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神の名のもとに〜異世界と現実の狭間に生きる〜  作者: 麒麟燐
第一章 人生開幕編
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第三十三話 寄り道


「…………なあ、俺たちって……どういう関係なんだ?」


 福田にした質問と似た形式のものをエリカたちにも向ける。

「急にどうしたの?」

「さっき福田と話してな、その時どんな関係なんだ?ってなってな」

 悠斗の心の中での疑問なため福田とはこんな会話してないが、文章的に福田と話したとは言ってない。

 だが少女たちは深く考えずあっさり答える。


「まだ付き合ってないから恋人未満だよね〜」

「ああ」

 大きく首肯する。


「やっぱりお付き合いの前段階は友達からって言うしね〜、友達じゃないかな〜」

「……へ、へぇ……」

 躊躇なく友達宣言できるエリカを心内で過去一羨む。


「アタシは違うから」

 上々の雰囲気を容易くぶち壊す唯に逆に安堵してしまう。


「まあ私たちは悠くんのこと結構信頼してるしね〜。いい友達なんじゃない?」

「お、おお……そりゃどうも……」

 心がヒリヒリと痒くなったので照れ隠しに頭を掻きながら全員を見回す。


 ノアも、白翼も、あーちゃんも苦笑して頷いてくれる。

 唯の相変わらずも「それ」らしくて頰が一層火照っていった。

 何とも言えない快感に和んでいたが、あーちゃんの様子に意識が移る。

 今頃気がついたが、彼女は体育館に入場して以降全く言葉を発していない。それどころか現在の表情があまり優れず良好とは言い難い。

「あーちゃん、どうした」

「……何がなの?」

 誤魔化すように首をひねるがその程度では騙せない。明らかに無理をした様子にさらに不安が募る。

 側で喧嘩?をしているエリカと唯を無視してあーちゃんに近づく。

 背景と化しているグラウンドでは多くの部活で汗を流していた。

 ずっと白翼にしがみ付いていたのか、白翼の制服が乱れてシワが残っている。

「どうしたんだよ」

 あーちゃんに聞くと言うよりも白翼に尋ねる感じで問うと白翼が苦笑して静かに答える。

「人が多いのは苦手なんだよ」

 白翼があーちゃんに視線を落とすと釣られて悠斗も顔を動かす。

 当のあーちゃんはみるみる小さくなり完全に萎縮していた。

「それなら言ってくれればいいのに……」

 不満を含んだ不安の表情を向けると視線を逸らされる。


「そもそも教室も似てるだろ」

 人数こそ1クラスとは比にならないが面積の広さ、即ち密集率はこちらの方が断然低い。授業は普通に受けられているはずだが……。

「教室とここは……少し違うの」

 らしい。

 こればかりは本人にのみわかる感性だ、悠斗がどうこう言えるものではない。

「丁度エリカたちも戻るって言ってるし、帰るか」

「そうしてくれ」

 あーちゃんの代わりに白翼が答え、肩を竦めた。


 すぐに場をまとめ下足場へと向かい始めたが、花壇の見える位置で悠斗が再び足を止めた。

「……? さっきも見てたけどどうしたの?」

 同じ方向を不思議そうに見つめるエリカ。先の女性は誰の視界にも映らないが、悠斗には気配を感じた。

 しかし、悠斗が体を向けた理由は他にある。

「いやさ、凄くいい香りがするんだよ」

 鼻腔を擽る爽やかで奥の深い香り。発生源は間違いなく正面の通路の先に鮮やかに咲き誇る花々。

 その匂いに誘惑され、無性に足を止め方向を転換し、終いには側へと駆け寄りたくなる。

「……? 何も匂わないけど……ねぇ?」

 周りに意見を求めるエリカ。誰一人として否定しなかった。

「じゃあ俺だけか……これも能力なんだろうな…………。ちょっと寄ってみていいか?」

 自分の得てしまった魔法について嘆きながらも小さな優越感を感じた。


 その後、忍耐の足りない悠斗は誘惑に押し切られ足を向けることを決める。帰りたがった自分でもこんなことはあるのかと思いながらみんな、特に気分の悪そうなあーちゃんに尋ねると優しく承諾してくれた。

