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神の名のもとに〜異世界と現実の狭間に生きる〜  作者: 麒麟燐
第二章 王政奪還編
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第三十一話 第一作戦、失敗


 4月27日、土曜日。

 遂にこの日だ。


 未だに国政に関わる一件に手を出す自分が信じられない。


 今悠斗たちが待機している場所は、悠斗が過去に飛んだ時にバグとプライザーが隠れ家としていた場所。

 国の壁の外側だが、身を隠す場所としては距離もそう遠くなくて丁度良い。

 皆の顔は真剣そのもの。

 国の情勢を変える反抗だ。

 軽い気持ちでは挑めない。


 悠斗はぐるっと周囲を見回す。

 暗い穴の中、エリカ、ノア、白翼、あーちゃん、鬼影、美楽、伊龍、唯、司、が今あげた順序で視界に入っては消えていった。

 外からの弱い風が、暗い室内にすぅっと吹き抜けていく。


 そこへ、待ち望んだ足音。

 エリカの使用人の1人のメイドだ。

「皆様、大変長らくお待たせいたしました。国民の避難が即刻可能な状態となりました」

 国民の誘導係として単独行動していたメイドがようやく報告に戻ったのだ。

 因みに、避難場所は国の南門の外にある巨大聖堂で、移動手段はテレポートと一部は徒歩。

 また、聖堂には亜空間の魔法を一時的に掛けているため人数に基本制限はない。


 悠斗は腰を上げメイドの目を見ると、伊龍と宮園兄妹に視線を向けた。

「よし、それじゃあ司と唯はメイドさんと一緒に避難所で警戒に当たってくれ」

「うん」

「分かった」

 司はまだしも、唯の真剣な瞳はことの重大さを物語っていて気が抜けない雰囲気だ。

「それではこちらへ」

 メイドが司と唯を従えて歩み始めた。

 メイドの後ろに司が、その後ろに唯が続くが、その唯の格好が未だに目に馴染まない。

 暗がりの中では見えないが外で見た時には、妙な空気孔のあるシューズ、赤と黒で染められた風に靡くマント、不思議な作りの半透明なゴーグル、鼻まで覆い隠せるマスク。

 司曰く、唯の戦闘用スーツらしいが……却って動きにくそうだ。

 まあ、唯がいいなら問題ない。


「それでは私も」

 唯の後から遅れて伊龍も動き出す。

「はい、お願いします」

 悠斗の言葉に頷き返す伊龍。

 久々の主人からの指示にいつもより気合が入っている様子。

 なんとも子どもじみた忠実さ。

 伊龍の背も見えなくなり、再び広がる静寂。


「なあ悠斗、オレたちはどうすりゃいいんだ?」


 待機組となった白翼がそう口を開いた。

 正確な行動が決まっていない以上、不安要素は残るため、彼女の心配は十分に理解できる。

「俺たちは牢獄からエリカの家族を連れ出した後、ここに戻る予定だ。それまでは基本的にここで待機。もしもの場合は臨機応変な対応を頼む」

 悠斗の解答に少し不満そうだったが、取り敢えず頷いた。

 あーちゃんは常時緊張。

 美楽と鬼影も無口だが、2人は緊張とは違った面持ちだった。


 今回の作戦、絵美や露無、健祉などは不参加だ。

 絵美と露無は学校管理のために残ると言っていたが、健祉は悠斗が誘わなかったのだ。

 一応今日の予定は空けてもらっていたが、できる限り彼を頼らずに解決したいのだ。

