そうしてくれるから」


 悠斗は悲しかった。

 亡くした親と友人のことを思い出して悲しくなった。


 悠斗は悲しかった。

 これが八つ当たりだと自覚して悲しくなった。


 そしてその感情を自覚した瞬間、急激に脱力感を覚え次第に足が震えだす。


「お、おい、悠斗」

 白翼の肩にかかる負荷が強まり違和感に気がつく。

 悠斗の体力が切れている。


「白翼……もう………………」

 プツン、と意識が途切れた。

「お、おい……悠斗!」

 身を案じ、叫ぶ。揺さぶり覚醒を促す。

 涙腺は固く結ばれ溢れ出そうなものは言葉だけ。まだまだ淀みは残っている。

 だが、いきなり訪れた意識の切断。悠斗にぶつけることもできない。


 何故か頭の回転が早く、事態の原因が早々に浮かんだ。

 理由は疲労。ノアのコア調節に多量のエネルギーを消費していた状態で白翼の波動の衝撃を無傷で受けた。ベルトを使用して能力制御をしていた悠斗は、今腰に何も巻いていない。これではエネルギー消費効率が悪く瞬く間にエネルギーが底を尽きてしまう。そして現実問題として悠斗は深い闇へと誘われていった。


 意識のない悠斗の体重は非常に重く白翼は精一杯の力で支柱となる。

「ゆ、ゆうと……?」

 呼びかけに反応はない。

「…………」

 白翼は思案の間なく動き出した。

「…………」


 ――――――――――。


 行動内容と行動原理など、共に考えるまでもなかった。




           *****




 名も無き砂の大地を走る1人の青年の影。

 後方からは100を遥かに超えた数の兵士達。

「姫さん、そろそろ」

 電話もなくこの場にいない主人に話しかける。

 この場に「姫さん」の声はないが青年にはハッキリと聞こえている。

「はい、任せて下さい」

 行動は見えないが青年は己の心臓に強く拳をぶつける。

 忠誠と承知を伝達し最後に言葉を送る。

「おいパーシー、姫さんに怪我させんじゃねぇぞ!」

 それを境に通信を途絶えさせる。

 兵士たちとは一定の距離を保ちながら走っていたが、ここからは作戦上逃げられない。

 急ブレーキを掛けて「敵」と正面から向かい合う。

 ブレーキに砂塵が舞い靴へと侵入してくるのが鬱陶しかった。


 兵士は惑う事もなく青年へと突撃する。


「姫さんの自称守護神、リュウ!」


 拳と拳を殴り合わせ気合いを入れる。

 向かい合った勢力の間を砂埃が舞い迫力が出る。


「かかってこいヤアアアァァァァァ、ザコどもガァァァァァァァッッッッ」


 鋭く鈍い咆哮を上げ右の拳を大きく振りかぶる。気合いを込めたパンチをお見舞いする態勢を取るのだ。


無双千闘拳(むそうせんとうけん)‼︎ オォッラァッッ‼︎」


 リュウと名乗った青年の拳は空を切る。敵勢力は誰一人として接近し切っていない。

 敵は兵士だがここは砂漠、暑苦しい甲冑など着ていられないため服装は無防備。だからこそ人間の拳でも簡単に攻撃として通るのだ。


 リュウの拳は明らかに空中を抉っただけだ、それなのに――


「「「があっっ!」」」


 約30人の兵士がまとめて後方へぶっ倒れる。まるで直接パンチを喰らったように。

 満足そうで自慢気な笑みを浮かべもう一度構えをとる。

「ッッラアァッ!」

 青年の奇声と兵士の悲鳴が砂漠に何度も鳴り響いた。




 同刻、別離した謎の場所。

「姫さん、そろそろ」

 材質不明の桃色の床に桃色の壁でできた室内に響く青年の声。通信機器のない場で遠距離会話を行う。

「そうやね。捕まったら絶対に口を割らんこと、そして絶対に死なんこと、上手くやるんやで」

「はい、任せて下さい」

 一度通信が途絶えた感覚を覚える。しかし、隣にいる少年の下で声がした。

「おいパーシー、姫さんに怪我させんじゃねえぞ!」

 それを境に完全に通信手段が消える。


 最後に激励?された少年が能天気な声を上げる。

「姫さまー、これからどうすんだー?」

 主人に命を貰おうとするが、まだその主人の方向性が定まっていない。

 一枚の桃色の花びらを見つめ左手に持つフルートをペンのように回す。

「そうやねぇ、クリス、どないなん?」

 部屋の角に設置された椅子に腰をかけ水晶玉をじっと見つめる女性に問いかける。

 その女性は長い金髪を揺らし死んだ魚のような目を見せた。

「いい状況ですが、向こう側の動きもまた読めません。もう暫く経過を見張るべきです」

「ん、ほなそーしょーかー」

 関西らしい訛りで指示を出す。

「外出たかったら言うてな、ずっと室内も暇やろ?」

 主にパーシーに向けた言葉。本人は主人としてこの場を離れられない、クリスは日光が大の苦手な上に大切な仕事がある。

 それに対してパーシーはまだ15歳。陽気な少年を室内隔離し続けることは余り好ましくない。


「じゃあ気分転換のついでにご飯買ってくるなー」

 楽しそうに挙手し外出届を提出する。

「ええで。けど戻るときは――」

「人気のないところで姫さまに電話ー。もう覚えたぞー」

 その笑みにうんうんと頷きフルートを構える。


「――――」


 室内にフルートの音が響く。

 と、同時、パーシーの身体がどこからともなく現れた桜に包まれ最後にはこの室内から姿を消した。

「いいんですか、あの子を行かせて」

 クリスが何かを案じ疑問を述べる。

 どちらかと言うと助言に近いかもしれない。

「さすがに暇やろし、あの子も強いから大丈夫やろ。ほな、ウチはリュウからの報告があるまで休ませてもらうでー」

 最後に一言言って部屋を移動する。


 最終的にこの部屋に残されたのはクリスという謎多き女性のみ。

 彼女は水晶玉を覗き込みこれからについて予言してみることにした。

「…………」

 だが、水晶に集中していたクリスは次第に睡魔に襲われ夢の世界へ誘われて行ったのだった。





 みなさんどうも、麒麟燐です。

 第三部どうでしたか?

 最後にちょこっと白翼の頑固さが出てきました。

 実は私、自身の作品のキャラに恋していまして、みんなみんな大好きです。

 老若男女、問わず、誰も彼もお気に入りです。


 最推しキャラ?

 それは言えません。

 何故なら最推しキャラはまだ作中に一度も登場していないからです。

 あ、でも、そのキャラが登場する頃には浮気しているかもしれません。


 浮気性の作者をどうかお許しを。


 許してくれる人はぜひ評価を〜。


 すみません。

 こう言ったことはきちんと頼むべきですよね。


 皆様、どうか評価等にご協力ください。

 それでは、また次回で。


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