 親切心に大層感謝しながら人気の無い花壇へ続く道へと足を踏み入れた。

 小道へと侵入した途端騒がしかった生徒の声は届かなくなり、その代わりと言わんばかりの微風が何度も吹き抜けた。

 道を抜けると赤みを帯びた陽光が照りつけ刹那の間視界を閉ざした。


 直後、目前に広がるのは小ぢんまりとした広大な花園だった。


 花の種類は数えきれぬほどで、悠斗の見知った植物から本やテレビでも目にしないようなマニアックな花まであった。

 季節で言えば春の真っ只中。春の七草程度ならパッと浮かぶが、春の花と言われても目にするまでは脳内に浮上しない。

「どの匂いだ……?」

 花壇に所狭しと開花させられた色とりどりの景色の中から発信源を特定しにかかる。


「あら、あなたは……3組の神本くんですか?」


 そこへ突然声をかけられる。

「え、あ、はい……そうですけど」

 気配には気付いていたが顔と名前を一致させられる程自分のことを知っているとは思わず一瞬呆気にとられた。

 3組の、この言い回しは間違いなく同学年他クラスの人間だ。しかし、交友関係が果てし無く狭い悠斗には見覚えがなく苗字すらも出てこない。一体彼女はどこで悠斗を知ったのだろうか。

「ふふ、友人がよく話すんですよ」

 そんな悠斗の疑念を見透かすように少女が微笑む。

「なになに、また女の子?」

 悠斗の女子運に不満を持ったエリカが大声で間に割り込んで来た。顔が引きつっており、初対面にも関わらず失礼この上なかった。

「どうも、私は2年4組の翠川(みどりかわ)柚子(ゆず)と言います」

 エリカの態度を全く咎めず丁寧に名乗る。4組と言うことは悠斗の隣のクラス、どこかで目にしているかもしれない。

「皆さんのことは認識してますから、自己紹介は不要ですよ」

 誰かが名乗る前に、その行為を封じる。


 数日の内に悠斗を含めた探偵部員は学校中に名を轟かせたらしい。美少女が一度に4人転校、しかも全員同じ部活でその取りまとめとして不自然なことに悠斗が当てられている。噂は一つや二つでは足りないだろう。