 非常事態には彼に駆けつけてもらえるようにしているが。


 作戦の所々に穴は目立つが、手順が上手くいけば人的被害を最小限にしてこの事件を片付けられるだろう。


 待つこと数分、伊龍のスマホから悠斗のスマホに数回のコールが鳴る。

 応答を拒否して悠斗は立ち上がった。

 それに続き、エリカとノアも。


 連絡が来たと言うことは、上手く誘導が開始されたということ。

 国の南門と北門の門番はメイドが買収済み。これであとは城内の警備が最小値となったこの瞬間に牢屋へこっそりと潜入するだけだ。


 戦術として動きやすさを重視するため、悠斗がエリカを抱えて、悠斗の背中にノアがしがみつく。

 肉体を強化できる悠斗としては、これでも体への影響は少ない。

 寧ろエリカとノアの歩速に合わせる必要性がなくなり、時間を短縮できる。

「じゃあ、いってくる」

 気持ちの悪い体勢で悠斗たちはテレポートした。




 悠斗たちの視界が突然開け、眩さに一瞬目を瞑る。

 直後に開眼し、現在空中に放り出されていると自覚。

 浮遊感を味わいながら真下にある大きな王宮を見下ろしその中の広い庭の一箇所に目をつける。

「ノア、あそこだ」

「はい」

 刹那、悠斗たちは王宮の広大な庭に転移した。


 ノアは王宮の内部を見たことがないので、一度空に移動して落下しながら王宮の土地を把握しそこから再度転移する、と言う作戦だ。

 見事に成功して一安心。

 しかし、作業はまだまだ残っている。

 クールダウンの暇もなく、ノアは透明化の能力を発動。

 密着した3人の体が一瞬にして見えなくなった。


 あとはエリカの指示に従い、透明化を無視する監視カメラが設置されていないルートを進むだけ。

 廊下を進むと、時折り巡回中の衛兵と遭遇するが、当然相手は気が付かずに素通りする。

 廊下は入組み、流石は王宮というべき複雑さ。

 エリカの案内なしなら数時間は彷徨える。

 本当に案内役がいて良かったと思う。


 そして、人気がなくなり静かで薄暗い廊下が現れる。

 この先が牢獄か……と心の中でぽそりと呟く。

 暗がりの中を弱々しい灯りを頼りに突き進む。

 足音に最大限の注意を払い、衛兵に気付かれないように。

 そのまま突き進むと一つの入り口前に到達。

 門番の衛兵が1人、静かに扉の前に佇んでいる。

 甲冑で全身を覆い、いついかなる襲撃にも対応できるような佇まい。

 透明化しているため向こう側からは見えないが、扉の前に立たれているので近づくことができない。

 丁度扉についている小さな窓も衛兵の頭が邪魔で覗けないためテレポートでの無理矢理な侵入も不可能だ。

 悠斗は独断で一旦距離を取り、人の目につかない通路の端でエリカとノアを下ろした。

 悠斗のその行動の意図を理解しノアは能力の効果を発動させたままでいた。


 悠斗は見えない2人を感覚と繋いだ手で居場所を理解しその方を向いて小声で話し始める。

「これからどうする?」

 2人は見えないながらも悠斗の方を見つめる。

 その奥には通路があるだけだが。

「それなんだけど、ノアちゃんのテレポートであの人を退かして、それでもう一回ここに来るってのはどう?」

 エリカが小声でそう提案する。

 作戦としては悪くない。

 悪くないが、質量のありそうな甲冑ごとテレポートが可能なのだろうか?

 質量オーバーで飛ばせない可能性はありそうだ。

「質量制限についてはまあ、4人で同時に飛べばなんとかなるんじゃない?」

 顔も見ず懸念を見透かすエリカに悠斗は少し押し黙った。


「私はそれで構いません。お兄ちゃんはどうですか?」

 ノアの作戦の肯定に悠斗もハッとし頷きながら「分かった」と短く答えた。

 そうと決まれば早速実行。

 まずはノアの透明化で息を殺してギリギリまで接近。

「…………」

 無言の衛兵と、無音の悠斗たち。

「…………ぅ」

 掛け声もないが、息を合わせて能力解除と同時に衛兵を捕まえ即座にテレポートした。

 衛兵が王宮内に残した音はさっきの音だけ。

 次の瞬間には悠斗たちが元いた洞窟に転移していた。


「ぅわっ!」


 悠斗たちにとっては途切れなく聞こえる声。

「なんだ!」

 突如飛んできた悠斗たちに警戒した白翼たち。

 あーちゃんは暗がりの中目を赤くして、白翼は握り拳を作り、美楽は鏡を現出させ、鬼影は刀の柄に手をかけて、それぞれ構えを作った。

 しかし悠斗たちの存在を前にした途端、ほっと一息つき交戦体制をといた。

「なんだ貴様ら!」

 暴れようとする衛兵の四肢を悠斗が押さえる。

 話を簡単に済ませるには、やはり話をうまく運べる奴が行うべき。

 と言うことで、エリカが片手に火を灯して衛兵の目前に歩み寄った。


 すると、

「な…………ミスティア様……」

 驚愕の表情を甲冑に隠してそんな言葉を漏らした。

 2人の間には火が灯っているため顔はよく見えるだろう。

「知ってるみたいだね」

 なら話は早いと言わんばかりにエリカが顔を近づける。

「ええ、それは勿論!」

「ならいいや、お父様たちを助けたいから、ここで静かにしててね」

 それだけ告げると衛兵から距離を取る。

 そして変わるようにして白翼と鬼影が衛兵の監視についた。

 指示も仰がずに適切な行動が取れている。

「ぁ、待ってください!」

 エリカが悠斗とノアに近づき、間もなく転移することを悟ったのか衛兵が大声で呼び止めた。


「なに?」


 声のトーンなど、話し方は普段と変わらないが、今のエリカは案外心に余裕がないのかもしれない。

「……いえ……鍵は――!」

 と、言いかけてそこで一旦言葉を飲みかけるが、

「牢屋には鍵がかかっています。恐らく3階のどこかの部屋の鍵棚にかけてあると思います」

 親切心か、揺動か、そんな恐怖の2択を迫られる言葉を受ける。

 どちらにせよ、悠斗が感じるのは嘘ではないと言うことだけ。

「……ありがとう」

 エリカはその言葉を残すと転移を促す。

 3人は再び手を繋ぎ合わせて能力を共有し地下牢入り口前へとテレポートした。


 衛兵は脱力し、その場にグダッと体を放り投げていた。




 牢屋の入り口は本当に鍵が掛かっていた。

 人の気配も防犯カメラも丁度ないので、この時だけ透明化を解除している。

 3人は扉の側に固まって小さな作戦会議。

「小窓から中が見えないようになってやがる。ノアのテレポートが使えないようじゃ、本当に鍵を探してくる他なさそうだな」

「だねー」

「そうですね」

 あの門番の言葉を信じるなら3階。

 しかし3階、と言うヒントだけでは正直範囲が広すぎる。

「エリカ、鍵の在処に心当たりとかないか?」

 もう少し有力な情報を探して悠斗がそう聞くが、エリカは可愛く小さく「うーん」と唸って、

「ごめん、ない」

 と答えた。

 まあ、国王でもないのに牢屋の鍵のありかなど知るはずないか。

 だとするとここからは……

「先生の方の時間も怖いから、こっからは手分けして3階を回ろう」

 伊龍の足止めの時間も持って1時間程度。

 それまでにケリをつけるのなら、3人固まって探していては間に合わない。

 リスクが高くとも、多少は妥協して進むしかない。

「分かった」

「はい」

 3人は、集合場所を定めて3階まで固まって駆け上がった。

 そしてその後、分散して鍵の探し回った。



 鍵を探す途中、悠斗は嫌な気がした。

 正確には嫌な気というより、不安だ。

 悠斗は気配でいち早く人に気が付けるし、ノアはテレポートと透明化が使える。

 しかしエリカはコピー。

 エリカ1人だけでは危険なのではないか。そんな気がして少し身を震わせていた。

 十分ほどその悪寒を覚えながら走り回ると、牢屋の鍵を発見した。

 よく分からない一室の鍵棚に牢屋入り口の鍵と手錠のマスターキーが入っていた。

 センサー等に細心の注意を払いつつ、悠斗はそれを掴み取り急いで部屋を後にした。

 コアの関係からノアの位置は容易く特定し合流できたが、エリカについては分からないので約束場所である3階階段側の部屋にて待った。

 エリカの到着まで悠斗は終始落ち着かなかった。

 やはり多少の遅れも視野に入れてノアと行動させるべきだったか……だって結局は悠斗が見つけたのだし、それにノアの位置は正確に分かるわけだし……。

 これは悠斗の失策だ……。

 そう考えると余計に落ち着かず期間にも室内を少し歩き回ったりもした。

「っ」


 ガチャッ。


 扉が開く直前、悠斗は人の気配を感じ取り咄嗟に身を顰めるが、扉の向こう側から現れたのはエリカだ。

 少し俯いて顔が見えにくいが、間違いなくエリカ。

「ほっ……よかった……」

 悠斗は最も憂いていたエリカとの合流が叶ったことに安堵し一息吐くとノアの手を取りエリカに近づこうとした。

「っ――!」

 その時、通路から別人の気配。

 恐らく衛兵だ。

 急いで身を隠さないと――


「動くな」


「「っ‼︎」」


 刹那、室内の空気だけでなく、エリカが、悠斗が、ノアが硬直する。

 今の命令、今の言葉一つで、3人が同時に行動を停止し上がる心拍の中入り口を見つめた……。

 否、エリカだけは違った。

 エリカだけは、ゆっくりと顔を上げ、向かい合う悠斗とノアにその顔を見せた。

「――!」

 その眼が、いつもの透き通る瞳が、あーちゃんの能力発動時よりも赤く染まっていた。

 「お前、その眼……」と言葉を発せない。

 動くな、と命令されてしまったから。

 分かる。

 分かるさ、こんな能力、一つしかない。

 …………服従の能力だ。


「ぐっふっふっ」


 薄気味悪い微笑を浮かべ、廊下からひとりの老父が姿を表した。

「っ――!」

 次の瞬間、悠斗とノアはテレポートし、その場から姿を消していた。


 1人、その老父に体の支配権を乗っ取られたエリカを残して。


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