「はあ…………」

 珍妙な雰囲気に曖昧な相槌を打つ。

 顔を歪めていたエリカもいつも通りに戻っていた。

「それにしても、よくこの場を見つけましたね。人気なく目立たないので尚のこと人は寄り付かないのですが」

 悠斗たちが現れた事に多少の驚きを見せる。穏やかな感嘆はあまり心が動いているようには見えない。そう言う性格なのか、もしくは敢えてそう見せているのか。

 彼らを取り巻く花々が小さく揺れ、そんな考えすら頭の中から取り払われる。


「まあ、ちょっといい香りがしたもので」

 この状態へ至った理由を簡潔に説明する。

 深く考えず答えてしまう。

 その芳香は容易に感知できるものではない。通路に大した距離はないが花の香りなど何メートルも漂ったりはしない。明らかに悠斗の嗅覚が卓越したもの故に成せた技だ。

 言った後から取り消すことなどできない。しまったと思ったが既に手遅れ、仕方なくそのまま押し切ることを決める。


「香り、ですか? それは素晴らしいことですね。一体どの子の香りでしょうか」


 悠斗の憂いたことは一切触れず、どの花かについてを尋ねてきた。両手を合わせ美しく微笑む。不意打ちのような気分を味わい一瞬理解が遅れたが、すぐに持ち直そうとする。

 ただ、その指示語に連なる単語に疑問が生まれた。

「どの子? 花のことですか?」

 相変わらず悠斗は初対面の人に対し敬語を使う。当たり前かもしれないが、友人を作りたいのなら積極的にタメ口を使っていくべきだ。

「ふふっ、敬語でなくても構いませんよ?」

 やはり、その点に関して指摘される。悠斗の質問にも答えないため渋々言葉遣いを改め問い直す。

「花のことか?」

 彼女は再び微笑む。

 花のような、なんとも美しい笑みを持っていた。

 髪は名前と同じ柚色で肩ほどまで伸ばしていた。その艶の出た髪が風に拐われかける。


「そうです。私はこの子たちを友人と同等か、それ以上の存在として見ていますので」

 次は正しく応えるが、その価値観は悠斗たちには全く理解できない世界のものだった。

 植物は人と同じ命でできている、それでも同等とは言えないだろう。生物学的思考や一般の思考で見ても同じとは言えない。故に、この世界の誰か個人でもこのような価値観を持つことは極稀であると言える。

 ある意味固定観念として定着しているこの思考を、否定して生きる理由は基本ないはずだ。

「ふふっ、変わっていますでしょう? 私もそう思いますよ。私は他人とは少々異なりますので」

 自覚はあるらしい。

 客観的に見ても、存在感から異常性が見て取れる。価値観までも普遍とはかけ離れた世界であることは今の会話から分かる。


「あら? そちらの方はあまり元気がなさそうですね」

 唐突に悠斗の背後へと掌を向ける。その正面にいるのは先ほどから気分の優れないあーちゃんだ。人混み(言うほど多くないが)から離れたこともあって多少改善されているが、やはり幾分か体調が悪そうだ。

「ちょっとだけ、でも大丈夫なの」

 あーちゃんが俯き加減の状態を起こし弱々しく笑う。

 今更だが、語尾に『の』を付属させればそれは敬語として扱われるのだろうか。敬語のつもりでないなら年上など構わない所はいい度胸だと思えるし、敬語のつもりなら改めるべきだと思う。

 もしこれが敬語として認定されるなら自分も使わせてもらおうか…………いや、それは無理だ。

 と勝手に心でツッコミ、ボケ、重ねて突っ込みをかます悠斗であった。

「そうですか、ちょっと待って下さいね」

 いくつもある花壇のうちの一つへと近づき背を丸めると何やら花を摘み始めた。

 摘み始めると言っても、同じ花の中から特別美しく開花したものを厳選しているようで、摘み取った花は一本だけだった。


「何をしているのですか?」

 全員の疑問をノアが代表して尋ねる。

「折角足を運んでいただいたのでお守りにと思いまして」

 晴々しい笑顔を撒き散らしながらあーちゃんへ歩み寄ると、胸ポケットへたった今摘み取った花――黄色のマリーゴールドを差し込む。

 花弁が乱れないように細心の注意を払いながらさっと入れ込むと再び爽やかな微笑みを見せた。


「あの、これ……」

「これはマリーゴールドですよ」

 あーちゃんは『これ』が何かと聞きたいのではなく『これ』は不要だと言いたいのだろう。それを知ってか知らずか細かな説明を開始する。


「マリーゴールド全般は『嫉妬』『悲しみ』『憎しみ』と言った負の意味の花言葉があるのですが、黄色のマリーゴールドは『健康』という花言葉をお持ちなのです」


 お守りというのはそういうことか、と即合点がいく。これを身につけて健康でありますように、そういうことだろう。

「中でも元気のある子を選ばせていただきました。お役に立って下さいね」

 最後の一文は完全に花へと当てられたものだった。本当に植物を愛してやまない、そんな彼女の性格がしっかりと現れている言動だった。

「あのっ、これっ……」

「お気になさらないで下さい。誰も来ない園芸部に足を運んでもらった細やかなお礼です」

 あーちゃんが花を取り出そうとする手にそっと手を被せ動作を停止させる。

 最後の微笑がトドメの一撃となりあーちゃんは有難くその花をいただいた。

「あ、ありがとうございますなの」

「いえいえ」

 ペコペコと頭を何度も下げるあーちゃんを細めた目で見る。その光景に悠斗もついつい頰が緩んでしまった。

 大袈裟にも思えるが、気分的な面も影響していたのか多少の元気を取り戻していた。


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